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怪奇浪漫BOX   作者: 座堂しへら
姫君の鬼胎
18/267

18 佐藤真夏

 うさぎ達が道を進んで10分も経たぬ内に、目的の公園に着く。キャンプ場に入る前に、よく整備された広い駐車場とトイレがあり、その手前にも、小さな花の公園があった。入口には小川が流れ、涼しげな水音が聞こえる。


 良い所だ、そう思うより先に、あまり望ましくない光景が目に飛び込んで来た。


「だから、何スルーしてるわけ?何なのお前」


 女のがなり声。不自然にドスを効かせたような。


「お前さー、今日アタシの事見て、笑ってたろ?」


 こちらも、訛りの混じる若者口調。何となく耳に不快だった。


「……笑ってません」


 ため息が潜むような、弱々しい声が答える。


「嘘つくなよ!見てたヤツいんだよ!」


「こっちには証人いんだよ、証人が!」


「アタシにボール当たったの見て、笑ってたろうがよ」


 中学生くらいだろうか?

 かなり、くだらない内容で揉めている。


 穂積が思わず「しょうもな」と、呟く程には、しょうも無い内容である。

 いや、揉めていると言うよりは、一方的に絡まれている、と言う状況だろう。責め立てている方は、背の高い、ショートカットの女子生徒。目つきが悪く、如何にも気が強そうな風貌だった。もう一人はちんちくりんで、おばさんの様な顔立ちをしている。どうやらこのちんちくりんが、ボールに当たって、それを見て笑っただろうと、責めているのだから、かなりくだらない。

 中学生とは、こんなにも幼かっただろうかと、穂積は懸命に己の過去を思い出そうとしたが、ここまで恥ずかしい過去は出て来なかった。


「笑ってません」


 一方、責められている側は、至ってまともそうな女子生徒だった。癖のない黒髪を一つに纏めた、清楚な少女。見目麗しく、それだけで、あの二人の劣等感を刺激しているだろう事が、容易に想像できた。


 そして、麗しい少女の後ろで、若干距離を取って、我関せずと立っている女子生徒がいる。同じように髪を一つに結っているが、こちらはあまりパッとしない、まあ、普通の少女である。我関せず、という立ち位置の割に、若干ニヤついて見ているのが、勢司にはかなり不快に映った。


「どれ、通りすがりのヒーローが、かわい子ちゃん助けて来ますか。YouTuberはYouTuberらしく、ね」


 そう言って、勢司はスマホで動画を撮り始めながら、少女達に近いていく。


「ちょー!激レアじゃない?これが田舎のヤンキーさんっすか?絶滅危惧種と謳われている、あの有名なヤンキーさんっすか!あざーっす!」


 子ども相手に、ピンク頭が引くほど煽ってくる。


「わー、勢司さんエグいですね。いいぞ、もっとやれ」


 うさぎも、マグロを連れながら後に着いて行き、天使の様な笑顔で、さらにガソリンを投下する。地獄絵図である。


「やばー。インタビューいっすか?ヤンキーさんっすよね?ヤンキーさんっすよね?すご!まだいるんすね、田舎には!この過疎地でヤンキーやるって、どんな気持ちっすか?張り合う相手いないから、真面目そうな一般生徒にからんで、箔つけようって感じっすか?やばくね?恥ずかしくはないんすか?あ、高校生になってからも、勿論そのスタンスで行くんすよね?急に宗旨替えしないっすよね?でも、大丈夫っすか?この辺高校とかないから、市内の高校行くんすよね?駅で見たけど、市内の高校生、あんま田舎くさい人いませんでしたよ?そんな山猿みたいなスタンスで、高校生活、浮いちゃわないっすかね?」


 怒涛のマシンガントークに、一同が凍りつく。


 そりゃそうだ。


 穂積は心の中で叫ぶ。地元の中学生に絡む、頭ピンクのYouTuberなんて、下手したら通報案件である。


「誰だテメェ!キモいんだよ!」

 

 ごもっとも!


「つーか、何勝手に撮ってんだよ!」


「どーもー!YouTuberでーっす!あ?知ってる?YouTubeって!」


「うぜえんだよ!どっか行けよ!」


「やー、さーせん!ヤンキー珍しくって!あれ?スカート、超ロングじゃなくていいんすか?あれ?ヨーヨーとか持ってるんでしたっけ?あ、ところで何でしたっけ?私の頭にボール当たったの見て、笑っただろ!ムキーっ!でしたっけ?ウケる!マジで言ってんすか?ネタ?ネタっすか?吉本新喜劇めざしてんすか?」


「キモすぎんだよ!行こ!」


 流石に、ヤンキー二人組は、身の危険を察して、逃げる様に去って行った。


「ま、こんなモンっしょ。どうだった?」


 笑顔で振り返る勢司に、穂積は苦笑い、うさぎは不満気な顔で応える。


「もうちょっと、攻め込めたと、思います。その靴下の丈、ほんとにそれでいいのか、とか」


 うさぎは意見する。


 意地悪かよ!


 穂積は心の中で叫ぶ。口には出せない。決して。


「お嬢ちゃん、大変だったな。大丈夫か?」


 勢司の声掛けに、少女はホッとした様な表情で、青ざめた顔に少し血の気が戻って来ていた。


「ありがとうございます。ああなるといつも長いので、助かりました」


「やっぱ、いっつも絡まれてるのかー。だろうなー」


 幼い嫉妬心からだろう。目の前の少女は、清涼飲料水のCMにでも出て来そうな、楚々とした少女だ。うさぎ程ではないにしても、学校にいれば目立つだろう。本人に、その気がないにしても。


 地元の中学生だろう。自転車を手で引いていて、ヘルメットを被っている。制服は、ワイシャツの上に紺一色のセーラー服という、もっさりとしたデザインだった。

 もう一人も、同じような出たちで、さっきまで気配を消していたのに、さっそく勢司に興味深く視線を送っていた。



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