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怪奇浪漫BOX   作者: 座堂しへら
姫君の鬼胎
10/267

10 道の駅

 昼食は、松永さんのお勧めで、近くの道の駅まで足を伸ばす。出来たばかりの道の駅で、土曜日ということもあり大勢の人で賑わっていた。聞くと、すぐ側の高速道路も、開通したばかりなのだとか。


「帰りはここから、高速乗ってみよう」

 

 谷川は、わくわくした顔で頭上を走る高速道路を見上げる。男は、新しい道が大好きだった。


「私、知ってたので、こっちの道来ました。すごく、時短になりました。ずっと走ってくと、海の方まで行けます」


 うさぎが、食券を選びながら言う。細い指が、カレーラーメンセットを押した。


「途中から、料金無料なんだそうです」


「へえ。そうなんだ」


 小田と七海は、うどんが食べたいと言って、向こうの飯屋に入って行った。なので残りの若者達は、こちらの広いイートインスペースで食べる事にした。

 すでに古谷と谷川は、親子丼のチケットを購入していた。松永さんのお勧めである。

 最後まで悩んでいたのは、穂積だった。親子丼かカレーうどんか、決めかねていた。悩みに悩んだが、最後は古谷の巧みなプレゼンに流されて、彼らと同じ親子丼のボタンを押していた。


「すごいですね、古谷さん。教師なんてやってないで、営業とかやった方が、才能発揮できるんじゃないですか?」


 うさぎが、胡散臭い物を見る目で見上げると、古谷は首を振ってみせた。


「俺もそう思ってた時期があったよ。就活の頃、大手ハウスメーカーに勤める先輩に聞いてみたら、お前の顔は悪人ヅラだから、物売るのは向いてないって。特に家なんてもってのほかだって。こうして俺は教師を目指す事となる」


「そんな不純な動機で、教師になったんですね。幻滅です」


「ほんとコイツは元は良いのに、残念だよねー。性根の悪さが、顔にも滲み出るのかな」


「谷川君、いい大人が堂々と人の悪口言うのやめようね。しかも本人の前でね」


「陰で言うよりいいじゃない」


 悪びれない。


「いやもう、いっそ陰でやれ」


「仲、良いですね」


「そうか?」


「優生とは、中学からの付き合いだからね!」


 手持ちのブザーが鳴り、古谷と谷川の親子丼が出来た事を知らせる。カウンターでお盆を受け取り、適当に席を探す。その間に、うさぎと穂積の分も出来上がった。


「席、この辺でいいかな?」


「JKは俺の隣で」


 古谷はパンパンと、隣の椅子の座面を叩く。


「JK呼び、やめて下さい、キモイです」


 そう言いつつも、うさぎは素直に横に座った。

 穂積が古谷の前に腰掛けながら、歯軋りしている。


「じやあうさぎさん」


「うさぎでいいです。それと、さっき言いそびれましたが、私、古谷さんと初めましてじゃ、ないです」


 うさぎは、パキンと割り箸を割った。手を合わせて、いただきますと呟く。


「え?そうなの?」


 古谷と谷川は、キョトンとして顔を見合わせる。


「はい。私、古谷さんがお勤めの、仙台清華学院高等学校の、生徒です。一応」


「まじ?」


 古谷が目を丸くする。


「はい。しかも、先生が担任している、総合コースの二年生です」


「あれ?優生も、二年生の担任じゃなかったっけ」


「うん。2年7組」


「私、2年6組です」


「隣じゃねーか!」


 驚愕である。


「はい。何度もすれ違ってますし、都度挨拶もしています」


「えー?」


「なのに覚えて無いんだ。酷い先生ですね」


 穂積がしたり顔で笑う。


「生徒の事、イモとかクリとか言ってるから、こんな事になるんだよ」


 谷川も嘲笑う。


「え?そんな酷い事、言ってるんですか?」


「最低ですね」


 うさぎと穂積は、お口に手を当てる。


「ちょっと待て!何か俺がすげえ最低な教師みたいなってるけどな!ウチは生徒数3000人超えるからな!一学年1000人以上いるんだからな?全員覚えるなんて、無理だから!」


「でも私、隣のクラスですよ」


 ジト目である。


「でも、あれだ!お前、世界史選択してないだろ!」


「はい。日本史です」


「ほらみろ!俺だって、世界史選択の生徒はちゃんと覚えてるし」


「あ、あと。去年の球技大会で、優勝クラス対先生チームでやった時、思いっきり先生の顔に、スパイク叩きつけたの、あれ私です」


「あれお前か!こんちくしょう!あれマジでちょっと鼻曲がったかんな!死ぬほど痛かったし、何の躊躇いもなく叩きつけて来たの知ってっかんな!?」


 蘇る記憶。


「どれ?見してみ?あ、言われてみれば、ちょっと左に曲がってるかもね」


「ホントだ。これって、鼻の骨がずれてるって事ですかね」


 谷川と穂積が、キャッキャしながら、古谷の顔を覗きこむ。同情の気配は微塵も無かった。


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