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怪奇浪漫BOX   作者: 座堂しへら
姫君の鬼胎
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 早いもので、時計の針が夜の8時を回っていた。七海は帰る時間の最後の最後まで、谷川の市役所での苦労話を聞いてやり、アドバイスをしてくれていた。その隙に、古谷とうさぎが炭の片付けを済ませ、さやかと真夏が洗い物を済ませて来てくれる。

 マグロが、おばあちゃんが恋しくなったようで、ゴロゴロ鳴き始めたのを合図に、七海が「また明日の朝ね」と言って、車で去って行くのを、皆で見送った。


 その後、町営の宿泊施設で大浴場が利用出来ると谷川が言い、皆で風呂に入りに行った。キャンプ場から程近く、行って帰っても時計はまだ9時を指している。


 他のテントを見ると、幼い子ども連れのファミリーはすでにテントの中に入り、社会人のグループは、酒盛りをして楽しんでいる。


「さあ、私達も、飲んで食べるわよー」


 お風呂に入って、腹が落ち着いた小田が、お菓子の袋を片っ端からから開け始める。酒とジュースが、クーラーバックの中でキンキンに冷やされていた。


「明日は、皆さん何されるんですか?」


 真夏まなが、コーラ片手にポテトチップスを頬張りながら聞いて来る。


「明日は、お堂で行われる、棒術奉納と祈願祭を見に行くわー。来週も、夏祭りを見に来る予定よー」


「あ、夏祭りなら、私も手伝いで出ます」


「そうなんだー。いつもお手伝いするの?」


「はい。たよ様からお願いされた時は、大体行きます」

 

「他の子も手伝ったりするのー?」


「前は、小華ちゃんも一緒でしたが、氏子を抜けたとかで、去年から私一人になっちゃいました」


「小華ちゃんってのは、一緒に帰って来てた子?」


 谷川は、俯き加減でそそくさと帰って行った少女の姿を思い出す。


「そう。あの感じ悪い子ね」


 勢司せじが口を挟む。真夏は苦笑いしつつも否定しないので、思う所はあるらしい。


「他の町の子も、祭りには来たりするの?」


「いえ、あまり。この地区に住んでる人だけなので、この辺の子ども達くらいですかね、来るのは。それも少ないです。せいぜい3、4人程度です」


 地区に子供はほとんどいない。


「町全体のお祭りでは、ないのねー」


「そうですね。だから、そんなに人は集まらないです」


「へえ。じゃああれは?豆腐屋の娘とやら」


「ヒロ先輩は、町場の人なので、来ないです。町場の人は、多分向こうの神社の祭りに参加するでしょうし、ヒロ先輩の家は、違う宗教だって聞いた事あるので、多分そっちに参加する事も無いと思います」


 町場とは、町北部にある商店街通りの事だという。そちらにも、行来姫の御堂がある。


「なるほどねー。それじゃあ、尚更、朝霞姉妹の夢の話も、取り合って貰えなそうねー」


 先程、真夏の父親である行平ゆきひらが、どうやって向こうの家に話を付けようかと、頭を痛めている様子が見て取れた。宗教の違いもあれば尚更、爪弾きにされる可能性は高い。


「育ちの悪そうな子でしたしね。親もそれなりでしょう」


 豆腐屋の娘を思い出し、酒の力を借りて、穂積の口も悪くなっている。


「ええ?そんな悪そうな子だったの?ちょっと見たかったな。まあでも、しょうがない理由でネチネチ絡んで来てるあたり、性格は相当悪いわよね」


 さやかも顔を赤らめながら、酔っ払い口調になりつつあった。二十歳の彼女は、アルコールデビューして間もない。


「ありゃあ頭も性格もかなり悪いと見た。ついでに顔も悪いから、妬んで真夏ちゃんに絡むんだわな」


 勢司せじの口の悪さは、酒に関係ない。ビール片手に通常運転である。


「でも、もう半年もすれば、卒業して、高校はバラバラになるんでしょ?もうちょっとの辛抱だね」


 谷川が明るく言うと、真夏もにっこり笑って見せた。 


「はい。高校は別になると思うし、あまり会う事もなくなると思います」


「その前に、天罰とやらでどうにかなっちゃうかも知れませんよ」


 穂積が怖い事を言う。悪い顔で笑っている。どうやらだいぶ酔っているようだ。童顔だが、酒癖は悪い。


「それなんですけど」


 真夏は、ちょっと考え込む様に、言葉を飲む。


「何か、気になる事でも、ありますか?」


 うさぎは未成年のため、酒は飲んでいない。冷静な口調で、真夏に問いかける。


「はい。確かに、毎日のように嫌がらせされて、バチ当たれとは思いますけど、なんていうか……」


「例えば天罰として大怪我をしたり、命を落としたりとかするなら、違和感を感じる?」


 ずっと黙って聞いていた古谷が、代わりに言葉を続ける。


「そう、そうです。それ。そこまでじゃ、無いと言うか。もし、死んじゃったりしたら、そこまでは望んでないですし、そこまでの天罰を受ける程、悪い事してるわけじゃないっていうか。せいぜい数人がかりで脅しに来て、言いたい事言って帰ってくだけですし。暴力振るわれたりしたわけじゃ、ないですし」


「まあ、せいぜい骨折の一つや二つで、十分だよな」


 勢司も怖い事を言う。隣で穂積もうんうん頷いている。


「とはいえ、仮に神の奇跡を信じるなら、朝霞姉妹が以前見た夢の後、行来姫がもたらした結果は、放射能汚染から町を守るという、とんでもなく大規模な物だった」


 古谷は空になったマーブルチョコの筒を指の上で器用に回しながら、物語のように語る。


「それと同格とまで行かずとも、朝霞姉妹がまた夢をみたとなると、大事な氏子をいじめたから、仕返しに骨折させてやるわ!なんてかわいい規模の事象とも、考え難い、か」


「その程度なら、わざわざ神託を下すとは思えないよね。しょぼすぎるでしょ」


 谷川は、だいぶペースよく酒を飲んでいるようだったが、顔色ひとつ変わっていない。しっかりした口調で、まともな事を言っている。


「もっと大規模な事が起きる?」


 少し首を傾げて、古谷は谷川を見る。珍しく、子供っぽい仕草だった。谷川は古谷を見返して、うんうんと頷く。


「となると、別の事なんじゃないかな?例えば、『氏子』が真夏ちゃんの事ではなく、他の誰かで、何か大きな事件に巻き込まれている、とか?」


「私も、そう思います。私それほど今、窮地に立たされてるわけでも、困ってるわけでもないですし」


 真夏は頷く。


「真夏ちゃん以外で、大切な『氏子の女の子』ねー。いるのかしら?そもそも子供も少ないようだし」


「神主さんの子供は?女の子?」


「あ、はい。二人、女の子がいます。小学生の」


「んー。明日、神主さんに話聞いてみようかー」


「うーん」


 大人達は唸りながら、酒を飲むのであった。



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