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式神の報告(ヒロ視点)

 春が来た。

 あの余命宣告をくつがえして、二回目の春。

 ぼくは変わらず元気に過ごしている。



 ぼくは目黒(めぐろ) 弘明(ひろあき)

 この京都の霊能力者を束ねる安倍家所属の能力者。

 主座様直属の『水』の『霊玉守護者(たまもり)』。

 現在高校一年生。


 はとこのハルは京都でも有数の名家であり霊能力者を束ねる安倍家の次期当主であり『主座様』と呼ばれている。


 実はハルは転生者。

 前世の記憶を持っている。

 それだけならこの京都にはけっこういる。

 でも、ハルは特別な転生者。

 なんと今が十回目の人生だという。すごいよね。



 そんなハルはちいさい頃から安倍家の仕事をしている。

 ぼくに修行をつけながら、自分も修行しながら、学校にも行って仕事もしている。

 ホントすごい。


 中学二年生の春に『(まが)』を浄化し、『十四歳まで生きられない』という余命宣告をくつがえしたぼくは、それからハルの手伝いをしている。


 それまでもお手伝いはしていたけれど、もっと本格的なお手伝い。

『ハルのおまけ』じゃなくて、ちゃんと『ぼく』として手伝っている。


 ぼくの余命宣告をくつがえすために、ハルはものすごくがんばってくれた。

 ぼくがつらくて泣いても毅然として修行を続けさせたし、ココロが折れそうなときは一緒にいて支えてくれた。


 ぼくは、ハルに恩がある。

 だから、これからはぼくがハルを支えたい。

 それがどんな形になるかはわからないけれど、少しでもハルの役に立つように、今できることを少しずつがんばっている。




 高校一年生になったけれど、ぼくらの学校は中等部からの持ち上がりだからそんなに大した変わりはない。

 高等部からの入学組がクラスに数人いるくらいで、あとは勉強の内容が難しくなったくらい。


 部活は入っていない。

 さっさと帰って仕事しないといけないから。


 今日も学校から帰ってすぐに御池の弁護士事務所で仕事をしていた。

 ぼく達の自宅のマンションの二階・三階にあるこの弁護士事務所は、主に安倍家に関する業務を取り扱っている。

 今はまだ学生で次期当主という扱いのハルだけど、業務の半分以上はもう引き継いでいる。

 だからこの事務所の一角にハルの仕事部屋が設けてある。



 今日もいつものように二人で書類仕事をしていた。

 すると、式神が一体飛んで来た。


 ハルは数体の式神を使い、常に市内を巡回し探索させている。

 なにか異変があったときにいち早く気付けるように。いち早く駆け付けられるように。


 そんな式神の一体が、うれしいのを隠しもしないで、文字通り飛んで来た。


「主座様! 見つけました!」


 ガタッと立ち上がったハルは「詳細報告」と短く告げた。

 こころなしかハルもうれしそう。なんだ?



「リカ様を――奥方様を、見つけました!」



 ………奥方様?

 て、なに?


「……そっちか」とつぶやくハルは明らかにがっかりしている。

 そこにちょうどハルの父親のオミさんが入ってきた。


「……どうかした?」


 オミさんは霊力がない。

 だから、式神が見えない。


「ああ、なんでもない。気にするな」

「気にしてください! 奥方様が見つかったのですよ!

 すぐにお迎えにあがりましょう!!」


「で、どうした。オミ」

「主座様ぁぁぁぁ!!」


 式神を無視してオミさんと話をしようとするハル。


「ヒロ殿も言ってください!

 奥方様が見つかったんですよ!? すぐにお迎えにあがるべきでしょう?! そうでしょう!?」


「ええと、その『奥方様』というのは、どなた?」


「『奥方様』?」

「ヒロ」


 ぼくの質問は聞こえたオミさんに、ハルがちいさくぼくをとがめる。


「主座様の奥方様です! 今風に言うなら、奥さんです! 妻です!」


「ハルのつま」

「ヒロ」


 さっきよりも強くとがめられたけど、ぼくは呆然としてしまって聞いた言葉がそのまま口に出てしまう。


 え?『つま』って、あの『妻』? ハルに?


