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怪奇浪漫BOX   作者: 座堂しへら
シャマンの戯れ
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108 永遠の価値

 調査区画には、既に6人程が来ていて、作業を始めていた。地面が四角い形に1メートル程の深さに掘り下げられていて、その中に人が入って小さなスコップのような物で、黙々と土を掘っている。


「これは、本調査の初期段階。重機で表土を除去して、今は遺物包含層いぶつほうがんそうと言って、遺物の含まれている地層から、遺物を取り除いて遺構を探し出す作業をしている段階。この過程で確認された遺物は、出土地点ごとに収納していくの」


 ナタニアはそう言って、手荷物の中からスコップを取り出してうさぎに渡す。


「これは移植ゴテ。遺物取り出しの作業で使うやつ」


「移植ゴテ、ですか」


「まあ、園芸用の小さいスコップ、かな。掘って削って、線引いて、色々使える便利グッズね。発掘作業には必要な道具」


「なるほど」


「軍手は持って来た?」


「はい」


 言われて、うさぎは持って来た軍手を手にはめる。


「ナタニアさん。あの地面に竹串刺さりまくってるのは、何ですか?」


「あれは目印よ。遺物を見つけたら、目印に竹串を刺すの。竹串は市が大量に準備してくれてるから、多分その辺に置いてあるわ。あ、あれあれ。各自1束持って使ってるわよ」


「すぐに回収する訳じゃ、ないんですね」


「そう。出土した物だけじゃなくて、どこから何が出たかも、すごく大事。だから、出土地点をきっちり記録してから、遺物は回収するの。回収用のポリ袋や荷札も、市から支給されてるわ」


「専門の道具があるというより、日常的に使う道具を、利用しているんですね」


「そうね。やってる事は、園芸や潮干狩りに似てるしね」


「潮干狩り、確かに、雰囲気は一致します」


「さっそく、行ってみましょう」


 2人は、ヨイショと溝の中に降りて、中で作業する面々に挨拶する。


「参加しまーす。よろしくお願いします」


「はーい。宜しくお願いします」


 それぞれから返事があるも、特に自己紹介等は無いようだった。流動的に人が入れ替わるからだろうか。

 参加申請は事前に行っているので、今日は入口の机にあった名簿に、自分の名前を探して、参加した時間を書いて終了。


「あの、腕に赤い腕章付けてる人が、場の責任者。調査センターの人。何かあったら、あの人に報告するの」


「はい」


「よし。この辺り、入ろうか。ゆっくりでいいから、丁寧に土を掘り起こしていって。石か何か判断付かない時は、私に見せて」


「はい」


「うさぎ、この辺りの土と、こっちの土、色違うの分かる?」


「はい。そっちの方が、少し土が赤い、です」


「そう。この土の色の違いが大事。これが遺構。何らかの、建造物の跡。流石に遺構の調査発掘は、専門家がやる」


「あ、もう、遺構って、分かってるんですね」


「そう。遺物が多い所は、遺構が出る確率高い。まあ、当たり前か」


「すごい、ちょっと感動しました」


 うさぎは周りをよく見ながら、ゆっくりと土を掘り始めた。初めは、少し緊張した。


 時間が経つごとに、少しずつ人が増えていった。それでも、気が遠くなる程、地道で大変な作業だった。ひたすら土を掘り、その土をで運び、石が出たら丁寧に掘り起こして、ナタニアに見てもらう。そんな作業を進めて1時間ほどたった頃、ようやく遺物を見つけた。途中から竹べらに持ち替えて、更に丁寧に掘り進める。


「平べったい。土器、ですかね」


「多分そうね。大きいわね」


「お皿、とかですかね」


「さすがにこのカケラだけじゃ、分からないわね。他にも出そうだから、その辺り、丁寧に探して行って」


「はい」


 15センチ程度の、平べったい破片が出て来た。それなりに厚みがある。手に取ると、ずっしりと重たかった。


「これが、遺物」


 おそらく、千年以上前の、生活のリアル。


「これは、すごい、事ですよね」


「これくらいの土器は、あちこちから、ゴロゴロ出てくるから、それほど珍しくはないわよ」


「そう、なのですが」


 その千年という、時の流れに圧倒される。そして、それがまだ地面の中に残っていて、今こうして手にしている事が、うさぎは不思議でたまらなかった。


ー食事で使う、お皿なのかな?千年前も、親が家族の為に料理したり、してたんだよね。美味しく食べてくれるかな、とか、やっぱり、考えてたのかな。


 千年前の暮らし、家、生活。それが、この土に眠っていて、今、もう一度世に出て来たのだ。例え、ただの皿のカケラだったとしても。時を超えて来た事に、変わりはない。


「やはり、すごい事だと、思うのです」


 うさぎが呟き、微笑みながら竹串を地面に刺す。それを見つめるナタニアは、うっとりと目を細めて、唇を舐めた。


「やっぱり、欲しいわ」


 彼女こそが、永遠だ。永遠に手元に置く、価値がある。たとえリスクを冒しても。


「ねえ、うさぎ。1時間以上経ったし、少し休憩しましょう。温かい物を飲んで、ちょっと一息吐きましょう」


「そうですね」


 ナタニアの提案に、うさぎも頷く。昼休憩以外は、時間は特に決まっていない。各々に、自由に休憩を取っていた。


「行きましょう。向こうに、自販機があるわ」



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