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怪奇浪漫BOX   作者: 座堂しへら
姫君の鬼胎
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3

 古谷達を乗せたハイエースは、福島県の県庁所在地である福島市で高速を降り、更に東へ向かって1時間近く走っていた。


 車窓から見える風景は、だいぶ緑豊かで、夏の匂いが芳しい。

 時々イノシシ注意の標識が立っていて、いよいよ山の中に入って来たなと思った時、少し視界が広がり、町らしい雰囲気が見受けられた。


 町と言っても、賑わいは無く。

 ぽつりぽつりと民家が並んでいるが、空き家と思しき家も多く見受けられた。庭が荒れ、障子が破れ、外れた雨樋が家主の不在を無言で語る。


 ささやかな商店街は、日に焼けたポスターと錆びついたオーニングが、寂しさを演出していた。

 道ゆく人の姿は無く、途中に見えた小学校からも、子供の声は聞こえなかった。


 街と呼ぶには、営みが乏しい。


 ところがしばし進むと、よく整備された道と、その先に美しい自然公園が突如姿を表した。人口池と、一面のマリーゴールド。人の手がよく加えられていて、整然と並び花開いている。芝生も綺麗に刈り揃えられていて、近所のご婦人が二人ほど、犬を連れて散歩していた。

 その奥にはキャンプ場だろう。バンガローがいくつか並ぶ。家族連れが、数組テントを張って、楽しそうに遊んでいる。今日はどんよりと曇り、風もあり、真夏にしては過ごし易い。よく茂る木々が木陰を作り、涼やかに地面を閉ざす。


「この辺は、温泉地も多くて悩んだんだけど、ここの公園のキャンプ場が良さそうだったから、今回はキャンプにしたんだ。最近やってなかったからね」


 助手席で楽しそうに谷川が話してくれた。


 ハイエースの後部は改造されていて、寝泊まりもできる様になっているが、今回はキャンプセットがぎっちり乗せられている。

 古谷もキャンプは嫌いでは無い。とはいえ、キャンプをするのは大学生以来か。ここは海からは遠いので、肉メインのバーベキューになりそうだった。



 車は山間の道を、さらに進んでいく。気付くと、道の横には穏やかな清流が流れていた。



「若い子が増えたって事は、マダム達は?」


「ときどーき、来るよ。でも、森さんは息子さんの高校受験で忙しくて、豆さんも、子供ちゃんがスポ小入ったからって、土日は来れなくなっちゃったな。二人共、一年くらい来れてないかなー」


「なるほどね」


 優秀な人材でも、主婦は多忙を極める。子供達が巣立ち、また時間に余裕ができるまで、気長に待つしかない。


「最近若者が増えたのは、やっぱ宇崎映画の影響かなー」


「ああ、小説の」


 2年ほど前から話題になっているホラー映画がある。

作者は宇崎清流(うざきせいりゅう)。突如として世に現れた、気鋭の作家だ。


 代表作はBOXシリーズと称され、「死霊の匣」「魂の筺」「言霊の函」「虚空の箱」の4部作からなる。最近あまり見かけない古典ホラー物で、シリーズ全てに出てくる『死相しそうの箱』は社会現象ともなった。10センチ角の箱を見ると子どもが震え上がるという、なかなか迷惑な流行りであった。


 さて、このBOXシリーズ、物語の全体を通して、妖怪や伝承の話しが絡んでくる為、民俗学や地域伝承にスポットが当たり、興味を持つ若者が増えて来たというわけだ。


「まあ、こういうのは、波があるからね。いつまで人気が続くかは、分からないけど」


「呪いとか祟りとか、生け贄とか神隠しとかな。そっち系の浪漫ロマンは、現実には調査してても、ほぼほぼ出てこないもんだけどな。夢みちゃいけない」


「まあ、物悲しい伝承は多いけどね。今回調査する、行来姫(ゆらひめ)伝説も」



 車は、ようやく目的地に辿り着く。


 緋い屋根の、小さくも厳かな御堂が佇んでいた。

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