2 古谷優生
男は、腹一杯リンゴを食べて寝落ち寸前のナマケモノの様な表情で、車の助手席に乗っていた。
男の名は古谷優生。
本職は高校教師、世界史を担当している。27歳独身。
引き締まった細身で背も高く、見目は良いはずだが、いかんせん軽薄そうな表情が異性を遠ざける。
ゆるやかに癖のある黒髪がルーズに見せるせいか、教師というお堅い印象の職業とは程遠い。だがしかし、これでも高校教師就任以来、皆勤賞で働き続け、仙台聖華学院高等学校2年7組総合コースの担任を務め上げている、立派な教師なのである。
さて、そんな彼も学校が夏休み期間に入ると、さすがに土日くらいは自由に過ごせるようになる。そのタイミングで、隣でハンドルを握る友人から、約2年ぶりにあるお誘いを受けたのであった。
「ちょっと、何でそんな死んだ鯖みたいな顔してんのよ。今そんな仕事忙しくないんでしょ?」
「別に疲れてねえし。もともとこんな顔だし」
「なら良いけどさ。まあ、着くまであと1時間くらい掛かるし、寝ててもいいよ」
「いや、暇だし運転代わるわ。次のサービスエリア入って、一旦休憩しよう」
「オッケー。次は国見SAかな?休憩にも丁度良いね」
「ていうかちょっと待て、話しを戻そう。さすがに人の顔を死んだ鯖に例えるの酷くない?鯖でも十分暴言なのに、死なす必要あった?」
「まあまあ、そんな事より」
「そんな事?」
「ZAIYAのメンバー、だいぶ入れ替わって新しい顔増えたよ。結構今、若いメンバーが多いんだ。」
マイペースに話しを進めるのは、谷川颯太。古谷と同じ27歳で、大学からの付き合いである。
この男は、本職は市役所勤めの公務員。地域復興課で、地方都市再生に尽力している。
同じく独身で、長身の古谷よりさらに背が高く、ガッチリとした体型をしている。髪も短く、公務員らしい清潔感と、スポーツマンのような精悍さを併せ持つ。
容姿が特別秀でている、という訳でもないが、人当たりも良く、愛嬌もあるので、古谷と違ってよくモテた。だが、谷川には長く付き合っている彼女がいる。彼女も同大学出身の為、古谷も面識があった。古谷の認識で言えば、谷川をも凌ぐパワー系である。
「先生とじっちゃんはいるんだろ?」
古谷が問うと、谷川は待ってましたと応える。
「そこは相変わらず。あだっちゃんと染香さんは、やっぱママになってなかなか来れなくなっちゃったな。ああ、あと、大学生三人入った。今回は不参加だけど」
「お、いいね」
現役学生は、レポートや論文をまとめてくれる、貴重な人材となる。どうしても社会人メンバーは、平日は本職に追われる事となる。資料纏めだけでも、なかなか膨大な時間を要する為、学生達の献身は、必要不可欠であった。
「あと、謎の都会の会社員」
「何それ」
「ああ、あと職業ユーチューバーの人が、今チームの記録係やってくれてるんだ。やっぱ職業にしてるだけあって、撮影も編集も上手いんだよね。頭ピンクだけど」
「ほえー。何か、時代だなー」
「メインはホラー系ユーチューバーらしいよ。心霊スポットに一人で行って、撮影とかしてるらしい」
「物好きだなー」
「優生、お化け苦手だもんね」
「好きな奴、どうかしてるっしょ」
「あ、あとね!現役女子高生が1人いるんだよ!これが、漫画の世界から飛び出して来た様な美少女なんだよね。まあ、なかなか謎が多い子なんだけど」