12 勢司了
男の名は勢司了。職業YouTuber。
全国あちらこちらの心霊スポットを一人で歩き回り、いつしか導き出した答えは一つ。
ー多分、幽霊なんていない。多分。
こんなにあちこち行ったのに、幽霊には一度も会えていない。幽霊スポットはほぼほぼ行ったのに。ここにいないなら、いったい何処にいるんだ、と思う。
だから、多分いない。
「遅くなってごめんね〜」
派手なピンクゴールドの髪を、黒いカチューシャで留めている。愛用の黒縁眼鏡をくいっと上げて、口の端でニヤリと笑った。
「いいわよー。わざわざ東京から、ご苦労様ねー」
「飯は?まだだったら、食ってく時間はないけど、買って来るといい。車の中で食べれるだろ」
小田と七海の言葉に、勢司は大袈裟に涙を拭うフリをしてみせる。
「やっぱりみちのくチームは優しいっすね。それに比べて、関東チームの冷たさといったら。俺なんて毎回、顎でこき使われてるからね」
「ちょっと了ちゃん?関東の悪口やめてくれる?」
勢司のエスティマから降りて来たのは、もう一人。フワリとした亜麻色の髪に、艶やかなピンクベージュのリップ。フルーティな香水が、鼻をくすぐる。
彼女は、首を傾げるようにして、一同を見た。
「お久しぶりです。小田先生、今回もお世話になります」
「斎木さんも。来てくれてありがとうねー。大学は、休みに入ったのー?」
「はい。昨日から、山形の実家に帰って来ました」
「あら、じゃあ、ゆっくりしてる間も無かったわねー」
「いえいえ。やっぱりこっちに来たら、みちのくチームに顔を出したいですから」
どこまでも愛想良く、女はにこやかに答える。まるでそれが、彼女の責務かのように。
「古谷君、紹介するわー。勢司了君は、さっき噂してたから、大丈夫よねー」
「えー?どんな噂?」
勢司は不安そうに、指で口を押さえる。
「で、こちらのお嬢さんが、斎木さやかさん。東京の大学に通われていて、普段は関東チームで活動をしてるのよ。長期休暇の間は、ご実家に帰られてるから、こっちの活動にも、顔出してくれるのよー」
「へえ。熱心なんですね」
古谷も一応、愛想良く応じる。
「了ちゃん、斎木さん。こちらは、古谷優生さん。仙台で高校の先生をしてらっしゃるのよー。ZAIYAの活動には、学生時代から参加してくれてるわー。ちょっとご無沙汰してて、今回は、2年ぶりの参加になるわー」
「まあ。じゃあ、経験者なんですね。心強いです」
さやかは、強い視線を古谷に向ける。隣で勢司が、ゆるく自己紹介してくる。
「よろしくー、勢司でーす。古谷さんは、俺より年上、年下?」
「年上。優生は俺とタメ」
古谷に代わり、谷川が教えてやる。
「谷やんと一緒?じゃあ26?7か。じゃあ2個上かー」
「古谷さんは、どちらにお住まいなんですか?」
二人の会話を遮って、さやかはもう一度古谷に話しかける。先程から、一度も視線が外れない。
「宮城です。さ、そろそろ移動しましょう。流石に時間がやばくなって来た。昼飯は大丈夫ですか?」
古谷が時計を見て一同を促す。さやかが、一瞬笑顔を消した後、再び穏やかな笑みを浮かべた。
「昼食は、駅で済ませて来たので、大丈夫です。お気遣い頂き、ありがとうございます」
※※※※
「ちょっとー。さっきみたいなのヒヤヒヤするから、止めてよねー」
移動中の車内。助手席でお菓子を食べながら、谷川がぼやく。ハンドルは古谷が握っていた。この車には二人だけ。後のメンバーは、小田の車と勢司の車に別れて乗っていた。
「何が?」
「斎木さんの話、わざとぶった斬っただろ。斎木さん乗せてるのが、鋼メンタルの勢司君だから心配ないけど、やり辛くなるから、あんま刺激すんなよな。彼女、一見物腰柔らかいけど、気難しい子だからさ。関東チームのマドンナって呼ばれて、チヤホヤされちゃってる子なんだ」
「あの手の手合いは、好きじゃねんだよな」
「そりゃお前も、唯我独尊タイプだからだろ」
谷川はねめつける。基本隣のこの男は、他人にあまり興味がない。
「とにかく大人らしく、してろよって事。相手はまだ子供なんだから」
「大学生だろ?20歳くらいじゃねえの?」
「今時の20歳なんざ、まだ子供だよ」
「そんなもんか」
「それでいくと、うさぎさんは大人だよなー。お前の暴走も、華麗に受け流してくれたした」
「ちょっと待て。あれ受け流してたの?困るんだけど。俺本気なんだけど」
必死である。
「何なん?マジで?そんなキャラじゃなかったでしょ?面倒くさいの嫌いだったでしょ?なのに高校教師が生徒に手出すなんて、超面倒臭いよ!?面倒臭い恋愛トップ3に入るよ、絶対!」
「手は出さない」
ーらしくない、よな。やっぱ。
谷川は唸る。
ー大学の頃もコイツの彼女は、みんな竹を割った様な性格の、いわゆる後腐れのないタイプばかりだった。
それでも。
意外と、情に厚い部分もある。キャパシティは試験管より狭いが、一度懐に入れると、案外長く繋がりが続く男なのだ。
ーやっぱ本気なのか?
14年近い付き合いだか、初めての局面に、ただ慄く谷川であった。
「ん?何だ?あれ」
古谷は右側を気にして、車のスピードを落とす。視線の先にあるのはガードレール。白いガードレールに、赤黒いペンキかスプレーの落書き。
『かばのなま』
汚い字だ。子供の落書きだろうか。
「カバの生?」
「野生のカバでもいんのか?」
俄然、理解し難かった。




