ニートと社畜が考える最もコスパの良いカレー
ミホさんの思考は単に考えているものも、アサヒに向かって語りかけているものも、両方ともアサヒに伝わってしまっています。
アサヒの思考はミホさんに語りかけたものしか伝わっていません。
次回投稿は1か月程空きそうです。設定を忘れないと良いのですが。
ミホさんに手伝ってもらい、体に戻る方法を調べているけれどなかなか見つからない。
ミホさんは人を見捨てられないタイプの様で、オレとの同居生活を継続してくれている。
面倒見の良い人と出会えて本当にラッキーだ。
ここで“体に戻れない時点で不幸だろう!”と考えない前向きな所がオレの長所だと思う。
うんうん。
そしてミホさんとの同伴出勤にも大分慣れてきた。
仕事(の見学)は毎日スリリングで怒涛の仕事量に圧倒されているけれど。
社会って怖い…(汗
今日も目が回るような忙しさに(ミホさんは)ヘトヘトになったが、オレ達はスーパーに寄って帰ることにした。
最近分かった事だが、ミホさんは一人ごはんの時は、なるべく自炊をする主義らしい。
今日はカレーを作るみたいだ。
1袋150円のジャガイモ、真剣に最も量が多いものを選んでいる視線は、ベテラン主婦さながらだ。
スーパーの人はこの仕事のプロなんだから、どれもそう変わらない重量であろうことは明らかなのに、よくやるなぁ。
いい加減早く帰りたい。こちらは慣れない仕事(の見学)をして、もうクタクタなんだよぉ。
カバンにひっかけられたキーホルダー(オレ)の眼前には小ぶりの芋が詰まった袋。仕方がないので、適当にオレの目の前にある袋を推してみた。
―オレの目の前のやつ、他の袋より2つは多そうだよ。どうですか?―
〈アサヒは甘いなー。数が多いより、多少少なくても1個1個が大きいヤツの方が狙い目なんだよ。なぜかって?〉
―いや、聞いてないです。―
〈それはね、小さいのが沢山入ってると、沢山皮むきが発生するでしょ?皮むき面積が多いということは、捨てる部分が多いということだから、数が多くても実質食べられる場所は少ないってことなの。ちなみに…〉
聞いていないのに、ミホさんはどんどん話しかけてくる。
これも最近知った事だが、ミホさんは、料理と節約の話になるとしつこくてウザい。
―いや、聞いてないしちょっと長いかな…。―
発想が貧乏なんだよなぁ。言いたいけど言わないオレ、優しい。(機嫌を損ねては困るので、言えないだけとも言える。)
もっと攻めの発想というかポジティブになればいいのに。もしかして社会人には守りの姿勢になる魔法でもかかっているのだろうか。
―ミホさん、お得なジャガイモを買うことに時間をかけるのって、結果的には損してませんか?その時間を時給に換算したら、千円とかよく分からないけどそれ位にはなるのかな。だとすると適当に買い物を切り上げて、時間短縮するのが結局は一番の節約かな~って思ったんですけど。―
〈甘いな、アサヒ氏。調理段階で圧力鍋を使えば時間は短縮できる。よって買い物では一番お得な
商品を選択する事で、2つの視点から節約ができるのだよ。どうだ、君にこれ以上の節約が思いつくかね?〉
え、急に口調変わった…。
節約議論にスイッチ入れちゃったのかな、失敗したなぁ~。
―節約ってあまり考えたことが無いんですけど、パッと思いつくコスパの良いカレーはレトルトかなぁ。―
〈どういう事!?出来合いの商品なんて、手作りに比べたら確実に割高じゃん。それに、レトルトって自炊じゃなくない?お姉さんびっくりしたー!!って言うか、働いてないのに節約しないってのにもびっくりしたー。〉
―ミホさんは頭が堅いなー。働いてないという所はスルーするとして、カレーを作るのに使った時間を仮に2時間だと考えて時給に換算すると2~3千円位かな?レトルトを買えばその金額がまるまる節約になるという訳です。それに、レトルトは温めて食べるから料理です。オレ的には熱を加えれば、それすなわち料理です。―
〈アサヒの家事能力の低さwww加熱したら料理って、そんな考え方聞いた事ないよ~。確かに私よりは頭柔らかいかもね、そんな発想私は絶対出せないし。でも、節約して時間が空いてもやる事が無いからダラしちゃうかもー。〉
―時間があれば、趣味とか気晴らしとかできますよ?―
〈趣味とかってお金かかるじゃん。そこが悩みどころだよねー。老後資金貯めたいし。〉
うーん、思考が守りなんだよな~。
毎日ヘトヘトになるまで頑張っているミホさんには、もっと今を楽しむ権利があるとオレは思うけれど。今度何か楽しい事を見つけて誘ってあげよう。
―お金かかる趣味もありますけど、少し位いいじゃないですか。あとはミホさん真面目だから、勉強や資格取得はどうですか?アロマ検定とか女子に人気ですし、仕事で使えそうな資格も未来への投資と考えれば無駄にならないですし。―
〈なるほどねー。と言うかアサヒの口からアロマって単語を聞く事があるとは思わなかったからちょっとびっくり。女子力とは無縁だと思ってた。〉
―オレは、ニートですよ?ツイッターとインスタ巡回警備する時間は誰よりもありますから。―
〈遂にニートって認めたなーwww〉
―うわ、そういう事?節約の話かと思ったら、完全にハメられたー。オレはニートじゃなくてブルジョワジーです!!―
〈じゃあ、そういう事にしておこう。ごめん、アサヒの自滅って結構レアで嬉しいかも。〉
―不服ですけど、喜んでもらえたなら何よりです。―
〈ちなみに、私の時間をお金で表すとして、千円は無いよ~。社会人の残業代は時間当たりの給与より1.2~1.3倍高いはず。だから、アルバイトの最低時給と同程度と思われるのは心外。そこは社会人として謎のプライドあるかも。〉
―そうなんですね。残業代って高いんですね勉強になります。ちなみに、英語のcookという単語には、加熱調理をするという意味合いがあります。なので、加熱したら料理という考え方は世界的には割と普通です、ミホさんが知らないだけで。―
熱い議論という名の上げ足の取り合いを行っていたら、蛍の光が流れ始めた。
結局この時間が節約的には一番ダメだったような気がする。
でも、ミホさんしか話し相手がいないオレとしては、色々な意味で大切な時間だ。
ミホさんには、しばらくの間は時間の節約はできないと覚悟してもらおう。
慌ててレジに走ったミホさんの買い物カゴには、ジャガイモと3袋入りのレトルトカレーが入っていた。
---2日後---
〈じゃじゃーん。レトルトカレーがコスパの良い料理とは断固認められないから作ってみたよ。これならレトルトが売ってないから、圧力鍋で作った私の料理が実質一番コスパ良いって事になるよね?〉
ミホさんが自慢げに見せてきた皿の中身はどう見ても肉じゃがだった。
んん?どういう事だ?
オレは一瞬思考がフリーズして何も言えなかった。
この一瞬の遅れが仇となり、オレとミホさんが考える一番コスパの良いカレーは、肉じゃがということに決まった。
なぜなんだ!?