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魔王の力

「・・・ハァ、ハァ」


 強く自身を、そして彼女への想いを思い浮かべると憎悪の声は次第に聞こえなくなり痛みも落ち着いてきた。

 そうしてようやく辺りを振り返る余裕が生まれる。


「そうだ、薬草を取りに来て・・・」


 倒れこんだ時に撒き散らかされた薬草があたりに散らばっている。

 むき出しの地面に倒れこんで蹲ったせいで服もずいぶん汚れてしまっていた。


 意識を失う前に見た太陽の位置は今もあまり変わらず。

 何時間もの間痛みに苛まれていたように思えたが、あの暗闇の空間にいた事も合わせても然程時間はたっていないようだった。



「さっきのは一体・・・?」


 白昼夢でも見た気分だったが先ほどまでの激痛と滲んだ脂汗にべたつく衣服が嫌でも現実だと思い知らせてくる。

 そして何よりも自分が手にした新しい力の使い方が理解できる。


 ふとすぐそばに生えている木に目を向ける。

 太さは一抱え程だろうか、大木とまでは言えないが決して細くはない。

 何気なく右手に魔力をまといそのまま木に向けて振り下ろすと、一切の抵抗を感じることなく触れていないところも含めて両断された。


「これが、魔王の力・・・」


 もちろん今までこんな力は私にはなかった。

 人並みの魔力は持っていたけれどその魔力を片腕だけにまとわせるような器用な使い方はできなかったし、たとえできたとしてもせいぜいが木に傷をつける程度だっただろう。


 そのままでは影響力が低く通常は魔法という現象に変換する魔力。

 もともとの私では魔法を使ったとしても木を両断なんてできないが。


 魔法といった現象に置き換えなくてもこれだけの力を外部に与えられるのだから魔王という存在がいかに理不尽か改めて理解する。

 もし本気で魔法を使えば辺り一面を更地にすることだってできるだろう。

 それだけの力があると感覚的にだがわかる。


 逆に魔力をまとわせていればそれだけの攻撃を受けたとしても無事でいられるということも理解できた。



 これまで魔王というのは人類に敵対的な種族の王様の事だと教わっていたけど、違う。

 強力な存在の中の特に強力な個体だから王様で魔王なのではない。


 あの「黒い光」に力を与えられた存在こそが魔王。


 この世界で人類という生き物は決して強い存在ではないが、魔物や魔族といった強力な種族であろうとも歯牙にもかけない。


 きっと神様から加護を与えられるといわれている勇者以外には太刀打ちできない化け物。

 私はそんな化け物の仲間入りを果たしたようだった。



「あの子はこんな化け物と戦わなきゃいけないなんて・・・」


 だけど私のことは別にいい。


 化け物になろうが人類に敵視されようがそんなことは気にしない。

 あの激痛は死ぬほどつらかったけれどこれだけの力が手に入ったのだから代償としては決して高くはない。


 あるいはあの悪意に飲まれていたら自我なんてなくなってしまって、ひたすら破壊をばらまくような存在になっていたかもしれないが。

 少なくとも私は変わっていない、ひょっとしたら何か変わったのかもしれないけれど本質的なことは変わっていないだろう。



 何よりも大切なことはそんなことではない。



 レナ。


 同い年の女の子。

 隣町に住んでいた友達。

 金の透き通るような髪に青空のように澄み渡る瞳。

 同性の私でも見とれるような美貌にどこまでも無邪気な笑顔。

 何にでも全力で誰にでも親切。

 趣味はお菓子作りとぬいぐるみ集め。

 本当は結構大食いだけど本人はそれを気にしてて人目があるところだと抑えるようにしている。

 朝は苦手で起こさないとお昼まで寝てる。



 私の命を二度救ってくれた恩人。



 そして昨年神に選ばれた勇者。



 勇者の使命は魔王を倒し人類の生存圏を維持、拡大すること。

 つまり私みたいな化け物と戦うために選ばれた存在。


 ついさっきまでは誇らしいと思っていたし応援していた。

 神様も見る目があるなと思っていたけどとんでもない。

 なんて過酷な道を彼女に押し付けてくれたのだろうか。



 勇者は神に加護を与えられたというだけあって強いが無敵ではない。

 その加護を与えられた勇者の強さというのも知識として理解できた。


 私は特に何をしなくてもこの魔王の力を十全に引き出せる。

 使いこなせるかどうかはまた別の話でそのあたりは改めて試してみる必要があるが。


 しかし勇者はそうではない。

 加護の力を引き出すにも、その力を使いこなすにも十分な修練が必要なようだ。

 そして万全な状態であっても純粋に魔力などの出力では魔王を圧倒できるどころかやや劣る。

 よほど技量に優れていなければ単独で魔王を倒すことは難しい。


 かといって魔王と勇者の戦いについていけるような人間は本当に一握り。

 しかも魔王だって手下を連れているだろう。


 ここは辺境だから情報は入ってこなかったけれど、きっと死んでしまった勇者だって少なからずいるはずだ。


 彼女だって下手をすれば死んでしまうかもしれない。




 そんなことは決して認められない。

 そんな未来が訪れる可能性を許容できるわけがない。




 ならばどうするべきか?


 彼女を引き留めることはできないだろう。

 正義感の強い彼女は世のため人のためと勇者として積極的に活動している。

 おそらく今なら力づくで押し留めることはできるだろうがそんなことをするつもりはない。

 彼女の自由を奪うような真似なんてもってのほかだ。



 私自身が他の魔王を倒しに行けるのならばそれに越したことはなかったがどうやらそれも難しそうだ。

 この魔王の力は他の魔王相手には発揮できないようになっているのが分かる。


 さすがに力を与えた存在同士に潰しあってもらっては困るということだろうか。


 まあ魔王の力が使えたところで相手も同じであればそれ以外の技量での戦いになるわけだが、魔王の力がなければ私は所詮ただの小娘だ。

 彼女のためならば死ぬ気で戦闘技術を鍛えることもやぶさかではないが、人間の付け焼刃がどれほど通用するかは疑問が残る。

 おそらく力を手にいれたばかりであるということを差し引いたとしても現状魔王の中では最弱なのではないだろうか。



 だとすればやることは一つ。

 彼女にどこまでも強くなってもらおう。

 どんな魔王を相手にしても問題なく勝てるように。


 正直彼女に怪我の一つでさえも負わせることに抵抗があるがそれこそが彼女のためとなるのならば心を鬼にしよう。


 できれば心から彼女の為に行動できる強力な仲間も用意してあげたいがこちらは私だけでどうにかできるものでもない。



 そしてそのためには私自身も強くならなくてはいけない。

 私がどんな魔王にも勝てるようになったとき、その私に勝てるのならば安心できる。


 彼女の糧となれるのならばそれもまた悪くはない。

 その先の彼女の活躍が見られなくなるのは残念だが。



 あの黒い光は言っていた。


 ―どれだけキミがキミのままでいられるかは知らないど―


 あれがさっきの頭痛や悪意のことを言っているのか、あるいはこれからも何かが起こるのか。



 それでもきっと私は変わらない。



 彼女を守れるならばそれでいい。


 この想いだけあれば私は私だ。

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