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怪奇浪漫BOX   作者: 座堂しへら
シャマンの戯れ
115/267

115 神の贈り物

 古谷は玄関から引き返し、うさぎの元へ戻る。ナタニアは、やはり抵抗する様子もなく、ベッドに腰掛けて傍観ぼうかんしていた。古谷はナタニアに視線を置きつつも、ヒョイとうさぎを抱き上げて、玄関へ引き返す。気丈なうさぎが腰を抜かす程だ。余程ろくでもない物を、見たに違いない。


「隣のお兄さん、悪いけど、この子と一緒に自分の部屋戻って。玄関の鍵掛けて、警察来るまで待ってて」


「あ、はい!」


 康太は、頬を赤らめながら頷く。頼られた事が、妙に嬉しかった。


「ごめんね、巻き込んで」


 目の前の美形がすまなそうに詫びる。


「全然!役にたてて、嬉しいっす!」


 部屋の玄関を開けて中に入ると、抱き抱えられていた美少女も、玄関先に下された。


「うさぎ、大丈夫か?」


「はい。来てくれるって、信じてましたから」


 弱々しく笑う美少女と、それに応えるように、目元だけで微笑む美形と。何だこの映画のワンシーンは、と思いつつも、康太は部屋の中からブランケットを持って来て、少女に掛けてやった。


「ありがとうございます。隣の家の、方?」


「そう。協力してもらった。彼が居なければ、ここまで上手く行かなかった。じゃ、玄関閉めて。あと、お兄さん」


 古谷は、康太の目を真っ直ぐに見据えて、小声で語る。


「悪いんだけど、警察が来たら、俺の存在は隠して。全部、あっちのマッチョがやった事にしてくれる?訳あって、警察に聴衆される訳には、いかないんだ」


ー何だよそれ!やっぱ映画みたいじゃん!かっこよすぎかよ!


「はい!わかりました!」


「え?そう?ありがとう」


 物分かりの良過ぎる康太に、若干引きながらも、古谷は笑顔で返して、玄関を閉める。

 古谷の言いつけ通りに、ドアに鍵を掛ける音がした。これで、うさぎは大丈夫だろう。古谷は安堵した後、すっと鋭い視線に戻る。


「さて」


 再び、202号室の前に戻る。玄関前には谷川が立ち塞がっていたが、もはやナタニアには、逃げる気概きがいも、抵抗する元気もない様だった。


「何があったのか、説明できる?ナタニアさん」


「そうね。うさぎを誘惑しようと思って、部屋に連れ込んだら、同棲している恋人を、見つけられちゃった、て感じかな?」


 冗談めかして、ナタニアは応える。気怠げに、ベッドに座ったままだ。


「その恋人は、どこに?」


「そこ。冷凍庫の中。これは彼女専用なの。思ってたより、綺麗なまま保管は出来なかったけど。見たい?」


「遠慮しておきますって、言いたいけどな。うさぎが見たなら、見ておくよ」


「どうして?」


「見たものが、今後彼女を苦しめるなら、俺も知っておくべきだと思うから」


「そう……どうぞ」


 古谷は部屋の中に、土足のまま入ると、グローブをはめた手で、冷凍庫を開く。中には頭が一つ。悲壮な顔でこちらを見ている。よく眺めてから、古谷は扉を閉めた。


「これが、君が望んだ物なの?うさぎの事も、こうしようとした?」


「ふふっ。こんな物が、私の望み?まさか。私が本当に望んでいた物は……美しい故郷で、人目を気にせず手を繋ぎ、恋人とビーチを散歩する事よ。たった、それだけ」


「ずいぶん、遠い所まで、来ちゃったわけだ」


「そうよ。もう戻れないわ」


 遠くから、サイレンが聞こえて来た。


「来たか。悪い、谷川。後は頼む」


 古谷はそう言うと、腰に刺していたハンマーを谷川に手渡す。


「オッケー。教師が自分とこの生徒と一緒に事情聴取される訳には、いかないもんね。後は任せて。あ、悪いけど、警察署には迎えに来てね。何時間後になるか、知らないけど」


「もちろん。ついでに夕飯奢ってやる」


「当然でしょ。焼肉行くよ。あ、あーちゃんには内緒ね。肉ばっかり食べてると、怒られるから」


「了解。じゃな」


 古谷はさっさとアパートを出て、身を隠す。

 残された谷川は、部屋で呆然としたまま座っているナタニアを、哀れに思った。


「故郷って、どこ?」


「イスラエルよ。テルアビブって町。知らないでしょ」


「うん」


「真っ白で、綺麗な街よ。海も綺麗だし、気候も良いの。観光地としても人気だから、今度行ってみて」


「いいね。新婚旅行で、行こうかな」


「結婚するの?」


「もうすぐね」


「まあ、おめでとう。いいなあ」


「何もかも、諦めるには、早過ぎるんじゃない?」


「前科者よ?しかも、刑務所から出てこれるの、何年後よ。おばさんになってるかも」


「でも、君たちの所の神様は、罪も償えば、許してくれるんでしょ?」


「そうよ」


 ナタニアは笑う。

 サイレンはすぐ近くで止まり、数人の足跡がこちらに向かって来る。


「私の名前ね、ナタニアっていうの」


 ナタニアは立ち上がると、ベッドの棚に置かれていた、赤いリボンを手にとって、腕に縛りつけた。あの日、空愛羅そあらが譲ってくれた、制服のリボンだ。


「ナタニアは、神の贈り物って意味なの。私には、似合わないわよね」


「良い名前だ。両親に感謝を」


「そう?」


 ナタニアは、冷凍庫を開いて、空愛羅の首を取り出した。


 そして、キスをする。

 永遠の、別れになるだろう。


「シャローム。私の最愛。裏切って、ごめんなさい」



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