21 キャンプ場
一同を乗せたエスティマは、お堂の横にあるスーパーに到着した。
「あー、これが例のお堂か。俺ちょっと写真撮って来ますね。あと動画で、一周回って撮って来ますわ」
勢司は、遅れて来たのでお堂を見るのは初であった。それはさやかも同じだか、彼女はさほど興味を示さず、さっさとスーパーに入って行く。真夏とうさぎも、追いかけるように入って行った。
「了ちゃん、中は鍵掛かってるから、外回りだけでいいわよー」
「うーっす」
小田も店の中に入ると、冷房が良く効いていて涼しかった。小さなスーパーだが、品揃えはかなり良いようだ。野菜も鮮度良く艶やかで、ついつい手が伸びてしまう。
大量に肉と野菜とエビを買って、ついでにお菓子を買って袋に詰める。飲み物は、お酒とジュースとお茶と、一通り揃える。未成年者もいるし、七海も車で帰るので、お酒は飲ませられない。
お金は社会人メンバーが融資してくれるという事で、うさぎやさやか、真夏といった学生達は、支払いを免除された。
「買い忘れないっすか?」
荷物を車に積み込みながら、勢司は小田に確認する。
「炭は車に積んであるし、大丈夫よー。飲み物もしっかり買ったから、安心してねー、了ちゃん」
「オッケー。じゃあ、キャンプ場に移動しますよ」
「あ、勢司さん。私、バイクそこのスタンドに預かってもらってたので、自分ので行きます」
うさぎが、スーパーに隣接するスタンドを指差す。
「あ、やっぱ単車で来てたんだ」
勢司は了解したと、頷き笑みを返す。
「はい。朝ガソリン入れた時に、バイク熱くなると可哀想だからって、松永さんが、コックピットの中に、預かってくれてました」
「へー。こっちのスタンドも、松永さんが経営してるのねー。私も明日、ここでガソリン入れて帰ろー」
「ねえ、何の話?」
さやかと真夏は話の要領を得ず、首を傾げる。
「何って、うさぎさんのバイクの話。彼女、いつもフィールドワークの時は、自分のバイクに乗って、高速かっ飛ばして来るんだわ。知らなかった?」
「え?穂積さんの車に乗って来てたのよね?え?違うの?」
さやかは怪訝な顔をする。何か、納得いっていない様だった。
「あの人東京から来てるだろ?うさぎさんは仙台から来るから、逆方向でしょ」
「そうだけど……」
それでも、甲斐甲斐しく穂積が送り迎えしているのだと、思っていた。それが少し妬ましかったのもあり、さやかも今日はわざと遅れて来て、勢司に迎えに来させたのだ。
「すごい、高校生なのにバイク乗れるんですか?」
真夏も驚いている。無理もない。うさぎとは、3つ程しか年が離れていないのだから。
「バイクの免許は、16歳から、取れます」
「高校生って、高速道路運転していいの?」
さやかも、戸惑いながら聞いてくる。
「一応、年齢規制は、無いです。それじゃ、後で」
うさぎはさっさとスタンドへ入り、奥にいた従業員に声を掛けると、愛車と思しき黒いバイクの元へ行く。何となく、皆無言で、それを眺めていた。
フルフェイスの白いヘルメットを被り、うさぎは慣れた仕草でバイクに跨る。白いTシャツにデニムパンツ姿が、シンプルだが様になっている。
小気味良いエンジン音が上がり、長い髪を靡かせて、うさぎは颯爽と走り去る。
「かっこいい」
真夏がほうっと、溜息を落とす。
「バイク、いいわよねー。特に夏は、気持ちよさそうねー」
はしゃぐ真夏と小田の後ろで、さやかは真顔で立っていた。
斎木さんは、車の免許取るご予定は?
などという意地悪は飲み込んで、勢司は皆に声を掛ける。
「ほら、ガール達、行くよー」
小田だけが、嬉しそうに振り返って、はーいと返事していた。
※※※※
キャンプ場に着くと、古谷と谷川が手際良くテントを立てて、炭を並べて火を起こし、鉄板を温める所まで終わらせていた。
「相変わらず、手際良いわねー!」
小田も関心する。
「すごーい。アウトドア得意なんですか?古谷さん」
さやかは口の前で両手を合わせて、キラキラした目で古谷を見上げる。
「普通ですよ。ああ、炭火は七海さんがやってくれました。早速ですが、斉木さんは野菜洗って、切って来てもらえますか?」
似非臭い笑顔で、古谷が命じる。
「あ、私も手伝います」
真夏も買って出てくれる。
「……じゃあ、行こっか、真夏ちゃん」
「はい。えーっと、お姉さんは、何てお呼びすれば良いですか?」
「私?私は斎木さやか。ふふ。さやかで良いよ」
穏やかに笑む。
「じゃあ、さやかさんで。さやかさん、美人ですね。大学生ですか?」
「やだ、そんな事無いって。今は大学2年よ」
「東京の大学ですか?」
「ええ」
「やっぱり!東京の大学って、こんな綺麗な人ばっかりなんですか?私も東京の大学憧れてるけど、ちょっと行くの怖いです」
「ふふ。普通だよ。人は福島と変わんないよ。違うのは、喋り方くらいかな?」
「それが一番ネックですよ!訛りなんて、一生直らなそうです」
「一生って」
さやかと真夏は、楽しそうにおしゃべりしながら、野菜を抱えて水場へと向かって行った。
「私、何しますか?」
うさぎも、自分の仕事を探す。
「じゃ、俺と一緒にエビの背ワタ取り」
「……はい」
「何、その変な顔」
「いえ。料理とか、するんですね。何か、意外でした」
「俺はあれだ。普段やらないけど、思い立った時だけ、急に手の込んだ料理をやり出すタイプだ。急にラーメンとか、鶏ガラから取りだすあれだ」
「面倒臭いタイプですね。何か、納得しました」
「後でXJR見せてよ」
ヤマハXJR400。うさぎの愛車である。
「いいですけど、お触り禁止ですよ」




