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魔王と創造

「・・・おなか減った」


 翌朝は空腹と共に目覚めることになった。

 考えてみれば昨日は朝食しか食べていないのだから当然だ。


 台所に向かい適当に朝食を済ませつつ桶に魔法で水を作り出し体を拭う。

 そのまま着替えを済ませて家の裏手に出た。家の裏で育てている薬草に水をやれば朝の日課はこれで終わりである。



 朝の作業を終え再び家に戻るといよいよ魔王の力を試すことにした。

 昨夜は睡魔に負けて後回しにしてしまったが今は気力も十分だ。


 初めての事であるはずなのにその手順はしっかりと脳裏に刻み込まれている。

 この家の真下に広がる空間を強く思い描きながら魔力を編み上げていく。


「『迷宮創造』」


 能力を発動させると体をちょっとした倦怠感が襲う。

 日常生活で使う程度の魔法では減ったことすら感じられなかった魔力が明確に消費されたことを意識させさせられた。


 部屋の一角の床板を外してみると、そこには今まで存在しなかった地下へと下る階段が顔をのぞかせている。

 どうやら問題なく能力は発動したようだ。


 早速ランタンを用意して地下へ降りてみると、そこには思い描いた通り地上の家と同じサイズの空間が広がっていた。

 それはただの地下室の様ではあるが、漂う濃密な魔力がそれを否定する。

 まだ一室しかないがまぎれもなくここは迷宮なのだ。



 一室しかないのに迷宮というのも妙な話ではあるけれど。

 そんなことを考えて少し笑みがこぼれるが、次にやるべきことを考えて気を引き締めなおす。



 続いて試すのは魔物の創造だ。


 こちらは迷宮の創造とは違い懸念がある。

 何せ生み出す対象は人類の敵である魔物、能力で生み出した存在は創造主に絶対服従の様であるが実際に試してみないことにはやや不安が残る。

 こちらを認識したとたんに襲ってくるようでは使い物にならない。


 純粋な力で言えばどんな魔物相手であろうとも不覚をとることはないと思うが、まともな戦闘経験のない私では万が一があるかもしれない。


 最初は弱い魔物から試してみるべきだろう。

 脳裏にとある魔物を思い浮かべながら迷宮創造の時と同様に魔力を編み上げていく。



「『魔物創造』」



 能力を発動すると目の前に無数の光の粒が生まれ思い描いた魔物の姿を形どっていく。

 そして一際強く光を放ったかと思うと、宙に生み出された魔物が重力に引かれ足元に落ちて弾む。


 弾性を発揮して跳ねた透明なジェル状の丸いボディ、魔力が比較的薄い場所でも誕生しその弱い酸性を帯びた体で植物や小動物を捕食するどこにでもいる魔物。

 すなわちなんの変哲もないスライムだ。

 その弱さゆえかほとんど魔力を消費することもなく生み出す事が出来た。



「さて・・・」


 生み出したスライムはひとまずいきなり襲ってくるようなことはなかった。

 しかし考えてみればそもそもスライムが人間を襲うという話は聞いたことがない。

 有用な野草や鶏などの小さな家畜に被害が出るため定期的に駆逐されてはいるが基本的には無害な存在なのだ。


 そのうえ、


「えーっと、私が貴女の創造主、ご主人様。わかる?」


 しゃがみこんで人の顔の大きさほどのスライムを持ち上げてみる。

 ぷるりと震える顔もなければ、手足もないこのゼリー状の生き物相手では意思疎通も難しい。

 見つめていてもうっすら私の顔が映るだけで何を考えているのかさっぱりだ、そもそも何も考えていないのかもしれない。

 思い浮かべた通りの魔物を生み出す事ができるのかという点についてはともかく、それがしっかりとこちらの意向に従ってくれるのか調べるという点では不適格な存在だった。


「んー選択ミスか」


 地面に下ろしてぽよぽよと弾むスライムをつついていると意外と癖になる感触だったが、遊んでいないで次に生み出す魔物を考えなければいけない。

 ほどほどに弱くて意思疎通が可能な魔物について考えようとしたときスライムが急に私の周りを跳ねまわりだした。


