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怪奇浪漫BOX   作者: 座堂しへら
姫君の鬼胎
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「あれ?でも、あん時の生徒、眼鏡だった気がする」


 容姿までは思い出せないが、確かおじさんがする様な洒落気の無い眼鏡に、おさげ髪だったはずだ。


「はい。学校では、眼鏡してます。なるべく、目立たない様にと、親に言われているので」


「いや、逆に今時眼鏡におさげ髪の方が、悪目立ちするからな。言っとくけど、結構インパクトは強かったからな」


 そこで何かと、記憶の糸が繋がり始める。


「思い出して来た。お前、あれだ。毎回試験後に担任に職員室呼び出されてる、問題児じゃねえか」


「誤解です。職員室に呼ばれるのは、問題のある生徒だけじゃ、ありません」


「じゃあ、何で来てんの?あれ。俺はてっきり、お勉強はできるのに、テストになると白紙で出す、優等生系困ったちゃんかと」


「恥ずかしい思い込み、やめて下さい。ちゃんと書いて出してますし、そんなには、成績悪い方じゃ、ないです。たぶん」


「ラーメン伸びるぞ。食べたら」


 古谷は指でうさぎのトレーを指す。かく言う自分も、谷川達も、話に夢中で食べ始めてすらいなかった。


「あ、はい」


 うさぎは、長い髪を耳に掛けて、ラーメンを慌ててすする。愛らしい横顔に、確かに素顔で学校を歩いていたら、面倒そうだな、と古谷も納得するのであった。



「つまり、ですね。何が言いたいかと、いうと」


 食べ終わって、水を飲みながら。落ち着いた様子で、うさぎは再び話し始めた。


「古谷さんのおっしゃる、一目惚れというのは、勘違いだと、思うんです」


 細い体のどこに吸収されたのか分からないが、彼女のラーメンとカレーセットの皿は、綺麗に空になっていた。更に言うなら、ここにいる誰よりも、食べ終わるのが早かった。あの谷川よりも。


「一目どころか、ボールまで叩きつけられる関係だった訳だもんね」


「谷川。その言い方には、悪意を感じる。いや、一目惚れには違いない。なんかこう、全身走った。電流が。ビビって」


「子どもかよ」


「何とでも言え。俺は直感を信じる」


 そう言って、古谷は何故か自信満々にうさぎを見つめる。


「でも、私、同じ学校の生徒ですよ?ヤバくないですか?ウワサにでもなったら、懲戒解雇まっしぐらですよ」


「大丈夫。そんなへましないし、卒業までは手を出さない。そして俺は、定年まで勤め上げる。お友達からお願いします」


 古谷は、握手の手を差し出す。


「学校の先生と、お友達というのも、変な感じがして、なんかイヤです。なので」


 うさぎは、おずおずと、その手にそっと触れた。細く白い指は、見た目と違って熱かった。


「まずは、チームメイトからという事で、よろしくお願いします」


 


 駐車場に戻ると、七海がマグロを散歩させている所だった。マグロは、先が白い尻尾をプリプリ振りながら、意気揚々と芝生の上を歩き、周りの子どもや年寄り達を喜ばせていた。トレードマークの、唐草模様のチョーカーが、より愛らしさを際立たせている。


「そろそろ行きますか?」


 また折月町に戻り、次は近くの神社を見せてもらい、神主さんと話す時間を設けてもらっている。


「あ、待って。間も無く(りょう)ちゃん着くから、ここで合流する予定なの」


「あ、すっかり忘れてた」


 売店で買ったお菓子を抱えながら、谷川が大きな口を開けた。

 ここは高速のインターチェンジすぐ側なので、合流するのに都合が良い。

 時計を見ると1時丁度。約束の時間は1時半なので、まだ余裕はあった。


(りょう)君は、朝来る時俺が言ってた、現役YouTuber(ユーチューバー)なんだ。東京在住で、ZAIYA関東とみちのく両方の、記録係をしてくれてる」


「へえ。有名なヤツなの?」


「そこそこ有名だよ。『おかるちゃん』て名前で活動してる。メインはホラー系動画で、一人で幽霊スポット行って撮影したりしてる変わり者。でもそういうのだけじゃなくて、地方の無形文化財の真面目な資料動画編集してアップしてたり、なんか、とにかく手広くやってる感じだな」


勢司(せじ)君は、宇崎清流(うざきせいりゅう)の大ファンなんだよ。あ、勢司君っては、今言ってた了君の事ね。宇崎清流に影響を受けたから、ただ怖いだけじゃなくて、形無く伝承される物にも、興味が出たらしいよ。幽霊も伝承も、いわば無形の物だからね。その儚さが、浪漫だよね」


 七海も宇崎清流の本は読んだという。博識な人なので、本は多く読んでいるのだろう。


 道の駅の、広い敷地内をひとしきり歩いたらしいマグロは、大満足で舌を出している。空の雲は分厚く、太陽の光を遮っている為、7月にしてはだいぶ涼しい。どんよりとした重たさが、雨を降らさないかと不安になる。


「雨降りそうですねー。キャンプ大丈夫かな」


 空を見上げて、穂積がしょんぼりする。どうやら、意外にも楽しみにしていたらしい。


「雨の予報ではないから、大丈夫だと思うわー」


 涼しくて丁度いいんじゃない?と小田が笑って、視線を奥へと移す。


「あ、来たんじゃないー?」


 白いエスティマが、ゆっくりと駐車場に入って来る。運転席の男が、こちらに向かって陽気に手を振っていた。

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