表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怪奇浪漫BOX   作者: 座堂しへら
姫君の鬼胎
27/267

27 明けの明星

 通報して20分程度で、警察が来た。パトカーが3台程来て、警察官が十人程降りて来る。辺りが騒然とした。近隣住民も、不審に思って様子を見に来ていた。周りのキャンプ客も皆起きて来て、盗まれた物がないか確認し、警察に報告している。


 古谷達も、幸いにも盗難の痕跡は無かった。

 テントが開く音でさやかが目を覚まし、大声を上げたのが功を奏して、犯人は何も取らずに逃走していったのだろうと、警察官も言っていた。

 とはいえ、なんやかんやで事情聴取に時間が掛かり、終わる頃には、空が白くなり始めていた。時計を見ると、4時半と少し回った頃だった。


「あ、古谷さん。あれが金星ですよ」


「おー、あれがヴィーナスか」


 古谷とうさぎは、二人で東の空を眺める。白い星が、暁の空に浮かぶ。


「なんか小さいな。さっきのアンタレスの方が、俺好きだわ」


「あれ、私の心臓です」


「うん?」


「嘘です。お腹空きましたね」


「おー。火おこしてパン焼こうぜ。んで、ハム挟む」


「いいですね。皆さん、食べますか?」


「よく食えんなー。俺はいいや。コーヒー淹れる」


 そう言って、谷川も炭の準備を手伝ってくれる。


「アタシ食べるー。了ちゃんは?」


 小田が元気に手を挙げて、隣を見る。


「俺パス。朝は食べない派。斎木さんと、真夏ちゃんは?」


「私も無理。食欲ないわ。あ、でも、コーヒーは飲みたいな」


「私食べまーす!」


 真夏もすっかり元気を取り戻していた。


「オッケー。穂積、お前は?」


 古谷はクーラーボックスからハムとレタスを取り出して、ぼんやりと立っていた穂積を見上げる。


「食べたいけど、ハムじゃなくて、バターで食べたいです」


「我儘だな、オメーはよー」


 何だかんだで、古谷と穂積は仲良くなっているようだった。それを見て、うさぎが微笑う。


 ハプニングがあったものの、楽しく朝食の準備を進め、食べ終わる頃には、なんと犯人が捕まったと、早々に警察から知らせがあった。




 ※※※※※


「災難でしたね。無事で何より」

 

 真夏を送り届けると、事情を知っていた行平(ゆきひら)が労ってくれた。神社の駐車場に車を停めさせてもらい、佐藤家の門前で、少し話しをしていた。


「いえ。お預かりしたお嬢様を危険に合わせてしまい、申し訳ございませんでした」


「いえ。娘も楽しかった様ですし、何より、犯人がうちの町民だったとか。逆にお客様に迷惑を掛けてしまい、申し訳ございません」


 小田と行平が、互いに頭を下げ合う。

 捕まった犯人は、地元の二十歳の青年二人と、高校生一人だったらしい。


「実は、去年の秋ごろも同じ様な被害があって。その時は、キャンプに来ていた女子大生二人が襲われたそうなんですが、あの時は他にキャンプ客もいなかったし、防犯カメラもないような場所なので、結局犯人わからず終いで。前回も、同じ奴らの犯行なんじゃないかって、もっぱらの噂です」


 行平は顔を顰める。

 警察の話では、金品窃盗が目的ではなく、強姦目的だったそうだ。夕方頃に下見をしに来た時、可愛い子を見つけて、どうしても我慢出来ずに犯行に及んだとか。他にもキャンプ客が来ている中で、ずいぶん大胆な事をした物だった。


「しかも、捕まった犯人の一人の高校生とやらは、あの豆腐屋の娘の兄だそうです。兄も素行が悪いので有名だったので、驚きはしませんがね」


 苦々しく言う行平に、小田は問う。


「そういえば、朝霞姉妹の予知夢の話を、相手方の親御さんへ伝えると言ってましたが、どうでしたか?」


「やっぱりというか、相手にされませんでした。神社のいう事なんか、聞けるかといわれ、ほぼ門前払いでしたね。一応、夢の内容くらいは、無理矢理話して来ましたけど、聞いていたかどうか」


「やっぱり、そうでしたか」


「まあ、やれるだけの事はやって、様子見るしかないですね。たよ様も、それでいいと言ってますし」


 諦めた様に、行平はぼやく。

 

 そんな時だった。遠くから、チリンチリンと、軽快な鈴の音が聞こえる。見ると、神社の方から真っ白い猫がこちらに向かって歩いて来る。音は、猫の首輪に付いている、鈴の音だった。真っ赤な首輪がよく目立つ。


「ネネ!」


 真夏が名を呼ぶと、猫は甘えた声で鳴き、真夏の足に額を擦り付ける。随分太ましい猫だった。


「かわいい。飼い猫ですか?」


 うさぎが覗き込んでも、猫は逃げなかった。


「いえ、野良猫です。神社の山に棲みついてて、しょっちゅう母猫と、朝ごはんをねだりに来てたんですが、最近は母猫を見なくなったので、事故にでも遭ったんですかね。この子一人で、来る様になったんです」


 行平は、愛おしむ様に目を細める。可愛がっているのだろう。


「首輪は、野良猫と思われて、保健所に連れて行かれたら大変だから、私が勝手に付けたの。お母さんのキキにも付けてたんだけど……」


 聞くと、わざわざ2匹とも病院に連れて行って、避妊手術や予防接種まで、世話していたらしい。少し俯いてから、真夏は勢いよく顔を上げた。少し無理をした笑顔があった。


「皆さん、お堂のお祭りには、来るんですよね?」


 真夏が、うさぎに聞くと、代わりに小田が答えてくれた。


「行くわよー。お祭りは、がっつり撮影もさせて貰うわよー。カメラいっぱい回すから、よろしくねー」


「良かった。じゃあ、また後で!ネネ、行くよ。ご飯にしよ」


 元気いっぱい、真夏は手を振って家の中へ入って行く。白猫も、当たり前の様に、その後ろに着いて行く。


「それじゃあ、私も後ほど、伺いますので」


 行平とも挨拶して別れ、一行は御堂へと向かった。


  


 ※※※※※


 御堂に着くと、先に七海とマグロが来ていた。


「七海さん、マグロさん、おはよう」


 うさぎがバイクを停めて、駆けて行く。マグロが振り切れそうなほど尻尾を振って、出迎えていた。今日も緑色の唐草模様のスカーフをして、おめかしさせられている。


「じいちゃん、おはよー。早いね」


 古谷が声を掛けると、七海は元気に返事した。


「やあ、おはよう!マグロが早く行くぞって、煩くてねー。はやくに来て、周りを散歩してたんだよ」


 昨日とうって変わり、よく晴れた空から、ギラギラと太陽が照り付けて来る。


「暑い一日になりそうですね」


「最高35度だってさ」


「うわー」


「午前中とはいえ、大変ですね。お祭りも」


 御堂の中を見ると、すでに神社の関係者が来ていて、正装に当たる白い着物と紫の袴を履いて準備をしていた。


「先生方、早いねー。もう来てくれたの?」


 聞き慣れた声に振り向くと、そこには袴姿にタスキを掛けた老人二人。委員長の斉藤さんと、お堂を管理している松永さんが立っていた。

 手には、長い棒を携えて。


「まさか、棒術奉納って……」


「おじいちゃん、二人がやるのー?」


 小田も驚いて、大声を上げる。


「ひゃひゃひゃ。まだまだ若いもんには、負けんぞー」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