「主座様が初代からこれまで九度、妻とされてきた方が生まれ変わっておられるのを、見つけました!」


「つまり、前世の妻?」

「はい!」

「これまでの九度の人生、ずっとその女性と結婚してるの?」

「そうです!」

「すごくない?」

「すごいです!」

 うれしそうな式神。尻尾があったらブンブン振ってるの間違いなしにグッと拳を握る。


「え? 何歳(いくつ)?」

「十二歳。中学一年生です」

「中学一年生……三歳(みっつ)下か。どこの子?」

「それはまだ」


 そう話していたらまた別の式神が飛んできた。


「ご報告致します! 奥方様は現在、九条家にお生まれです!」

「九条家。どこの九条家?」

「主座様の祖母にあたります、優華(ゆか)殿のご実家の九条家です。

 優華殿の兄上の孫にあたります」


「ハルのお祖母さんのお兄さんの孫……ということは、ハルのはとこになる?」

「そうですね」

「お名前は?」

「九条 莉華(りか)様です! また『リカ』様です!」

「九条 莉華様」


 ポカンとしたままただただ復唱した。

 そこでふと気になった。


「その方、前世の記憶は?」

「お話していないので確定できませんが、おそらくありません」

「ないの? なんでわかるの?」

「これまでも何度も主座様の妻になっておられますが、いずれも記憶はありませんでした」

「今までもなかったからおそらく今回もないだろうと……なるほど……」


 そしてまたふと気がついた。


「その方を探すのは、ハルの命令?」


 ハルがずっと妻が好きで、今生も『会いたい』と願って探させていたんだろうか。

 もしかして、ぼくがハルの邪魔をしていたんだろうか。

 そんな心配をしたけれど、式神達はあっさりと「いいえ」と言った。


「奥方様を探し、主座様の元にお連れするのは、前世の奥方様からの依頼です」


「前世の奥さんの依頼?」

「はい」


 そして式神達は口々に教えてくれた。


「奥方様はとにかく主座様がお好きで」

「主座様も奥方様がお側におられるときはお(らく)そうで」

「『死んでも幽霊になって主座様のお側にいる〜』とおっしゃっておられました」

「『根性で生まれ変わる』とも」

「『絶対に主座様に釣り合う年齢で生まれ変わる』とも」



 ……………なんだろう。

安倍晴明(あべのせいめい)の妻』と聞いて、勝手に『はかない貴族のお姫様』のイメージを抱いてたんだけど。

 なんか、根性ありそうな、図太い、思い込んだら一直線な感じの女性に聞こえる……。



「……コホン」

 ひとつ咳払いをして気持ちを変える。


「なんで今までわからなかったんだろう」


 そんな依頼を受けていた式神達にかかったら、もっとちいさいときに見つかってもよかったはずだ。

 ぼくの余命宣告をくつがえすためにハルが式神達にも色々させていたから、そのせいで探せなかったのかな?


 その心配も式神達は払拭(ふっしょく)してくれた。


晴政(はるまさ)殿のオニ除けを持っておられました」

「ご当主の作ったお守りってこと?」

「はい」


「奥方様は『見鬼(けんき)』――『ヒトならざるモノ』が『()える』方です。

 おそらくは幼少期にそのことに気付いたご家族が、優華殿に相談したのではないかと」


「なるほど。

『ナニカ』が『視えて』いるらしい赤ん坊を心配した家族が叔母であるご当主の妻に相談した。

 で、ご当主が本人を『視て』、『お守りが必要だ』と作ってあげたと、そういうことか」


「おそらく」

「なんで今回わかったの?」

「中等部に上がられて、身体測定のためにお守りを外されたようです」

「お守りを外した? なんでまた」

「『一グラムでも少なく!』とおっしゃっていたそうです」

「……………」


 女性心理というやつかな?


「兎にも角にも、奥方様を見つけたのです!

