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魔王と淫魔

 何やら妙な事を聞いた気がする。


「・・・夜のお相手?」

「はい!」


 聞き間違いかと思い聞き返すと素敵な笑顔とともに肯定された。

 もしかして私が思っている意味とは違うのかもしれない。


「えっとそれは性的なアレコレという意味で間違ってない?」

「勿論です!!」


 間違ってなかった。


「私女なんだけど・・・?」


 もしや男性だと勘違いされているのだろうか。

 ハイディとは違い一応それなりに胸はあるし、男と勘違いされたことはないのだけれど。


「勿論存じております」


 しかしこれも肯定される。

 とすると、


「もしかして貴女、サキュバスじゃなくてインキュバスだったり?」

「サキュバスであっていますわ。ご希望とあらば生やしたりもできますが」


 この見た目だし流石にないだろうと思いながら聞いた問いかけの答えは案の定。

 ()()()()という想定外の答えと共にだったが。

 まあつまりはそういうことなのだろう。


「もしやご主人様サキュバス相手なら命令を聞かれなくても女性なので問題ないとお考えでしたか?」


 質問からこちらの懸念を読み取ったのだろう彼女が確認してくる。


「うん、でもその様子だと・・・」

「もちろん男女どちらでもイケます。()()ですもの」

「・・・そうみたいね」


 本当にちゃんということを聞いてくれてよかった。

 知らぬ間に貞操の危機を迎える羽目になるところだった。


「期待してたら悪いんだけど、そういう目的であなたを呼んだわけじゃないから」

「そうでしたか、ですが私の見たところご主人様には()()()()()がありそうですのでお気が変わりましたらいつでもお声がけくださいませ」


 彼女は私の返事に少しだけ残念そうな素振りを見せたがすぐに艶やかな笑みを浮かべてそう返してきた。

 何やら聞き捨てならないことを言われた気もするが聞かなかったことにする。


 確かに賊に襲われた際に、そういった目に遭いそうになった時から恐怖症とまではいかないまでもちょっとした嫌悪感はある。

 しかし尊敬しているし崇拝しているといっても過言ではないが勇者であるレナに対して情欲は抱いていない・・・はずだ。

 そう、もっと純粋な気持ちで彼女を推している。・・・しかし三大欲求のうちの一つを彼女が占めているというのもそう悪いことでもないような気もしてきた。

 食事に睡眠もそうだが彼女の存在だって生きる上で必須である。


「あの、ご主人様」


 そんな風に明後日のほうに迷走し始めた私の思考は遠慮がちに呼びかけられて引き戻される。


「あ、ごめん。何?」

「その、私はどうすればよいのでしょうか?」


 どうすれば?

 私は首を傾げた。


 そして私は自身の考えが全然足りていなかったことに気づく。

 能力の確認は必須だった。迷宮を創り出したことも魔物を生んだことも間違ってはいない。


 しかしその先は?


 迷宮はまだいい。

 入り口は私の家の中、更に床の下だ。そうそう見つかるものではないし、しばらく放っておいても問題はないだろう。拡張していき魔力の濃度が濃くなればいずれは魔物が自然発生したりもするのだろうけれど、少なくともこの迷宮はまだその段にはない。


 しかし魔物はそうはいかないだろう。

 能力で生み出した魔物は魔力を糧とすることができ食事と替えられるようだが、いつまでもこの一室しかない迷宮に押し込めておくわけにはいかないだろう。

 かといって地上に解き放つわけにもいかない。

 この辺りにいなかった魔物が急に姿を現せば魔王の出現と紐づけて考えられるのは想像に難くない。

 いましばらくは表舞台に上がるつもりのない私としては余計な痕跡を残すつもりはなかった。


 つまりは本来魔物を生み出すのであれば迷宮内にそれなりの住環境を用意した後か、外に放ったとしても怪しまれない存在を選ぶべきだった。

 その点で考えてみればスライムは問題ないがサキュバスはそうではない。

 少なくともこの近辺でサキュバスが出たという話は聞いたことがなかった。


 普段の私であれば流石にこれくらいの頭は回ったはずだ。

 一晩寝て冷静になったつもりだったが自分で思うほど冷静ではなかったようだ。


 では現状で手を付けていかなければいけないことは何か。

 反省は後にしてやるべきことを考える。いや、考えるまでもなかった。


 黙りこくって思案に暮れていた私を少し不安げな様子で見ていたサキュバスに向き直る。

 生み出しておいて役割を与えることもなく、自身から訊ねてみたら首をかしげて黙りこくっていたのだから心配だったに違いない。我ながらろくでもない創造主だ。


「まずは迷宮(ここ)に住むところを造ろう。一緒に考えてくれる?」

「勿論ですご主人様!」


 一転して晴れやかな笑顔を浮かべた彼女の様子に失望されずに済んでよかったと胸をなでおろした。

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