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怪奇浪漫BOX   作者: 座堂しへら
姫君の鬼胎
37/267

37 犯人

「豆腐屋の子じゃ、ないわね。あの子はもっと体大きいし、髪も短いわよね」


 母の言葉に、真夏からの返答はない。瞬きも忘れて、画面を凝視している。誰だか、分かっているのかも知れなかった。


「静止して、アップしてみますね。ちょっと画素は荒くなるけど、顔くらい分かるかも」


 勢司はそう言って、マウスを操作する。画像がアップされて、人物に焦点を合わせる。


 束ねた長い髪、ひょろっと細い手足。表情までは分からない。だが。


「小華ちゃん……」


 真夏は呟く。


「やっぱり」


 母も、娘の隣で呟いた。


「もっと、画像大きくなりますか?」


「うーん。これ以上は無理。もう片方のカメラ、見てみるか。時間帯も分かったし、すぐ拾えるよ」


 勢司は、もう一台のカメラにコードを付け替える。録画した画像を呼び出し、16時22分にカーソルを合わせる。


 県道沿い。佐藤家車庫のシャッター側。まさにカメラを設置していた電柱横から、人物が飛び出して来て、思った以上の至近距離に横顔が映る。近すぎて、分かりづらいが、真夏には十分だった。


「やっぱり、小華ちゃんだ」


 細い眉、腫れぼったい瞼。小さく尖った鼻。


「すぐ近くに住む、本家の一人娘です。この子の、真夏の再従姉妹はとこに当たります。同級生です」


 分からないと思い、真夏の母が説明してくれる。

 真夏も母も、苦い顔をしているが、その顔に驚きの感情は読み取れなかった。どちらかといえば『ああ、なるほど』くらいの物だろうか。


「正直、お母さんは、あんまり驚いてないわ。あの子は、いっつも真夏の事、妬んでばっかりだったし」


 長い付き合いがある。側で見ていた母には、思い当たる節があるようだった。


「たぶん、だけど。ヒロ先輩に、私の悪口吹き込んでたのも、小華ちゃんだと思う。クラスの子達の会話を、ヒロ先輩よく知ってたりするし、他の子が話してた事が、いつの間にか私が言った事になって、ヒロ先輩や妙先輩に伝わってたりとか、しょっちゅうだったし。小華ちゃんもバレー部だから、あの人達と親しかったし」


 でも、と真夏は続ける。


「でも、こんな、嫌がらせの為に動物殺したり、その死体をわざわざ私の家に捨てたり、そこまでする程だとは、思わなかった」


 青い顔で、画面を見つめている。


「ヒロ先輩使って嫌がらせする程度の事だったら、このままずっと、気づかないふりして、なかった事にしておこうと思ってたのに」


 青白い頬に、涙が伝う。


「今までも、若干目に余る行為はあったんです。でも、一応本家の子ですし、親戚筋でもあるので、黙っていましたが。こんな事になるなら、もっと早く戒めておけば良かったんですね。親の責任です。ここから先は、私と主人が、預からせて頂きます」


 母の強い言葉に、真夏は視線をようやく画面から移すと、少し安堵したような表情で、母を見つめた。本当はずっと、助けて欲しかったのかもしれなかった。良い子故、気遣いが出来る故、親の立ち位置を考えて、言い出せなかったのだろうか。



「お邪魔しまーす。古谷君、谷川君!こっちは終わったから、そろそろ宿に移動するわよー!もうチェックインしないとやばいわー」


 玄関から、能天気な小田の声が響く。見ると汗だくになっていた。どうやら祭りの片付けまで手伝っていたらしい。同じく汗だくで、袖捲りした穂積の姿があった。

 後から遅れて、行平さんが帰って来る。神主さんも一緒だった。


「古谷さん達には、本当に重ね重ね、ご迷惑をお掛けしました」


 行平さんは、頭を下げる。釣られるように、隣の神主さんも頭を下げて見せる。


「今の事は、私から主人に説明しておきます。皆様は、お宿の時間もあるようですから、どうかそちらへ向かわれて、しっかり体をお休めになって下さい」


 真夏の母が、力強く言う。


「さっきの画像、今簡単に編集してUSBに保存しといたから。後で話合う時、参考にしてよ」


 さすが本職とばかりに、勢司が手際良く準備していて、USBを真夏の母へ手渡す。


「まあ、早い。ありがとうございます」


「俺達も、今晩は宿に泊まって明日帰るから、また必要な事とか、他に見たい画像とかあったら、連絡してもらって良いですよ」


 勢司は行平さんと連絡先を交わすと、一行は慌ただしく佐藤家を後にした。


 この後は、当人同士、と言うよりは、その親同士での話し合いを、行う事となりそうだった。




「陰湿そうな娘だったもんな」


 勢司がぼやく。神社の駐車場へ向かう道中。祭の観客も、だいぶ引けていて、屋台や舞台もすっかり片付けられている。一抹の寂しさが漂う神社。


「最初っから、胡散臭いと思ってたんだよ」


 もう一度、勢司がぼやく。よほど気に食わないようだった。


「え?もう犯人わかっちゃったのー?」


「はや!」


 その場にいなかった小田と穂積が、二人で目を丸くして驚いていた。


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