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怪奇浪漫BOX   作者: 座堂しへら
シャマンの戯れ
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107 発掘調査

 ここ最近は、天候に恵まれていた。気温は低いものの、今日は朝から太陽が照っていて、ほんのり暖かいように思える。マフラーをぐるぐる巻きにして、耳当てをしているうさぎは、ちょっと防寒対策し過ぎただろうかと、少し後悔していた。とはいえ、今日は屋外での発掘作業。定期考査も近いし、仕事も長篇を書き始め、大事な時期でもあるため、油断は大敵である。風邪など決してひけない。


「それでは、発掘調査チームは、向こうの平原で作業するそうなので、そちらに参加して来ます。お昼休憩に入ったら、連絡しますね」


「おう。気をつけてなー。何かあったら、ちょっとした事でも、すぐ連絡する事」


 まるで保護者のような口調で、古谷は言って、ちょっと心配そうな目でうさぎを見つめた。


「大丈夫です。余計な事は、しません」


 さすがのうさぎも、今日は良い子でいようと心がけている。


「ここで待ち合わせしてるんだっけ?」


「はい。そろそろナタニアさん達もいらっしゃると、思います。寒いので、皆さん先に、建物の中に入ってて下さい」


 ナタニアとの待ち合わせは、9時にこの駐車場であった。もう9時は過ぎているので、間もなくナタニアも来る頃だろう。


「いや、俺は来るまで一緒に待ってるよ。谷川、小田先生と先に行ってて」


「そだな。全員で待っててもしょうがないし、先行ってる。先生、行こ」


「はーい。じゃあ、うさぎさん、また後でねー。お昼何食べたいか、考えといてー」


 小田の呑気な声に、笑顔で応える。隣を見上げると、人相の悪い古谷が、更に怖い顔で向こう側を見ていた。


「あ、ナタニアさん、来ましたね」


 視線の先には、自転車に乗ってこちらに向かってくるナタニアの姿があった。


「待たせたかな?さ、行きましょう。早い人は、もう作業始めてる」


 自転車を駐輪場に停めたナタニアは、小走りに白い息を吐きながらやって来た。


「おはようございます」


「あら?あなた、この間一緒にいた、先生よね」


 うさぎの隣に立つ古谷を見上げて、ナタニアは目を鋭く光らせる。応える古谷も、冷たい眼光のままであった。


「ええ。ウチの生徒を、今日は宜しくお願いします」


 ニコリともせずに言って、古谷はナタニアを威圧する。


「ところで、もう一人の方は?」


 古谷に問われて、ナタニアは「ああ」と、興味なさそうに答える。


「ダリアはアルバイト入ったから、今日来ないわ」


 古谷は少し目を細めて、うさぎを見つめる。うさぎは無言で頷いて『大丈夫』だと伝える。


「それじゃ、古谷先生、行って来ます」


「おう。じゃあ、また昼に。ナタニアさんも、お昼ご飯、よろしければ我々とご一緒にどうですか?」


「考えておくわ」


 古谷と別れて、うさぎとナタニアは作業場へ向かう。


「発掘する場所というのは、どうやって当たりをつける、ものなのでしょうか?」


 うさぎの問いに、ナタニアは嫌な顔一つせず、教えてくれた。


「土器などの、生活雑貨が多く出土する区画は、居住跡の遺構が見つかりやすいかな。でもね、土器が出てくる土地って、割りかしどこにでも、いっぱいあるのよね。畑を耕すたびに土器が出てくるなんて話し、よくあるのよ。その度に発掘調査をいちいちしてたら、予算も時間も、いくらあっても足りないでしょ。だから、何て事ない遺物は捨て置く物が多いんだけど。この辺りは森ごと自然公園として、保護区画に入ってたから、今まで手付かずで放置こそされてたけど、埋め立てられたりせずに、自然保管されて来たってわけ」


「なるほど。時々、大型商業施設の建設や、区画整備などで、土地の誘致後に珍しい遺構が見つかって、揉めている話、聞きますよね」


「まあね。難しい問題よ。大きなお金が動いて、時間掛けて住民説得して立ち退きまでさせて、ようやく誘致が進んだタイミングで、見つかったりするとね。珍しい、歴史的な遺構だったりすると、今度は保存を求める市民団体が勃発したりして。でも開発が頓挫なんてしようものなら、莫大な財政問題を抱える事になるしね」


「街の発展と、遺跡の保存と、両立するのは難しい、ですよね。だから、きちんと遺構の調査をして、記録を残す事が、大事なんですね」


「そういうこと。地味で、途方もない作業が続くけどね。でも、過去から学ぶ事も、たくさんあるしね。新しい発見があると、やっぱりワクワクするわよね」


 ナタニアは笑う。


「ナタニアさんは、日本の考古学に、興味があるのですか?それとも、将来母国のイスラエルに戻って、考古学の研究を、なさるのですか?」


 うさぎの問いに、ナタニアの笑顔が消える。少し目を細めて、静かな声でナタニアは答えた。


「母国にはもう、戻らないわ。さよなら、して来たから」


「さよなら、ですか?」


「そう。シャロームって」


「でも、シャローム(さよなら)には、『またいつか会おう』という、想いが込められていると、聞いた事がいります」


「そうね。ユダヤ人は、何度も離散させられて来た歴史があるからね。だから『約束の地』で会おうと、誓うのよ。争いのない、平和な場所で、別れのない永遠の時を夢見るの」


「シャロームは『平安』の意味も、ありましたよね」


「良く知ってるわね。不思議な子」


 ナタニアはうっとりと微笑んで、うさぎを見る。うさぎは視線を逸らして、前を見た。


「あ、ここですね。調査区画」

ガザ地区の紛争が、1日も早くおさまりますように。

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