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怪奇浪漫BOX   作者: 座堂しへら
シャマンの戯れ
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109 知らない神様

 自動販売機で、温かいココアを買ったうさぎは、一口飲んでほっと息をついた。気付かなかったが、かなり体が冷えて硬くなっていたようだ。


「けっこう、夢中になってしまう、ものですね。1時間、あっという間に、過ぎてました」


「そうだね。それでもやっぱり、真夏と冬の作業は、大変よ。今日は、少し気温が高いから動きやすいけど。寒い日は、手先もカチカチになるからね」


 ナタニアも、ホットコーヒーを飲みながら、冷えた指先を熱い缶で温める。


「割と、女性の方も、多いのですね」


「そうね。朝からいたおばさんは、調査センターの職員さんよ」


「あ、そうだったんですね」


 真ん中辺りで、黙々と土を掘っていた中年の女性。割烹着姿だったので、うさぎはてっきり地元のボランティアだと思っていた。

 文化財調査センターとは、各県や市に置かれる公益財団法人が主となる調査団体である。地域内の遺跡発掘調査や記録、保存を主な業務とし、また展示会の開催や、学校への出張授業など、普及活動も行っている。ZAIYAのような非営利の研究者組織とは異なり、自法人の利益を追求するため、給料が発生する民間組織である。ただし、内閣府または行政庁の公益認定を受けた、福祉や芸術など社会貢献度の高い事業を行う公益事業を行う法人となる。


「色々な職業が、あるんですね」


「そうね。研究職を続けたいなら、どこの組織に所属するかが、結構大事なポイントね。大学に残れれば良いんだろうけど、狭き門よね。日本はあまり研究費にお金使わないの、世界でも有名だもの。お金持ちの国なのに、不思議よね」


「そうですね。あまり、未来への投資は、好まない国なのかも、しれません」


「もったいないわね。せっかく、子供の教育制度が整ってて、確かな学術基盤があるのに。そこから先に伸ばさないなんて」


「ナタニアさんは、どうして日本の大学を、選んだんですか?」


「そうね。日本の大学を選んだってより、日本の古代文明に、興味があったから、かな。日本は、世界的に見ても、民間人の文字普及率が高かったから、色々な文献が日本各地、それこそ農村に至るまで残されてるから、例えば遺跡を発掘したとして、その後の研究や考察がし易いのよね」


「なるほど。遺跡や遺物の追跡。まさに今、ここで行われている事、ですね」


 この先の建物で、古谷達が今、懸命に文献の解読を進めている。それこそ、町村に残る覚え書に至るまで。


「イスラエルの遺跡には、興味ないのですか?それこそ、溢れかえるほどの遺跡と歴史が、あるのでは?」


 イスラエルは、聖地エルサレムから、嘆きの壁、聖墳墓教会、世界遺産のアッコ旧市街、マサダの要塞都市跡など、それこそ石を投げれば遺跡に当たるほど、歴史が渋滞している国である。


「そうね。聖地を首都と主張する国だからね。聖書に描かれる聖なる土地は、たくさんあるわね」


 イスラエルが首都として掲げる聖地エルサレム。キリスト教、イスラム教、ユダヤ教、共通の聖地であり、世界最古の都市の一つ。


「でもね、だからこそ、彼の国における遺跡調査は、聖書の中の物語を、如何に証明できるかが大事。自分達の主張が、宗教感が正しいかを示す為の手段。日本の様に、歴史を謎解く事を純粋に目指す調査とは、少し雰囲気が違う。民族のルーツをかけた、重要な意味合いも含む。だから、とても気をつかう」


「そうなんですね。宗教感も、日本人のそれとは、異なりますでしょうね」


「そう。日本人は不思議。神様信じてるっていう割に、神様が誰なのか、みんな知らない。どうして知らない神様、信じられるの?って、昔は思ってたわ」


「今は、不思議ではない?」


「そうね。日本人らしい、という感想に行き着いたわ。日本人は、新しい物が好き。変わった物が好き。好奇心が強いから、何でも受け入れて取り込んじゃう。神道も仏教もごちゃ混ぜだし、白人も黒人も好きって言う。ゲイやオカマも好きって言う。テレビでは、オカマキャラの芸能人が自由気ままに、好き放題言って楽しんでる。本当の自由な国は、アメリカじゃなくて日本だと、あの頃は思っていたわ。今は、見た目ほど自由ではないって事も、分かってる。日本人は、相手の感情を逆撫でない為に、本音の中にちょっとずつ嘘を練り混ぜて、やり過ごすのよね。だから、日本人の『好き』は、鵜呑みにしちゃいけないの。色々な物を漠然とさせて、濁して、傷つかない様にして生きてる。だから神様も、漠然としているのかしらね。決めてしまうと、困る人や、都合が悪い人達が、いるんでしょうしね」


「どうでしょう?八百万の神が、信仰されている事から分かるように、日本人はあらゆる事象に神々を見て来ました。天体から自然、災害、果ては家の中にあるような、なんて事ない小物にまで、神が宿ると、信じているのです。だから、多様性を好み、悪く言えば、節操が無いように見える、のでは?」


 うさぎの言葉に、ナタニアは優しく微笑んで頷く。こんな事は、とっくの昔に、詳しく調べてつくしているに違いない。宗教について、深く語れない自分を知って、うさぎは不甲斐なく思う。


「確かに、節操が無く見えるわね。正月には神道、お盆には仏教、クリスマスにはキリスト教。何がしたいの、あなた達っては確かに思うけど、不思議な物で、ここで生活してると、それが当たり前になっていくのよね。私だって、夏には夏祭りに行って綿飴わたあめ買うもの」


 うさぎは頷いて、手に持った缶を口に運ぶ。ココアはすっかりぬるくなっていた。



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