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「今回の件、小田先生は、どう思います?朝霞姉妹が見た夢の通り、姫神の祟りがあると思います?」
勢司の率直な質問に、小田はビールを飲みながら答える。
「さあねぇ。当たり前だけど、祟りとか天罰とかを、目の当たりにした事はないわー。不幸が続いて、お祓いに行った人とかは身近にいたけど。それだって、気持ちの問題だと思ってるわー。姉妹が見た夢が偶然なのか、意味があるものなのか……まあ、半分半分って感じかしらねー。偶然にしては、ちょっと不自然なくらい、実際起きている事象にリンクしちゃってるしねー」
「あ、意外。そういうの、絶対否定するタイプだと思ってたっす」
勢司が2本目のビールを開けながら、目をまるく見開く。
「んー。どうかしらー。でも、職業柄、不思議な話や、面白い言い伝えとかは、よく耳にするからねー。否定はしないように、してるわねー」
「へえ。やっぱ大人」
「おほほほほ」
「そういう了ちゃんはどうなの?自分のYouTubeチャンネル、オカルト版の癖に、一回も怪奇現象起きた事ないんでしょ?」
さやかの言葉に、勢司は苦笑いして「そうなのよねー」と答える。
「うそでしょ?日本全国の心霊スポット行きまくってるって、言ってたじゃん」
古谷も、妙な顔で見て来る。いうて、一度や二度くらいはあるでしょー、とジト目が語る。グラスを傾ける姿は様になっているが、中身はメロンソーダである。決してキマリきらないのが、この男の良い所なのかもしれない。
「まあ、それが人気の理由の一つでもあるのよ?怖いもの苦手な人でも、安心して見れる心霊ドキュメントチャンネルっつって。まあ確かに、掠った事すらないわな。有名どころは、一通り行ったけど。だから俺は、割と否定派。嫌いじゃないんだけどねー」
勢司はスルメイカを齧って、頬杖をつく。
「なるほどー。それもなんか、虚しいですねー」
今日も穂積は容赦ない。こちらはすでに頬が赤くなり、上機嫌である。
「でも、私が幽霊だったら、絶対、勢司さんの前には、出たくない、ですね。そう、意地でも」
うさぎの率直なコメントに、勢司は飲んでいたビールを吹き出す。
「ちょー、きたねーな!」
隣の谷川が被害を喰らう。
「えー?なんでー?」
「だって、面白おかしく編集されたあげく、お金儲けされちゃうなんて、絶対嫌、です」
「確かに」
「新しいですね。霊目線」
古谷と穂積が同意して頷く。
「ヤダな、確かに。でっかく字幕で『とうとう出たし』とか書かれて、タイトルに初!お目見え!とか書かれんでしょ?俺が霊だったら、恥ずかしくて死ねるね」
「古谷さん、すでに霊なので、もう死ねません」
「もっと悲惨じゃねーか」
「おかるちゃんねるの悪口、やめてもらっていいですか?話し戻すけどさ、幽霊信じてる人、手あげて」
手を挙げる。意外にも、古谷と谷川と、うさぎ。
「えー?谷やんはともかく、古谷さん、意外じゃね?」
「まー、俺らは、見たっつーか、霊以外に説明付かねえっていうか、なあ?」
谷川は、そう言って古谷を見る。古谷も無言で頷く。
「ふふ。うさぎちゃんも、信じてるんだ。かわいい」
さやかは酎ハイを片手に、おっとりと微笑む。
「私の場合は、いて欲しいなあ、です、ね」
「いて欲しい?」
「はい。お盆とかに、帰って来て欲しい、ですね。おばあちゃんなんですが」
「へえ。おばあちゃんに、会いたいのねー。なんか素敵ー」
小田が身を乗り出す。すでに無数の空き缶が後ろに転がっていた。
「はい。私、おばあちゃんっ子でして。いつも、夜寝る前、おばあちゃんに怪談話聞かされて、泣かされてました」
「泣かされてたのー?」
「はい。毎回めちゃくちゃ怖いんです。毎晩聞かされてて、全部で一千一話あるって、言ってました。全部聴いたら、呪い殺されるって。でも、全部聞く前に、おばあちゃん、亡くなっちゃいました」
「一千一話って、シェーラザードかよ」
古谷が苦笑いする。それを見て、うさぎはクスッと笑う。
「今思うと、聞いた事のない話ばっかりなんで、おばあちゃんの、創作だったんだと、思います。全部」
「なるほど。うさぎさんは、おばあちゃん似なんですね、きっと」
穂積も笑って聞いていた。
「ねえねえ、話逸れちゃったじゃん。話し戻して、朝霞姉妹の見た夢の件、もう一度考えようよ。このまま終わるの、何かスッキリしないし」
和やかな空気を蹴散らして、さやかが古谷の袖を、指でクイクイ引っ張る。上目遣いで見て来る視線と指を、さっと外して、古谷は勢司を見やる。
「朝霞姉妹の夢の筋書きによれば、祟りを受けるのは、どうも豆腐屋の娘じゃ、無さそうだよな」
「我が子の如く可愛がっている氏子の娘を、害する愚かな娘がいる。今すぐ血生臭い行いを止めねば、天罰が下されるだろう、だっけか?血生臭いが、生き物の殺傷を指すなら、正に今回のこれだろうな」
勢司が苦々しく言う。谷川も、同意して頷く。
小華と言う、真夏の後ろに引っ付いて、ニタニタと笑っていた少女。
「しかも、今回だけじゃ、無さそうだしな」
今まで続いていた、佐藤家の前に捨て置かれた死体。偶然でないとなれば、かなり事態は悪質である。
「祟り、とは……か」
何が起きるのか。それは、誰にも分からない。
神のみぞ、知る。




