一年に一度しか会えなかったから
毎日見るカレンダーでも、イベントがある日は目に留まる。
July 7
七夕。
ほとんどの日本人が共有する文化にもかかわらず、バレンタインやクリスマスほどの盛り上がりを見せない日がやってきた。
それでも、子どもの頃は紙切れに拙い字で想いを込めたものだ。
いつの間にか笹を用意する側になっていた。
黄色の紙の大半が文字で埋まったころ、娘に問いかける。
「短冊に願い事かけたかな?」
娘が満面の笑みで頷いた。
「うん!」
「それじゃあ、笹の葉にかけておこうか」
そういいながら既に突き出されている短冊を受け取る。
「それでそのあとはどうなったの?」
娘が拾った笹の葉をいじりながら聞いてくる。話が飛ぶのは子どもによくあることだ。
短冊の紐を結びながら直前の会話を思い出そうとする。
「えーと、どこまで話したっけ?」
「なんで一年に一度しか会えなくなっちゃったのかってところ!」
娘は幼いながらに男女のそれを理解しているのだろうか。
まだわからなくてもいいと思う。
「そうだったね。それじゃあ続きを話すよ」
娘を抱えてソファに腰掛けながら続きを思い出す。
「すごくお仕事ができたのに、結婚してから仕事をしなくなっちゃったんだ。それに腹を立てた親が遠くでお仕事させることにしたから、年に一度しか帰ってこれなくなっちゃったんだよ」
「むりやりおしごと? えー、かわいそう!」
「そうだね。でも、だから一年に一度しか会えなくなっちゃったんだ」
娘が我が身に降り注いだ不幸かのごとく頬を膨らませている。
母親譲りの整った顔立ちは、むしろ愛嬌が増すばかりだ。
「さみしくないのかなー。ぜったいさみしいと思う。」
娘の言葉に深々と頷く。
思わず自分の頬が緩むのを感じる。
「すごく寂しかったと思うよ。」
娘が食い気味に口を開く。
「それでそれで、そのあとはどうなったの?」
娘の顔が期待のようなもので満ちていた。
寂しいだけで終わる話じゃないと信じている目だ。
「その後?」
自分は今、どんな顔をしているだろうか。
娘がじっとこちらを見上げている。
意図せず口角がグッと上がる。
「だからアメリカに住んでいるのさ」
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