106 行方不明者届
「これは、酷いな」
呟いたのは、宮城県警の刑事だった。
生活安全課に確認した所、ここ半年間、仙台市内で行方不明者届けが出されている女性は35人。
「司法解剖結果は、10代から40代程度の比較的若い女性、てな感じでしたよね」
若い刑事がリストを見ながら、年齢で絞っても該当者は10人を上回る事実に眉を顰めて見せた。
「ここから探し出すのは、なかなか困難ですよね」
現状に嘆くと、中年の刑事は「そうじゃなくて」と言って、一枚の紙を若い刑事に渡した。
「その、大西空愛羅て子の、行方不明者届け、見てみろよ」
「はあ」
大西空愛羅。現在行方不明者届けが出されている女子高生だ。年齢は17歳。今までは『一般家出人』扱いで、特に捜索されていなかった。だが、今回港で若い女性の腕のみ引き上げられた事件をきっかけに『特異行方不明者』扱いとなった為、県警が捜索に動き出した。
「これって、親が届出てるんですよね、一応」
「ああ。母親の名前で提出されてる」
「それなのに、娘の誕生日も分からないんですか?しかも、いつ失踪したのかも、正確には分からないんですね。身長体重不明、失踪時の服装不明、容姿の特徴普通って、ホントに親ですか?」
「な。誕生日、日にちどころか、月まで間違ってやがったな。おおかた、学校辺りにとやかく言われて、しぶしぶ届出しに来たってとこだろ。本人は、それ程探す気なかったんだろうな」
届出詳細は、あまりにも情報が少なかった為に、生活安全課が改めて自宅へ伺って、調書を取り直して来たらしい。
「生活安全課の連中の話しでは、自宅は利府町内の一軒家だが、家中家具はどピンクで、父親の存在感ゼロってくらい、影が薄かったってさ。離婚はしてないみたいだけど、父親も帰って来てない可能性あるらしい。母親は、一応パート勤めはしてるみたいだけど、どうにもだらし無い人間のようだ。家の床には、至る所にゴミが散乱していて、異様な臭いがしたと。当然、娘にも無関心で、あまり心配してる風では無かったってさ」
「母親の仕事は、ショッピングモールの清掃員、ですか。父親は運送業。これだけ見ると、至って普通の家庭って感じですけどね。あ、姉がいるんですね」
「ああ。2個上の姉は、高校卒業した2年前に家を出て以来、こちらも消息不明らしい。一応探してみてるが、時間掛かりそうだとさ」
「姉妹は連絡取り合ってて、そちらに身を寄せてる可能性もありますよね」
「それが一番良いけどな。まあ、もう17だし、年齢偽ってガールズバー辺りで住み込みで働いてるなんて事も、考えられるな」
飲み屋のオーナー辺りは、面倒見が良い人間も多いので、事情を汲んで匿っている可能性もある。
「そうなると、探すのも手間が掛かりそうですよね。顔写真とか、無いんですか?」
「自宅にあったのは、中学の卒業アルバムだけだったらしい。今、高校に問い合わせて、友人関係当たってもらうってさ。一応、入学式の集合写真は学校から提供してもらったけど、小さ過ぎると」
「今時の高校生なんだから、SNSに自撮り写真くらい上げてないんすか?」
「アカウントすら持ってなかった」
「まじか」
「あんまり、交友関係も広くなさそうなんだ。親も役に立たねえし、難儀しそうだな」
「そうっすね。写真も撮らない、誕生日も覚えてない、いつからいないのかも分からない。もはや、何で産んだのか聞きたいですね」
若い刑事は、苦い顔で書面を眺めている。
「空愛羅か。名前には、夢いっぱい希望いっぱい、詰め込まれてそうなんですけどね」
「立派な名前だよな。自分の人生のリベンジでも、させようとしてたのかな。姉ちゃんの名前なんて、神凌愛だぞ。世界征服でもする気か?」
「すごいですね。産んで間もないウチは、愛情があったのかも、しれないっすね。なんか、行き過ぎた愛のような気も、しなくもないっすけど」
「どうだか。おおかた、思い通りにならなくて、興が冷めて、ネグレクトまっしぐらってとこか。家からは、娘の私物は学校の教科書くらいしか、出て来なかったらしいからな」
「どうやって、暮らしてたんでしょうね?空愛羅さん」
「暮らせねえから、出てったんだろ。世の中には、いない方がマシな親ってのも、居るんだよ」
「やるせないっすね。それにしても、何か今日めっちゃ語りますね。独身のくせに」
「一言多いんだよ」
2人は苦笑いを浮かべた後、他の行方不明者の書類をめくり始めた。




