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怪奇浪漫BOX   作者: 座堂しへら
姫君の鬼胎
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 料理の場面では、意外にも古谷と谷川、そして七海が活躍した。バーベキュー以外にも、古谷は海鮮焼きそば(塩味)を、谷川は小麦粉からナンに似たパンを、七海は残り野菜と肉で豚汁を作ってくれて、いずれも美味しかった。


「大満足だわー。今年食べた食事の中で、一番美味しかったわー」


 小田は上機嫌で、膨れたお腹を叩く。


「私、焼きそば美味しかったです!ソースじゃない焼きそば、初めて食べました」


 真夏まなもニコニコしている。

 肉もしこたま焼いて食べて、お腹いっぱいである。


「でもさあ、さっきの話、真夏ちゃん的にどう思った?」


 谷川が聞いているのは、先程の話の続きだった。食事をしながら、朝霞の夢の話を真夏に説明していたのだ。


「そう、ですね。夢で行来姫ゆらひめが仰ってた氏子が本当に私なら、相手はやっぱり、ヒロ先輩かなって、思います。中心になって嫌がらせして来るのは、いつもあの人なんで」


「やっぱ豆腐屋の娘か。さっきの二人組のどっちか?そのヒロってのは」


 勢司せじは、先程この近くで絡んで来ていた二人の事を聞いて来た。散歩途中で見た事は、簡単に小田達にも話していた。


「はい。背の高かった方が、ヒロ先輩です」


「もう一人のちんちくりんは?あれも先輩?」


「はい。あの人は(たえ)先輩で、二人とも三年生です。いつも一緒にいて、どちらもバレー部でした」


「真夏ちゃんもバレー部?」


「いいえ、私はバスケ部です」


「部活繋がりじゃないんだ?じゃあ、どんな理由で絡まれるの?さっきみたいな、あたしの事見て笑ってただろ!みたいな、しょうもない事?」


「そうですね……きっかけは、男子バスケ部の先輩に、声を掛けられて話をしていたのを、見られたのが始まりでした。その後は、靴下の長さとか、髪を耳に掛けてたとか、校内マラソン大会で、ヒロ先輩よりタイムが早かったとか、ほんと、些細な事ばかりです」


「髪を耳に掛けただけで絡まれるって、どんだけー」


 さすがに小田も笑っている。


「私、他知らないから、ちょっと聞いてみたかったんですけど、他の中学校も、こんな感じなんですか?先輩が始終後輩の事監視してて、休み時間の度に嫌がらせしに来る物なんですか?」


「どうなの?うさぎちゃん。最近まで中学生だったでしょ?」


 さやかがうさぎの方を見ると、うさぎは網の上で焼いている玉ねぎの頃合いを確認しながら答える。


「無いですね。基本、三年生になると受験勉強で暇じゃないですし、そもそも下級生なんて、星の数ほどいるので、部活で一緒とかで無い限り、名前を覚える事すら、無いですね」


「あー、普通はね。でも、この辺だと、生徒数も少ないんでしょ?名前くらい、全員覚えられるんじゃない?」


 うさぎの隣で、古谷も真剣にトウモロコシを焼いている。二人共まだ食べるらしい。


「そうですね。小学校から一緒ですし、一学年20名もいないので、だいたい分かります。でも、あんまり受験勉強している人は少なくて、進学校希望の人は、学年に2、3人くらいしか、いないと思います」


「少ないね、一クラスずつしかないんだ。嫌でも人間関係、密になりそうだね」


 谷川はもう腹一杯の様で、古谷のトウモロコシにちょっかいを掛けている。


「人数少ないなら、先生の目も届くんじゃないの?先生助けてくんないの?」


 古谷のもっともな意見に、真夏はちょっと悲しそうな顔で、首を横に振った。


「ウチの中学、今年度いっぱいで廃校になるんです。それもあってか、先生達、あんまり一所懸命になってくれなくて」


「ええー?大人って……」


 谷川も嘆く。


「学校、なくなっちゃうんだ」


「はい。隣町の中学校と、合併します。だから私達の下の代、今の一年生は5人しかいません。あらかじめ、市内の私立中学校に入学したりで、減ってしまいました」


「過疎化の問題は、どこも深刻だよ、ホント。この折月町だって、かなり努力している自治体なんだけどね。それでも、人の流出は止められない」


 谷川が嘆くのも無理はない。何せ彼は市役所職員であり、籍を置くのは、過疎化地域復興支援特別室である。日々、地方都市の過疎問題には、頭を悩ませているのだ。


「ここみたいに、自然公園整備して、キャンプ場作って外から人呼び込んだり」


 このキャンプ場には、古谷達以外にも、2、3組が遊びに来ていて、テントを張って楽しんでいる。


「この後行く入浴施設だって、町営施設だけど、宿泊も安くて人気あるし、食事も高評価がついてる。かなり頑張ってるんだよね」


「でも、実際住んでると、やっぱ不便だなって、思います」


 この町で、14年住んでいる真夏は、真摯に語る。


「食料を買える店は、町に2軒しかないし、コンビニも1軒しかありません。高校へ行くにも、バスで1時間掛かるし、銀行も歯医者さんも、隣町まで行かないとありません。そんなだからか、住んでる人も、なんか陰気で、卑屈な人が多いです」


 子どもらしい、歯に絹着せぬ言いようだ。無理も無い。日々嫌がらせに余念の無い上級生に、それを見て陰湿に笑っている幼馴染。周りがそんなのばかりでは、さっさと出ていきたいとも思うだろう。

メリクリ!

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