116 親しい人
警察が到着して、康太とうさぎは、部屋から出て行った。その頃には、うさぎも落ち着いて、立ち上がる事ができるようになっていた。二人が出ると、既にナタニアは捕らえられていて、部屋の中に数人の警察官が入って調べている様子だった。
「貴方が、通報者の長谷川康太さんですか?」
一人の女性警察官が、こちらに向かって来て、軽く頭を下げてくれた。
「あ、はい!で、こちらのお嬢さんが、部屋に監禁されていた、被害者の子です」
「ご協力、感謝いたします。そして、お嬢さんも無事で何よりです。怪我はありませんか?」
「はい。周りの方々に、助けて頂いたので」
「怖い思いをしましたね。お辛いでしょうが、この後少し、お話をお聞きしても、よろしいでしょうか?すみませんが、長谷川さんも」
「はい。大丈夫です」
「あ、僕も、大丈夫です」
「ありがとうございます。警察署の方に、場所を移動します。申し訳ありませんが、帰りは送って差し上げる事が出来ないので、電車代などをご用意下さい。向こうに着いたら、温かいお茶をお出ししますね。緊張しなくて、大丈夫ですからね」
女性警察官が、優しく伝える。うさぎは、申し訳なさそうな様子で、警察官に話しかけた。
「すみません。私の事情で恐縮ですが、顧問弁護士を呼んで構いませんか?親が身元引き受けに来れない事情がありまして、何か事件等に巻き込まれた場合、身元引受人も兼ねた顧問弁護士が対応する約束になってるんです。弁護士が到着するまで、私は発言する事を禁じられています。その代わり、弁護士が到着さえすれば、聴取に協力する事が可能となります」
「分かりました。弁護士さんと、連絡は取れますか?それとも、事務所が分かれば、私共の方で連絡しますが」
「大丈夫です。どちらの警察署へ向かって貰えば良いですか?」
「仙台東警察署です。捜査一課の熊谷宛にご訪問下さい」
「分かりました」
うさぎと警察官のやりとりを、康太はポカーンとした顔で、眺めていた。
ー顧問弁護士?どういう事?この子、すごいとこのお嬢様とか?
「それでは、行きましょう。弁護士さんとの連絡は、車の中でお願いします」
康太は、生まれて初めてパトカーに乗れるとワクワクしたが、乗せられたのは、普通の車だった。
「パトカーじゃないんですね」
がっかりしながら康太が言うと、警察官は笑いながら謝ってくれた。
「期待に応えられなくて、ごめんなさい。パトカーに乗せて、野次馬達から犯人だと思われたら、たまったもんじゃないでしょう?もう一人のお兄さんは、別の車両で行くけど、同じ場所に着くから心配しないで」
「はい」
車は、ゆっくりと走り出す。わざとなのか、車の中で警察官達は、事件の話はほとんどせず、康太とうさぎの体調を案じたり、お腹は空いてないかとか、昼ごはんを食べてないだろうから、何か準備してあげる。何が食べたいか、など。そんな話ばかりだった。
康太は、何だか夢を見ている様な、フワフワと落ち着かない心地だった。隣に座る美少女も、まるで現実味がなくて。
「ねぇ、さっきのイケメンのお兄さん、探偵か何か?」
だから、小声で聞いてみた。警察が来る前に、姿を消した謎の男。少女とも、ただならぬ関係に思えた。
「そう、ですね」
少女は、少し考えてから、イタズラっぽく笑って答えた。
「言えない職業なのは、確かです」
ーまじかー。こんな話しても、友人達には信じてもらえないかもしれない。突然アパートに、イケメン二人が押しかけて来て、隣の部屋で美少女が監禁されてて、それをイケメンが颯爽と助けて、しかも犯人の部屋から死体が出て来るとか!どんだけ?
「そう言えば」
康太は、ふと思い出す。
「最近、高校生が海に落とされて死んじゃったり、海から女の人の腕が見つかったり、物騒な事続いてましたけど、今回の事件と、何か関係あったりしますか?」
「それは、今から調べる事よ。まだ、分からないわ」
女性の警察署が、正直に答えてくれた。
「ナタニアさんは、どんな罪に、問われるのですか?」
「今確実なのは、死体遺棄。場合によっては……まあでも、予測では言えないの。ごめんなさいね。親しい人だったの?」
「いえ、そういうわけでは」
うさぎは首を振って、少し物悲しげに、目を伏せた。




