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怪奇浪漫BOX   作者: 座堂しへら
シャマンの戯れ
114/267

114 やりすぎじゃない

 うさぎの悲鳴が聞こえた瞬間、古谷と谷川は走り出す。急ぎアパートへと戻ると、階段を駆け上った。


『どうして冷凍庫に、人の顔が、入っているんですか?これ、本物、ですよね?』


 少し上擦うわずった、それでも冷静なうさぎの声がスマホから聞こえて来て、古谷は少し安堵するが、その会話の内容は、決して安心できる物ではなかった。


「人の顔?」


 谷川は、顔を引き攣らせながらも、202号室の扉にそっと手をかける。音が鳴らない様に慎重にノブを引き、そしてすぐに手を離す。


「だめ。やっぱ鍵かかってる」


 やはりうさぎは解錠していなかったようだ。諦めて、古谷は隣を見る。201号室。先ほど外から見た時に、男物の洗濯物が下がっていた部屋だ。


「こっちの部屋から、ベランダに回らせてもらおう。203号はおそらく女性の部屋だった。警戒されて、相手にしてもらえない可能性が高い」


 とはいえ、201号室だって、部屋にいるかも分からない。賭けであった。もしダメなら、下から雨樋をよじ登ろうと考えている。


 インターホンを鳴らす。少しの間を置いて、若い男の声が返って来た。


『はーい』


「すみません、下の階の住民なんですけど、ちょっといいですか?」


 古谷は構わず嘘をついた。信じてくれたのか、若い男性がすぐにドアを開けて出て来てくれた。寝起きだろうか、寝癖頭で、眠そうな顔をしていた。



 ※※※※※


 201号室に住んでいるのは、一人暮らしの専門学生だった。名を長谷川康太はせがわこうたという。現在19歳。美容師を目指す青年で、昨日は仲間達と遅くまで、実技試験の練習をしていた。今日も早く起きて勉強しなければならないのに、なかなか起きれずにベッドでウダウダしていたら、インターホンに叩き起こされたのだ。

 インターホンを覗き込むと、見知らぬ男性が二人立っていた。イケメンだ。二人は下の住民だと言う。何だろ?騒音とかの苦情だろうか。心当たりはあった。とりあえず無視も出来ないので、康太は素直に玄関を開けた。


「急に押しかけてすみません。隣の202号室に、俺の知り合いの女の子が監禁されているんです。すぐに、ここに警察を呼んでもらえませんか?あと、もうしわけないのですが、お宅のベランダ通らせてもらえませんか?窓から隣の部屋に押し入ります」


「え?は?え?ホントに?」


 まるでドラマの様な成り行きに、康太は目をぱちくりさせて、混乱したように古谷と谷川の顔を交互に見る。


「すみません、とりあえず、警察呼んでもらえます?俺達だと、ここの正確な住所が伝えられない」


 ガタイの良い方の青年が、柔らかい口調で、しかし真剣な様子でそう言って来る。

 監禁。てことは、誘拐?今このアパートで、事件が起きてるって事?隣に住んでるのは、確か外国人の若い女の人だったはず。何度もすれ違っているが、挨拶すらした事がなかった。


「あ、そうだ。はい!警察ですね!」


 康太は我に返り、すぐに部屋のテーブルからスマホを取り出して、戸惑いながら110とキーをタップする。人生初めての110番通報である。ちょっとだけ手が震えた。


「ごめん、中、通ってもいい?」


 古谷が声を掛けると、康太は慌てた様に、2度頷いた。


「あ、はい」


 耳にスマホを当てながら、康太は古谷を中に誘導し、ベランダの鍵を開けて、窓を引く。


「あ、繋がった!もしもし、警察ですか?」


 通報は康太に任せ、古谷は部屋の中を突っ切る。


「優生!俺は玄関側で張ってるから、中侵入したら、なるはやで玄関の鍵開けて」


「了解」


 古谷は、ベランダに出ると再び靴を履き、ベランダの柵に身軽に足を掛けて上る。そのまま長い足でヒョイと隣のベランダの柵へと移った。隣のベランダとの間には、簡単に破れる仕切り版もあるのだが、それは壊さずに行ってくれたようだ。


「すげえ、映画みたい」


 康太は、通報途中である事も忘れ、それに魅入る。そして次の瞬間、もしこの二人組が嘘をついていて、この人達こそ悪者だったらどうしよう、という考えに行き着いた。


「あれ?もしかして、俺ヤバくない?もしもし、お巡りさん?何でもいいから、早く来て!うそでもホントでも、ヤバいみたい!」


 もはやパニックである。電話越しに、オペレーターの警察官もやや戸惑っているのが分かる。そうこうしている間に、隣のベランダから、ガシャンと窓が割れる音が聞こえた。


「マジかよー!」


『もしもし、大丈夫ですか?』


 電話の向こうで、警察官も心配している。


「あ、そうだった。警察!すみません、ここの住所言うんで、すぐ来て下さい!誘拐みたいです!隣の部屋に、小さい女の子が閉じ込められてるって!いま、男の人が助けに入ったんです!とにかく早く来てー!」


 小さい女の子は康太の勘違いだが、必死さが伝わったのか、警察もいたずらとは捉えず、すぐに向かうと約束してくれた。警察に、通話を切らないように言われて、康太はスマホを耳にあてたまま、玄関に移動する。先程の二人連れの、体付きが良い方が玄関側に残っていた。


「危ないかもしれないから、もしもの時は、すぐに部屋に戻って、鍵を閉めてね」


 緊張した場面のばすなのに、彼は落ち着いた口調で、優しく康太に注意を促す。


ーもしかして、探偵とかかな?だよね!なんかすげえ、場慣れしてるっぽいし!ヤバい!映画みたい!明日絶対、みんなに言う!


 謎の高揚感が、康太を襲う。


ーこれが何とかハイってやつか!


 すると、202号室の扉が急に開いて、康太は「うわっ」と、悲鳴をあげた。


「もしかして、俺、やり過ぎちゃった?」


 扉を開けながら、不安そうに、先程ベランダから隣に侵入して行った男が、奥の人影に話しかけていた。康太がおそるおそる中を見ると、住民の外国人女性と、高校生か大学生くらいの、若い女の子がいた。誘拐されるのも納得の、美少女だった。


「あ、お巡りさん!にっ、202号室の玄関開きました!女の子、無事みたいです」


 康太は安堵して、通話先の警察に報告する。しかし、次の瞬間、部屋の中にいた美少女が、とんでもない事を叫んだ。


「全然、やり過ぎじゃない。生首……この部屋には、死体がある!」


「やっぱお巡りさん、早く来てー!!」


 康太はもう一度、電話口に叫んだ。




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