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魔王の能力

 ハイディと別れた後、町を離れるとそのまま村に戻る。


 町を出た時に傾き始めていた太陽は村はずれの自宅にたどり着くころにはすっかりと沈んでしまっていた。

 日没前に戻るつもりだったためランタンを持っていなかったので日が沈み始めた時にはすこし焦ったけれど、どうやら魔王の力のおかげで今まで以上に夜目が利くらしい。

 わずかな月明りでも問題なくはっきりと周囲を見渡すことができ、難なく森を抜けることができた。



「ただいま」


 答える声がないのはわかっているけれどそう告げて家に入る。

 ランプに火を灯すと柔らかな光が部屋を包み込んだ。


「疲れた・・・」


 今日は一日にいろいろなことがありすぎた。

 肉体的な疲労は感じないが帰宅して気が緩んだところで精神的な疲労がドッと押し寄せてくる。


 寝台に倒れこみそのまま眠ってしまいたいところだがぐっとこらえて椅子に腰を下ろす。

 そもそも服は泥だらけのままだった。興奮していてすっかり意識の外だったがハイディもよく何も言わなかったものだ。

 上着を脱いで丸め玄関わきの籠に放り込む。



「・・・魔王か」


 部屋着でしばらくぼーっとした後、改めて望んだわけでもなく得てしまった力のことを思い返した。


 伸ばした手を見つめてみても、目に入るのはただの荒れた村娘の指先。

 机に置いていた手鏡をのぞき込んでも朝と変わらぬあまり目つきの良くない自身の姿が映し出されるだけだった。

 私を見知った人の反応からわかってはいたが外見的変化は一切ない。


 しかしその一方で、わずかな月明りで夜闇に包まれた森を見渡せたり、町まで往復したというのに肉体的には疲れを感じなかったりと、体に宿る力は明確に今朝までとは別物である。


 この身に宿る魔力の量は絶大でそれを活用すれば驚異的な身体能力を発揮することも可能だろう。

 今回は思いつかなかったが魔力で体を強化していればもっと早く移動することだってできたはずだ。


 また一言に魔王の力といってもそれは能力だけでなく自身の能力の使い方が分かったり、仇敵である勇者の力の事が理解できたりと様々な知識も含まれる。

 これは碌に学もなければ戦闘経験もない小娘の私にとってはとてもありがたい。


 力を押し付けられたときに感じたこの力自身意思みたいなものが唯一の懸念ではあるけれど、直接勇者であるレナを目にしても何ともなかったので気にすることはないのかもしれない。


 そして私が新たにできるようになったことが二つ。


 迷宮と魔物の創造だ。


 迷宮の創造は思い描いた迷宮を生み出す能力。

 迷宮はただの建造物と違い魔力によって形作られているため壁を破壊しても修復されたり、空間がゆがんでいたりするために外側から全容をうかがい知ることはできないらしい。

 またその空間の魔力の濃度から魔物が自然発生したり、特殊な鉱石や植物が生み出されたりすることもあるようだ。

 魔王として手に入れた莫大な魔力をすべて注ぎ込んだとしても、一度に広大で難攻不落な迷宮を生み出す事はかなわないが魔力さえあれば増改築も外観の設計も思いのままという驚異的な能力である。


 魔物の創造もまた恐ろしい能力だ。

 勿論代償として魔力が必要であり、その存在が強力であれば強力であるほど必要な魔力の量も増えていくようだが、好きな魔物を文字通り好きなように、そして好きなだけ生み出せてしまう。

 自身に絶対の忠誠を誓う部下がいくらでも用意できるのだから魔王が誕生してすぐに一大勢力に台頭するのもうなずける。


 なるほど確かに伝え聞く魔王というのは迷宮化した己が居城にて幾多の配下と共に待ち受けているものだ。

 それはきっとこれら能力によって生み出されたものなのだろう。


 とりあえず、辺境の寂れた村の外れに立つボロ小屋で、一人さびしく待ち受ける魔王なんて存在にはならずに済みそうだ。

 私自身の事はどれだけ貶められようが構わないが、彼女の相手としては張れるだけの見栄を張らなければならない。

 どこからどうみても村娘にしか見えない歴代最弱の魔王が相手だったなどと彼女の格を下げるような外聞を残すわけにはいかないのだ。

 実態がどうあれ、恐ろしい迷宮の奥深くで数多の配下と共に勇者と戦い苦しめた強大な魔王。そういわれるような存在にならなければ彼女の偉業が際立たない。



 一通り自身の能力を再度確認すると次に頭をよぎったのは私以外の魔王、そして勇者の事だ。



 魔王というのはなぜいまだに人類が滅んでいないのか不思議に思うほどの強大な存在である。

 自身の演出の準備も必要だが並行して他の魔王の様子も調べておく必要がある。


 正直に言えば私はレナとソルディのような極僅かな親しい存在を除けば、その他有象無象の同族の生き死になど興味はないし、どうなろうと知ったことではない。

 態々根絶やしにしてやろうと思うほど憎んでいるわけではないけれど、彼女たちの存在がなければ人類なんて滅んでも構わないと思う程度にはその存在には絶望してもいる。


 けれど私の目論見が成る前に人類が壊滅的な被害を受けたりすることは許容できない、彼女の偉業を語り継ぐためには是非人類には繁栄を続けてもらわなくてはいけないのだ。

 そもそも万が一にも彼女を討たせるわけにもいかないのだから彼女と相対しそうな存在の確認の意味も込めて入念な調査が必要になるだろう。


 また同じようにレナ以外の勇者についても調べておく必要がある。

 私が知る勇者はレナだけだが、その他の彼ら、あるいは彼女たちが何を思い、何をなしてきたのか。

 まぁ一番の優先はレナなので彼女以外に殺されてあげるわけにはいかないし、こちらの計画の邪魔をされるわけにもいかない。

 そういった意味でも要注目だ。決して私情を優先させているわけではない。



 ひとまず今考えるべきことはこんなところだろうか。

 あの黒い光の正体や、信託でどこまで具体的に魔王の情報が下されたのかなど気になることは他にもあるが、答えが出ないであろうことを考えていても仕方がない。


 それに、


「だめだ、ねむ・・・」


 ふわっと欠伸が一つ。


 つらつらと雑多なことを考えた脳も休養を欲している様だった。

 我がことならこれほど脳を酷使したこともあまりなかったので仕方ないことと思う。


 灯りを消して寝台に倒れこむ。

 実際に能力を使ってみる予定だったけど、明日でも構わないだろう。


「あー着替えてない・・・」


 さすがに乾いているとはいえ汗を吸った下着のまま。

 とはいえ着替えに起きるのも億劫で。


「ま、いいか。おやすみなさい」


 私はそのまま意識を手放した。

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