表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怪奇浪漫BOX   作者: 座堂しへら
姫君の鬼胎
19/267

19

「あの、キャンプにいらした方ですか?」

 

 美少女が問う。大人しそうな雰囲気だが、実際そうではない様で、利発そうな口調で、ハッキリと言葉を発する。


「いや。考古学の調査で来てる者だよ。あ、明日も調査するから、確かに今日はこのキャンプ場に宿泊する予定だけど」


 指でキャンプ場を指しながら、勢司は軽快に会話を続ける。


「いいとこだよね、この町は。自然豊かだし、町の人優しいし」


 そう言うと、ようやく少女は笑みを見せた。


「でもさっき、めっちゃ田舎ディスりしてましたよね」


「それはね。あのヤンキーのプライド潰す、武器になったからね」


「あの人達、学校の先輩、ですか?」


 ここで初めて、うさぎが会話に混ざる。その浮世離れした美貌に、少女は一瞬息を呑みながらも、すぐ気を取り直す。何か答えようとして、遮られた。


「あの人達、うちの学校の、三年生ですよ!」


 何故か少女ではなく、一緒にいたもう一人が、いつの間にか隣に来て、嬉々として話し始めた。一重の目が、三日月のように歪む。


「いっつも、真夏まなちゃんに絡んで来るんです!ね、真夏ちゃん」


ーお前も笑ってたろ。


 勢司は、不快感を込めた目で、娘を見やる。卑屈な娘だと思った。


「あなたは?この子の、同級生?」


 うさぎも、笑顔で問う。何故か笑顔が怖かった。


「はい。ウチら家も近所で。幼馴染です!」


 娘は親しげに言うが。その横で、真夏は微妙な顔をしている。聡そうな子だから、とっくにこの幼馴染の性根など、見透かしている事だろう。


「ふうん。見てるだけで、ちっとも助けもしないし、せめて隣に寄り添う事さえ、しないんだね。幼馴染さん?」


 うさぎが、にこやかに問う。やはり笑顔が怖かった。


「それは!ウチ、ヒロさんと同じバレー部なんで、逆らったりすると、後々大変で……」


 ヒロとは、さっきの山猿だろうか?それとも、ちんちくりんの老け顔の方か。


「いいんです。小華ちゃんを、巻き込みたくはないんで」


 真夏は言う。小華を庇うというより、面倒臭いから、いいよ別に、と言うニュアンスが、何となく口調から読み取れた。


「家は近所?送ってこうか?」


「大丈夫です。もう、すぐそこなんで。あそこに見える神社の、すぐ前ですから」

 




 ※※※※


 小田と古谷が佐藤さんの家を出て、駐車場に戻ると、丁度道の向こうから歩いて来るうさぎ達が見えた。マグロのリードを引いているので、散歩に連れて行ったのだろう。うさぎと勢司と穂積、そして地元の学生と思しき2人が、連れ立って歩いている。


「ああ、あの子が真夏まなちゃんですよ。前歩いている方の、可愛らしい子」


 松永さんが指を刺す。近付いて来ると、松永さんと斉藤さんに気づいた真夏が、ぺこりと頭を下げた。神主さんの姿は無い。まだ佐藤家で、行平ゆきひらさんと話しを続けていた。


「おかえりー。今日は早かったね」


 斉藤さんはにこやかに迎える。


「こんにちは。今日は夕方から、運動部の先生達ミーティングあるからって、早めに終わったの。こちらの方達は、前に言ってたお客様だよね?お祭り見に来るって言ってた」


「そうそう。途中で会ったのかな?丁度今、真夏ちゃん家に行って、行平さんと話してた所なんだ」


「うちに?」


 真夏が首を傾げる。


「あの!真夏ちゃん、ウチ、先帰るね。バイバイ」


「あ、小華ちゃん、バイバイ」


 小華は、松永さん達の顔を見るなり、挨拶もせずにそそくさと帰って行った。顔を伏せて、手に押していた自転車に乗ると、サッと行ってしまう。県道を少し登った先で、左の小道に入って登って行くと、竹藪で姿が見えなくなってしまった。


「あの子は、氏子を抜けた家の子だから、気まずいんだろうな。一昨年までは、真夏ちゃんと一緒に、巫女さんやったり、祭りに参加したりしてたしな」


「氏子じゃないと、お祭りにも、参加出来ないんですか?」


 うさぎが問うと、松永さんはそんな事ないよ、と首を振る。


「まあでも、あそこんちの親父はプライドが高いから、中々難しいんだろうね」


「氏子を抜けた理由ってのは?」


 何となく聞きづらい事を、古谷が聞いてくれる。


「金掛かるからだよ。神社の維持費も毎年氏子は出さなきゃだし、祈祷代だって、納めるからね。とは言え、一年通しても、一万円ちょっとだよ?大変なのは分かるけど……」


 なるほど、と古谷は思う。プライドは高いけど、維持費は払いたくない。氏子を抜けて責められるのも、生活が苦しいのかと同情されるのも、受け入れられない。そうなると、中々近所付き合いも、難しくなって来るというものだ。


「色々あるのねー」


「こんなに小さな集落で、住んでる人間なんてどんどん減ってるのに、問題は減らないから、不思議だよなー」


 斉藤さんのボヤキに、松永さんが笑う。


「そりゃ、高齢化も伴って、めんどくせえジジババばっかになってんだから、問題なんて増える一方だべ?」


「世知辛いない」


 どこまでも、この老人二人は陽気である。


 西の空が少し赤く染まり始める。

 出ていた谷川の車が、県道を下って来るのが見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