 お迎えにいかなければ!」

「まあ待って待って」


 鼻息も荒い式神達をどうどうとなだめる。


「まずはハルの気持ちを聞かなくちゃ。

 ハルがその人とまた会いたいのか。

 でしょ?」


「会いたいに決まっています! ですよね!主座様!!」


 式神達の勢いにつられてハルに顔を向けた。


「……………」

 ハルはオミさんに後ろから羽交い締めにされ、口をふさがれていた。


 ぼくの視線にオミさんはにっこりと笑い、ハルを離した。

「ぷはっ」と息をついたハルがぐったりとうなだれ、ジロリとぼくをにらんだ。


「……以前(まえ)から思っていたが、ヒロは突発的な事態に弱いな」

「全部口にでちゃうのもなんとかしないとねぇ」


 よくわからないが、ぼくの弱点が露呈(ろてい)したらしい。

 厳しい修行が待っていそうな雰囲気に、思わず笑顔で青くなる。


「で? どうなの? ハル」


 ニコニコと笑顔のオミさんに対し、ハルはぶすっと不機嫌そうだ。


「会いたい? 会いたくない?」


「会ってください! 我らは奥方様に頼まれていたのです!」

「そうです! きつく言われていたのです!

『生まれ変わったら必ず主座様の元に連れていくように』と!」


 ぎゃいぎゃい騒ぐ式神の声はオミさんには聞こえていない。ハルは完全スルーしている。

「主座様ぁぁぁ!!」と式神達は半泣きだ。


 ニコニコ笑顔のオミさんにじっと見つめられ、ハルはついっ、と視線をそらした。


「……はあぁぁぁ……」

 腰に手を当て、ハルは大げさなほどため息を吐き出した。


「……僕なんかに付き合わせるのはいい加減申し訳ないんだがなぁ……」


 ぶすっと、ボソッと言うその態度は、知らない人がみたら不機嫌としか取られないだろう。

 でも、生まれたときから付き合っているぼくらにはわかった。

 単に照れているだけだと。


『奥さんちょっとストーカー気味?』『ハル、逃げたい?』って心配だったけど、これなら大丈夫そう。


彰人(あきひと)おじさんの系譜だったら、家格的にも問題ないし。

 中学一年生ならこれから教育すればいいだろうし。

 ウン。いいんじゃないかな」


 オミさんもニコニコだ。


 ハルは京都の『能力者』を束ね、経済的にも他の意味でも京都を牛耳っているといっても過言ではない安倍家の跡取りだ。

 今まで婚約者がいなかったほうが不思議と言えなくもない。


 家が家だけに生半可な家では釣り合いが取れないのに加え、次期当主が決まっているハルの妻になる女性となるとそれなりの資質を求められる。


「ハルも高校生になったから、最近特にあちこちからの攻撃がすごいんだよ。

 いいタイミングじゃないかな」


 尚もぶすっと口を曲げるハル。

 腕を組んでそっぽを向いている。


「……だから嫌なんじゃないか」

 どういうことかとじっとハルを見つめていると、ハルはボソボソと話した。


「安倍家は大きくなりすぎた。

 まあ、その原因の一端は彼女の活躍なのは確かだ。

 だが、それだけの家を支えるなんて大変な仕事、中学生に押し付けるのは可哀想じゃないか」


「すぐに大人になるよ」

「だとしても。大人になったらなったで仕事が増えるだろう。

 安倍家に関わらず、もっと楽に生きればいいんだ。せっかく転生したんだから」


 ぶつくさ言っているが、要は奥さんに負担をかけたくないと、奥さんが大事だから好きにさせてあげたいと、そういうことだよね?


 つまり、『好き』ってことだよね!


 ついによによと口の端が上がってしまう。

 そんなぼくをジロリとにらむハル。


「じゃあ取りあえず、会ってみたら?」

 そう言うオミさんもジロリとにらむ。


「今言ったこと全部その彼女に話して、それでも本人が『やる』と言えばお嫁に来てもらう。

『大変だから嫌』『無理です』って言ったらやめる。

 それでどう?」


「……………会えば、間違いなく『()』と言うぞ彼女は」


「記憶がないのに?」

「今まで毎回そうだった」

「じゃあいいじゃないか」


 ケロッと言うオミさんに、ハルはめずらしく眉を寄せて悩んでいる。


「どのみちそろそろ婚約者を決めないとマズいってのは、ハルもわかってるんだろ?」

「……………」


「母さんに話をして、セッティングしてもらうよ? いいね?」


 それでもハルは渋っていたけれど、最後には「………わかった」と了承した。




 こうしてハルのお見合いが決まった。

ヒロの余命宣告については『霊玉守護者顛末奇譚』をお読みください

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