「えっと、もしかして私の言ってることわかるの?」


 問いかけてみればまるで応えるようにその場ではねるスライム。

 耳もないのにどうやって認識しているのか不明だが、どうやらこちらの言葉が理解できているようだ。先ほどは持ち上げてしまったせいで身動きが取れなかったのだろう。


「おお賢い!」


 感心すると喜ぶかのようにまたその場で二回跳ねて見せた。

 こうしてみるとなかなかに愛嬌のある姿だ。

 再び持ち上げて抱えてみるとひんやりとした弾力のあるボディが心地よい。

 捕食の際は獲物を体内に取り込むはずだがそれなりに強く抱えてみてもしっかりとした弾力が返ってくるだけで手がその体に沈み込んだりする様子はない、任意に調整できたりするのだろうか?


 ともあれ、


「キミを召喚して正解だったよ」


 腕の中で喜んでいるのかぷるぷる震えていた。

 可愛いやつめ!




 意思疎通についても問題ないことも確認できたし気がかりはあと一つ。

 すなわち知性の高い魔物も同じように従ってくれるかという点だ。

 スライムが意外な賢さを見せてくれたがさすが人間並みとまではいかないだろう。なので今度は人間並みの知能を持った魔物を生みだすことにする。

 ひとまずスライムを足元に置いて魔力を込めていく。


「『魔物創造』」


 先ほどと同じように無数の光の粒が生み出されると、脳裏に思い描いた姿を形どっていく。

 今度はスライムの時とは違いその光はどんどん大きくなっていきほとんど私と違わぬ大きさの人型になっていく。

 そして再びまばゆい光を放つとそこには妙齢の女性が立っていた。

 同性の私でもうらやむような肢体を蠱惑的な衣装で包み込んだ彼女は、人間には存在しえない角と翼に尾が生えている。


「貴女が私のご主人様?」


 艶のある声でこちらに問いかけてくる彼女はサキュバス。

 今回はスライムの時とは違って少なくない魔力が持っていかれた。


「ええ、私が貴女の創造主よ」


 やや緊張しながら答える。

 男性ではないので誘惑されることもないだろうと選んだが、ともすれば同性の私でも惑わされかねない色香だ。

 しかしそんな緊張も不要だったようで、


「何なりとご命令を、ご主人様」


 そういって彼女は私に傅いた。


「よかった、貴女もちゃんと私に従ってくれるのね」

「勿論です!お疑いとあらば今すぐにでもこの命捧げます!」


 思わず安堵の声を漏らすと彼女は予想の斜め上を行く返答と共に魔力で生み出した刃で自身を貫こうとした!


「危ない!!」


 右腕に魔力をまとわせて彼女の生み出した刃を握りつぶす。

 とっさの事だったが何とか間に合った。


「ご主人様、どうか死なせてくださいませ!主人に疑念を与えるような僕は死ぬべきなのです!!」

「わーっ、待って待って!貴女を疑ったわけじゃないよ、この能力で初めて知性のある存在を生み出したから不安だっただけで!」


 取り乱し再び自刃しようとする彼女を取り押さえながら口早に説明する。

 すると彼女は急にピタリと動きを止めた。


 ひとまず自傷しようとすることもなくなったので彼女を開放すると彼女は徐に口を開く。


「私が最初なのですか?」

「え?」

「ですから私が最初に生み出されたのですか!?」


 何やら興奮気味に訊ねてきた。


「うん、知性ある存在でって意味ではそうだね」

「それはどういう・・・?」

「最初に生み出したのはこの子だから」


 そういって足元に転がっていたスライムを拾い上げて見せる。


「スラッ・・・!いえ、あんな知性も欠片もない原生生物はノーカン、つまり実質わたしが一番の僕!」


 すると彼女は一瞬ショックを受けたような顔をした後俯いて何やらブツブツ言っていたが、なにがしかの結論がでたのか顔を上げる。


「お見苦しいところをお見せいたしました。今後はご主人さまの第一の僕として御身の為、身を粉にして働かせていただきます。もちろんお望みとあれば夜のお相手も・・・」


 そういって流し目を送ってくる彼女は大変に蠱惑的だった。

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