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魔王、ギルドへ

 探索者組合、通称ギルド。


 人類の生存圏が拡大していくとともに雑多な問題も増え、国軍や領主の私兵といったそれまでの正規の戦力だけでは手が回らなくなっていった。

 そのため害獣や野盗、小規模な魔物の群れの退治といった雑事を任せることのできる補助戦力として在野の人間を取り込むために発足したらしい。

 今ではもともとの役割に加え、遺跡探索から迷子の猫探しまで幅広く請け負う何でも屋の様相ではあるが。

 その発足の事情から誰でも利用・登録が可能で、道楽貴族や流浪の騎士、家業を継げない町の住人や農家の次男坊三男坊に私のような爪弾きものまで雑多な人間が所属している。

 匪賊を生み出さないための最後の受け皿といった側面もあるらしい。

 名称は違えど諸外国が似たような組織を同じように運営しているとの話なのでそれなりに有用なのだろう。



 運営しているのは国であり、ある程度の大きさの町には支部がおかれ、ここアスムスの町も例外ではない。

 魔物の素材や森から採れる各種資源の買い取りなども行っており、その都合上森に面しているこちらの門のすぐそばにその建物はあった。



 門からつながる大通りに面した入り口ではなく裏手に回る。

 表は依頼人用でそれなりに立派な拵えになっているが、裏手は門扉もなく解体所を兼ねた広場が併設されている。

 どちらかといえば立場が上となる依頼人と、荒くれものも多い請負人のトラブルを防ぐために分けられていると登録する際に説明を受けた。


 主に依頼人となるのは町で定職についている存在で、彼らからしてみれば町の住人でもなくギルドで都度仕事を受けて日銭を稼いでいる様な我々の大半は所詮無頼の輩である。

 定住したうえで活動している人間もいるが、そうした人間は実力のある一握りだ。


 ギルドの中には職員のほかは同業者が数人、依頼の張り出されたカウンターの前で内容を吟味しているだけで閑散としていた。

 これから依頼を受けて行動を開始するには少し遅い時間であるため仕方のないことだが。

 これが朝などであれば芋洗いとまではいかないまでもそれなりの人だかりでごった返していただろう。

 面倒な輩に絡まれることも少ないこの時間を狙っているという面もある。


 先客に会釈して私も依頼のカウンターに向かうと特に絡まれることもなく場所を譲ってくれた。

 張り出された依頼に手持ちの薬草の納品がないか目を通すもそう上手い話はないらしい。

 いつも通りの売却額となりそうだ。

 そのまま主に採取品の買い取りを行っているカウンターに向かった。


「ようこそ、納品ですか?」


 営業スマイルを浮かべたギルドの職員の女性に迎えられる。


「はい、こちらをお願いします」


 そういってに薬草の入った籠を女性職員に渡す。


「確認しますので少々お待ちください」


 女性職員は慣れた手つきで薬草をより分け数や鮮度、種類を確認していく。

 初めて訪れたときは女性職員達はあくまで窓口対応のための顔で鑑定などは裏で別の職員がやるものだと思ったが彼女たちはしっかりとした目利きの技術もあるようで驚いた。


 確認を終えると今度は脇に置いてあった依頼の写しと思しき束に素早く目を通すとこちらに向きなおる。


 ギルド側でもこうして別途に依頼がないか確認してくれるのだからここは比較的良心的なのだろう。

 他所から来た探索者の話を聞いたことがあるが、こちらが気づかなければ高額の納品依頼があったとしても黙ってギルド側で処理し差額を着服するようなところも珍しくないらしい。

 ひょっとすると勇者が所属しているギルドということでそのご威光かもしれない。


「お待たせいたしました。現在の依頼にこちらの品はなかったようですので買い取り額はこちらになります」

「構いません」


 提示された金額は大体こちらの予想通り。

 とりあえず数日分の食費にはなる程度の金額だった。

 持ってきた薬草はいつでもある程度の需要はあるため、特別な依頼などなくても常に納品を受け付けられているものだ。

 今朝からの収穫に対する対価としては十分。


「ありがとうございます、いつも助かっています」


 柔らかな笑顔を浮かべた女性職員からそう労われる。

 ギルドの職員達はこの町では数少ない私に比較的好意的な存在だ。

 定期的にこうして需要のある薬草を納品していることに加えて勇者と知己であるということもあるかもしれない。

 あるいはトラブルを起こしたりしないというだけで他と比較してマシといった扱いの可能性もあるが。


「いえ、対価もいただいているので」

「色々大変でしょうがまたよろしくお願いします」


 代金を取り出しながらぺこりと頭を下げられる。

 噂のことを言っているのだろうが魔王になったことを言われたかのようで少しドキリとした。

 もしバレていたのならこんな和やかに会話できているわけがないので杞憂なのだろうけど。


 お金を受け取りこちらも会釈して踵を返す。



 今後薬草を納品しに行くかはわからないけど・・・。


 そんなことを考えながらギルドを出たまさにその時だった。




 ゴーン、ゴーン、ゴーン


 門でも聞いた鐘が鳴り響く。

 普段は定刻に二回だけ鳴らされるはずの鐘が三度。


 ゴーン、ゴーン、ゴーン


 しかもそれが繰り返された。

 不意に訪れた非日常的な事態に道を行く人も足を止めて不安げに辺りを見渡している。

 平時以外でこの鐘が利用されるのはなにがしかの異常が発生したときに限られる。



 嫌な予感がした。



 私がこの異常を告げる鐘を聞いたのは二度目だ。


 前回この鐘が鳴らされたのは一年前。




 すなわち『勇者誕生の神託』




 では今回は?



 ややあって中心部から馬に乗った衛兵が声を張り上げながらこちらに向かってきた。


「神託だー!新たな神託が下されたぞー!」


 そう繰り返しながら大通りを駆けていく。


「神託だって?」

「この短い間に二度も神託が下るなんて!」

「今度はなんなのだろうか?」

「悪い内容でなければいいが」


 人々は口々に話しながら中心部の教会に向かう。

 具体的な神託の内容は先ほどの伝令の通達を聞いた住人が教会前の広場にある程度集まったころを見計らって発表される。



 正直なところ私はこの信託の内容がうすうすわかっている。

 かといってここで流れに逆らって町を離れようとするのも変だ。

 ただでさえあまり良い立場ではないのに余計なことをして波風を立てることもない。


 やや気が重いが流れに従って私も教会に向かった。

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