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怪奇浪漫BOX   作者: 座堂しへら
姫君の鬼胎
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49 日没

 季節は移ろい、10月22日。風が冷たく、陽が落ちるのも早くなった頃。

 いつもの様に、うさぎは図書館の7階で、机の上にタブレットとキーボードを置き、執筆を進めていた。エアコンの効かない夏と違い、この季節はこの7階も居心地が良くなっていた。


「金木犀の香りだなー。俺、この匂いきらーい」


 机に向き合うように座り、古谷はのんびりと伸びをする。


「じゃ、窓閉めてください」


「もうちょっと、換気してから。すぐカビ臭くなるんだよ、この部屋」


「古書が、多いですからね」


「ホントはたまに、日陰干しした方が良いんだってさ。ま、なかなかそんな暇ないけど」


 そう言って、古谷は手元の本を開く。数冊積み上げて、時々スマホにメモしている。


「先生は、何してるんですか?」


「ん?ああ、次のZAIYAで行くフィールドワークの下調べ」


「ああ、宮城県の、道祖神調査、でしたっけ?」


「そ。主に地蔵菩薩の調査、て話だけど。数が多くて、絞りづらい。しかも、地蔵っつっても色々あって、いまいち分かりにくいから、定義付けから始めようと思ってさ」


「なるほど。小田先生も、フィールドワークは、事前調査が命って、仰ってましたしね」


「まあ、時間は限られてるからな。なるべく無駄は省きたい、てのはあるな」


「いつ頃、行くんですか?」


「11月上旬には行きたいなー。外の調査だし、あんまり寒いと萎えるっしょ。猫村は?今回はどうすんの?」


「そうですね。近場だし、テスト期間とも、被らないから、行こうと思います」


「了解。そろそろメンバー募集するから、入れとくわ」


「はい。お願いします」


 再びうさぎはキーボードを打ち始める。古谷は資料を眺め、穏やかな時間が過ぎていく。外が暗くなり始め、そろそろ電気を付けようかと古谷が立ち上がった時、彼のスマホが鳴った。


「あ、谷川だ。はい、もしもし?」


『よう、俺だけど』


「オレオレ詐欺かな?」


『違うから!今どこ?学校?』


「うん。学校の図書館。うさぎも居る」


『あ、ホント?じゃあ都合いいかも。ZAIYAで以前行った、折月町おりつきちょうの件なんだけど』


「待って、スピーカーにする」


 スマホの機能を切り替えて、うさぎも聞ける様にスピーカーにする。


「で?折月町がどうしたって?」


『優生さ、今日の新聞見た?地方紙』


「いや。うさぎは?」


「見てないです」


『そこ図書館でしょ?どっかで見れないの?今日のやつ』


「1階のロビーに行けば、数社取ってるから、すぐ見れる」


『じゃ、一回見て!間違いなく載ってるのは、東北新報とうほくしんぽう。地方事件事故のページに折月町の奴、写真付きで大きく載ってるから。じゃ、後でまた電話するわ』


 谷川は、言うだけ言って、通話を切る。古谷とうさぎは顔を見合わせてから、二人で1階のロビーまで移動した。時刻は5時近く。大半の生徒は帰っており、ロビーの人影はまばらだった。


「東北新報、これですね」


 うさぎは新聞を手に取り、二人ロビーのテーブル席に着くと、新聞を広げた。


 地方の事件事故の欄。開いて3ページ目。大きく見出しが踊り、目に飛び込んで来る。


 福島県◯◯市折月町でクマ被害。


 10代女性頭部襲われ死亡。


「これって……」


「昨日、10月21日夕刻、折月町山間地区の竹藪で、近所に住む女子中学生、佐藤小華さん(享年14歳)が、獣に襲われ倒れているのが発見された。頭部の損傷が激しく、駆けつけた救急隊により、その場で死亡が確認されている。傷跡は、獣に噛みちぎられた跡と見られているが、被害者の手には刃物が握られていた事もあり、警察は事件事故両面から、調査を進めている……」


「佐藤小華。真夏ちゃんの幼馴染で、ずっと付き纏ってた奴だな」


「あの、猫の死骸を置いた、犯人」



 我が子の如く可愛がっている氏子の娘を、害する愚かな娘がいる。今すぐ血生臭い行いを止めねば、天罰が下されるだろう。



 朝霞あさか姉妹が見た夢の、行来姫ゆらひめの言葉が思い出される。


「これが、天罰、ですか?」


「分からない」


 古谷は苦い顔で、紙面を見つめる。

 古谷の胸元で、再びスマホが震え、谷川からの通知を知らせていた。


 もうすぐ陽が暮れる。真っ赤な夕日が、空を覆っていた。

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