表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怪奇浪漫BOX   作者: 座堂しへら
姫君の鬼胎
33/267

33 夏祭り

 八月。折月町。

 夏祭りが、2日に渡り行われる。今日は初日。夕暮れの時刻から、儀式は始まる。


 ちりん……ちりん……ちりん……


 一定のリズムを刻み、鈴が鳴る。鳴らしているのは、列の先頭を歩く、巫女姿の真夏まなだった。


 堂々とした姿で、鈴を鳴らしながら、ゆっくりと歩く。その後ろに、やはり巫女さん姿の、可愛らしい少女が二人続く。小学生くらいだろう。こちらは緊張した顔で、ぎこちなく歩いている。高揚したほっぺたが愛らしかった。聞くと、神主さんの娘さん二人なのだそうだ。

 その後ろに、正装した神主さんが、勺を持って悠然と歩く。そして袴姿で棒を担いだ松永さんと斉藤さんが、護衛のように雄雄しく続き、その後に神楽隊が歩いて行く。神楽隊の中には、横笛を吹く行平さんの姿もあった。


 お堂から神社まで、一行は歩いて行くのだ。神楽行列と呼ぶらしい。


 古谷達は観客として、道端で行列を眺めていた。許可を得て、勢司と小田が、カメラを持って後ろを歩き、時折横や前方に移動して撮影をしている。また、その他にも行列ルートには、固定カメラを数カ所、勢司が設置していた。


 行列が神社に着くと、見学客から歓声が上がった。この町にしては、かなりの人が出ているようだった。砂利の駐車場には、少ないが出店も出ていて、数名の子供達が綿飴やおもちゃを買ってもらって喜んでいる。

 今日は町場の御堂と神社でも、同じ祭りが行われているそうだ。


 大きな石の鳥居の下を潜った先で、真夏が美しく神楽を舞う。演奏は行平さんが。総代親子の共演である。神々しく鈴が鳴り、祭りの始まりを知らせる。

 舞が終わると、今日のところは、真夏もお役御免となるそうだった。


 お辞儀をして、場を離れた真夏に、声を掛ける人物がいた。同じ年頃の背の高い男の子だった。眼鏡を掛けていて、端正な顔立ちをしている。


「あれ?礼人あやと先輩?どうしてこっちに?」


 真夏は驚いた顔をする。


「はは。来ちゃった。真夏ちゃんが巫女さんやるって、聞いたから」


 照れ臭そうに、少年が言うと、真夏も真っ赤になって慌てていた。


「うそ!無理無理無理無理!は、恥ずかしい!」


「あははは。もう遅いよ。しっかり最初から最後まで見ちゃったもん」



「いいなあ、青春だね。甘酸っぱいね」


 谷川が、遠い目で呟く。


「全然羨ましくないし。俺、今青春真っ只中だし。ね?うさぎ!」


「そうなんですか?私には、彼女達が、眩しく見えますね。おかしいな、私も10代なんですけどね」


 たこ焼きを頬張りながら、うさぎは目を細める。先程古谷に買わせたたこ焼きである。


「この後、何があるの?」


 動画を撮り終えて、一息つきに勢司と小田が戻って来る。谷川は、買っておいた焼きそばを二人に手渡しながら、時計を見た。


「この後は、上の神社で太鼓囃子が奉納されて、御神酒が振る舞われるそうだよ。俺と了君は、運転手だから呑んじゃだめだって。その代わり、宿に戻ったら、小田先生が美味しい酒奢ってくれるってさ」


「やった!あれ?そういえば、今日は斎木さん、来てないね」


「うん。名簿に無かったから、今回は不参加じゃない?七海さんは?今日は何時まで大丈夫なの?」


「今日は、婆さんが釜飯作って待ってるから、夕飯までには帰るよ。今、ウチに孫達が遊びに来てるんだ」


「そっかー。もうすぐお盆だもんねー。さぞかし賑やかでしょうねー」


 独り身の小田は、羨ましいわー、と笑う。


「先生も、優生君も、今度ウチに遊びに来ると良いよ。ばあさんも、死ぬ前に一度くらい会いたいって言ってるし。もちろん、うさぎさんもね。マグロが喜ぶ」


「ワン」


 呼ばれたと思い、マグロは元気に返事する。


「谷川君と、勢司君は来た事あるもんな」


「え?うそ、いつの間に?」


 古谷は驚く。初めて聞いた。


「結構前にね。仕事で、こっちの伊達市役所に来た事あるんだ。そしたら、七海さんの家、めっちゃ近いから寄って来なーって言ってくれて」


「俺は、心霊スポットのYouTube撮影で、会津の方に行った時かな。七海さん元気かなと思って連絡したら、泊めてくれた」


「二人とも、ちゃっかりしてるわねー」


「小田先生、皆さん、お久しぶりです」


 真夏が巫女さん姿のまま、こちらに気付いて駆け寄って来る。


「真夏ちゃん、お久しぶりー。神楽、素晴らしかったわー」


「ありがとうございます!」


「さっきのは、彼氏?」


 勢司がすかさず聞くと、真夏は真っ赤になって否定した。


「違います!中学の先輩です」


 目をやると、少年は他の同級生達と一緒に、屋台に並んで談笑していた。


「でも、わざわざ真夏ちゃん見に来たんでしょー?怪しいわー」


「もう!ほんとに違います!」


 その時、チリン、と足元の方から鈴の音が聞こえ、真夏は慌てて振り返った。すると、神主さんの娘が、真夏が神楽で使った鈴を持って、真似して踊っている所だった。


「わあ、かわいい」


 うさぎが口元に手を当てる。


「違ったか」


 真夏は、小さな声で呟き、肩を落とす。


「どうした?」


 不審に思った古谷が問うと、真夏は眉をハの字にして、弱々しく言った。


「先週くらいから、野良猫のネネも来なくなっちゃって」


 ネネとは、神社に住み着いている野良猫親子の、子猫の方だった。前回は、母猫キキの姿を見なくなったと、肩を落としていたが、今度は子猫も来なくなったという。


「親子で、他の縄張りに移ったか、誰かに拾われて幸せに暮らしているのかもしれない」


 そんなに悲観する事は無いと、古谷は言う。真夏は「そっか」と頷いた。


「拾われたって事も、ありますよね。2匹とも可愛かったし。それなら、良かった」


 ずっと心配していたのだろう。真夏は笑うと、古谷に礼を言った。


「私、着替えて来ますね。この格好、けっこう暑いんです」


 元気に神主さんの家の方に走って行った。



ー嫌な感じだな。


 古谷は、踵を返して歩き出す。


「どうしました?」


 うさぎがついて来る。何となく、と言う顔で、穂積も後ろに続いた。


「いや。思い過ごしなら、それでいいんだけどさ。一応確認して来ようと思って。こう見えて俺、結構心配症だし」


 そう言って、真夏の家を目指す。神社とは、目と鼻の先。人目は多い。こんな日を選んで、犯行に及ぶとは思えない。だが。


 今日は、真夏の晴れ舞台。



 佐藤家には、時々獣の死体が落ちている。


『どうも、殺害されている疑いがあるみたいで』


 行平は、そう言っていなかったか。


『今すぐ血生臭い行いを止めねば、天罰が下されるだろう』


 夢の中で、行来姫は、そう言っていなかったか。


 古谷は、苦々しい気持ちで、県道を渡った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