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怪奇浪漫BOX   作者: 座堂しへら
姫君の鬼胎
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48 パオロとフランチェスカの様に

 仙台聖華学院高等学校も、二学期が始まっていた。


「ほんじゃ、明日は五教科の休み明けテストだからなー。受験とか置いといていいから、俺の名誉の為にお前ら死ぬ気で頑張れよ」


「古谷先生サイテー」


「じゃ、ホームルーム終了。お疲れ」


「古谷先生、今日ひま?世界史準備室でゲームやんない?」


「たった今、死ぬ気でテスト頑張れって言ったトコだが?」


「やるって。後で。それより古谷先生、夏休みの間、めっちゃ課金しただろ!装備一新してるし!ズルくない?」


「あー、それ俺も思った!自分ばっかズルいよね。俺も課金しようかな。ばーちゃんからお盆玉もらったし」


「ダメだっつってんだろ。課金は許さん。課金する掟破りは、破門すんぞ」


「えー?自分ばっかズルい!」


「俺はいいんだよ。大人だから」


「男子何の話してんの?」


「オンラインゲームでしょ?一学期から、先生と一緒にずっとやってるよね」


「えー?先生って暇なの?」


「暇だよね。俺らん中で、一番プレイ時間長いし」


「お前ら馬鹿にすんなよ。俺は忙しいんだ。なんせ今日も図書館の雑用振られてんだわ」


「それ、暇だからでしょ。でも、確かに最近いっつもじゃね?」


「まあ、週一くらい?じゃーな。ちゃんとテスト勉強しろよ、お前ら。愛する俺の為に」


「バカじゃん?じゃーね、先生。また明日ー」


「ういー」


 片手を挙げて教室を出ると、廊下で丁度うさぎと出くわした。


「よう、猫。今帰り?」


 うさぎの学校バージョンである。猫村を名乗り、おさげ髪に黒縁眼鏡。


「先生、さようなら。私は今日は、図書館です」


「あ、ホント?俺も今日、図書館整理の日だわ。じゃ、後でな」


 うさぎはぺこりと頭を下げて、古谷の横を通り過ぎる。古谷のクラスの生徒達が、数人前を歩いていた。


「ねえねえ、古谷っちって、何のゲームしてんの?」


「俺らと一緒にSPWっていう、サバゲーしてるよ」


「まじ?あいつやっぱ働いてなくね?」


「ね。あの人運動できないフリして、ひたすら運動部の顧問回避してるからね」


「うっそ。でも確かに、いっつも運動苦手って言ってるよね」


「あれ絶対嘘だよ。あの人、ウチの高校のバスケ部出身だよ?」


「げ!じゃあインターハイいったの?」


「スタメンかは知らないけど、運動音痴なわけないじゃん?」


「うわー。隠してんだ。汚い大人だなー」


「ねー」


 散々な言われようである。でも、隣のクラスは楽しそうだな、とも思った。文化祭の打ち合わせも、随分楽しそうにやっている様子だった。


ー一緒のクラスなら、良かったのに、な。


 親し気に話す生徒達の背中が、少し羨ましかった。うさぎは一人校舎を出て、敷地内にある図書館に入る。円錐形に似た、奇妙な形の建造物。一階はガラス張りで、自由に使えるラウンジが入り口側にある。多くの生徒達はここで、自由におしゃべりしたり、借りた本を読んだりして時間を潰していた。ラウンジの奥にカウンターがあり、いつもの司書が座っている。うさぎが借りている専門誌は、このカウンターに返却できない。エレベーターに乗って4階まで行くと、ここから先は螺旋階段を上らなければならなかった。いつぞや、古谷が欠陥建築だと嘆いていた。

 最上階の7階。伝承文化資料室及び地質学フロア。いつも通り、人っ子一人いない。


ー少し、暑いな。


 いつもここは、エアコンの効きが悪い。蒸し暑かったので、窓を開けて少し空気を入れ替える。図書館独特の匂いが抜けて、残暑らしい緩い風が入ってくる。

 借りていた本を、カウンターの返却箱に入れて、メモを片手に資料を探す。この部屋の大半は持ち出し不可の為、必要な箇所を選んで、コピーする必要がある。

 数冊選んで、机で中身を確認しながら、付箋を貼っていく。最後にまとめてコピーを取る為だった。そんな作業をしていると、階段を登ってくる足音が聞こえて来た。


「よう、ベアトリーチェ」


「違います」


 会いも変わらず、ふざけた人だ。古谷は端正な顔で、意地悪く笑う。白いシャツが眩しかった。


「テスト勉強は、大丈夫なのか?学生」


「大丈夫かどうか、と聞かれると、大丈夫ではありませんが、締め切りの方がヤバいので、致し方ありません」


「勤労学生は大変だな」


「先生は、今日も図書館担当、ですか?」


「おう。最近は、毎週請け負ってる。俺は真面目な公務員だから」


「どの口が」


「て言うのは冗談で、猫がいるから積極的に請け負ってる。ここなら会っても、やましくないしな」


 古谷は返却の本を手にしながら、小さく笑った。


「暑いですけどね」


 うさぎは首元の汗を拭う。その手を掴み、古谷はそっと爪にキスを落とす。誰も居ないと分かっていても、うさぎは肝を冷やす。


「先生?」


「仕方がない。どうやらここは、煉獄らしいし」


 うさぎの手を離すと、今度は髪に触れる。編み目を辿る様に、長い指が黒髪を弄んでいた。


「私は天国より、煉獄に、堕とされたい、です」


 うさぎの言葉に、古谷は首を傾げる。


「何故?」


「『愛欲の罪』で堕とされた、パオロとフランチェスカの様に。地獄の風に吹かれても、永遠に二人で漂う方が良い、です。天国に行かされて、全てを忘れて来世に飛ばされ、離れ離れになるより、ずっと。浄化も導きも、私はいらない」


「なるほど」


「重いんです、私。ドン引きですね、分かります」


「別に。俺も煉獄で構わないよ。『愛欲の罪』の嵐なら、クレオパトラも飛んでるらしいしね」


「ええ?まさかの、ミーハー」


「それに、永遠に二人で漂うってのは悪くない。『嫉妬の罪』で、両目を縫い付けられるのは、勘弁だけど」


 今度はうさぎの結った髪を掴み上げて、毛先にキスを落とす。悪い顔で、微笑んでいる。うさぎはため息を吐いて、古谷を見上げた。


「『暴食の罪』で、ケルベロスに食べられて、うんこになるのも、けっこう嫌です」


「あー、嫌かもー。こりゃ『愛欲の罪』一択だな」


 やっと髪を離して、古谷は腕を組む。高いカウンターに腰掛けて、南の空を見やる。視線を追って、うさぎも夕空を見つめた。


「嫉妬といえば。折月町の件、どうなりましたかね」


「ああ。昨日も小田先生と話したけど、特に何も言ってなかったな」


「やっぱり、神罰なんて、起こらない?」


「さあねえ」 


 もうすぐ太陽が沈む。窓から僅かに溢れて来た風は、ほんの少しだけ、秋の香をおびていた。


 

 

第1章エンディングまであと3話!(。・ω・。)

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