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旧:竹林華は俺だけを嫌っている  作者: 宇佐美ゆーすけ
第2話 初めての会話
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2話 初めての会話 ③




挿絵(By みてみん)



************** Banri.K



――影鳥高校 屋上――


 おなかペコペコな昼下がり。

 簡易テーブルはトモくんに任せよう。わたしはスイッチを押す。

 雨が降ってるなら屋根がないとね。

「ウチから余ったやつ持って来ておいてよかったねえー!」

「取り付けたのは俺だがな」

 マッキーがカギを閉めながら文句を言ってるけどキニシナイキニシナイ。


 ウィーンという機会音と共に、緑と白のストライプ模様が頭上に広がって雨よけとなる。

「んーバッチリですなあ!」

 『オーニングテント』って言うんだってコレ。トモくんが言ってた。


 今日、わたしは登校してから華ちゃんとは話していない。

 2人にもそうしてもらった。

 しばらく様子を見ようと思ってね。

 今は「2人に話したいことがある」ってわたしが呼んだのだ。 


「よいしょっと」

 テーブルに腰かけてパンを3つ並べる。どの子から食べようかな。

「万里、話ってなんだ?」

「僕も万里の話が聞きたかったんだ。教えてよ」


 わたしは手を前に出し、前のめりな2人を「まあまあ」となだめる。

 わたしにも“ココロノジュンビ”ってものがあるのだよ。


 でも、こういうのって後に回すほど言いづらくなるからなぁ……。

 大きく深呼吸をする。……よし。

 わたしは深く頭を下げた。


「ごめんなさい!」


 2人からのリアクションは無い。あれぇ困った。

 頭を上げてみると、2人は時間が止まったみたいに固まっていた。

 あえ?

 あ、そっか。謝った理由も言わないとなのか。


「えっと、その……実は昨日、言えなかったことがありまして……」

 時間凍結が溶けた2人は何度か瞬きをして、わたしの話を聞く体制に入った。



「保健室へ送ってもらってる時の話、2人に聞いてほしい」

 


――時間は1日巻き戻る。



―――

――



――万里ちゃん。



 これは、わたしが2回目の嘘をついた時の話。


「では、行って参ります」

 先生にそう伝えた華ちゃんは、教室入り口のドアを閉めた。

「行きましょうか」

 ニッコリ笑った華ちゃんは歩き始める。

 でも、わたしの足はこれっぽっちも前に進んではくれなかった。

 恐怖を感じているからじゃない。動揺しているから。


 この子は、だれ……?


 足音が1人分しか聞こえず違和感を感じたのだろう。

 華ちゃんはわたしのところまで戻ってきた。

「大丈夫? 行こ……行きましょう?」

 華ちゃんはわたしの手を握り再度歩き始める。

 引っ張られたわたしも歩きだす。

 繋がった手は震えていた。わたしじゃない。


 震えているのは華ちゃんの手。


 一体、この短時間で華ちゃんに何があったのか。

 仕草も、言葉も、表情も、すべて人形とは思えない。

 一歩一歩を自分の意思で進んでいる?

 

 それに、手を繋いだのはわたしを引っぱるためじゃない。

 何かを恐れているんだ。

 わたしには解ってしまう。自分のためだ。


 手を繋がないと耐えられないんだね。


 華ちゃんにとって何かが限界を迎えようとしている。

 歩くペースはさっきより速い。

 その理由を考える前に、わたしのクチは先に動いた。

「ねぇ、華ちゃん大丈夫?」

「やめて」


 返ってきたのはたった3文字、オシトヤカでもユウガでもない言葉だった。

 食い気味に発した声には若干の震えもあった。

 年相応の言葉使い。

 驚いたのはそれだけではなかった。

 華ちゃんは苦しんでいた。

 今にも泣き出しそうな顔をしたまま階段を下る。

 

……あれ?

 

「私を『華ちゃん』と呼ばないで」

「えっ?」

 

 絞り出すように発した声は、わたしに()()を残した。

 華ちゃんは扉を開ける。

 いつの間にか保健室に着いていた。



「先生、具合が悪いみたいです。見てあげてください」

 そう言うと華ちゃんはわたしの背を押して、ムリヤリ保健室に押し込む。

 

「では、私は教室に戻ります」

「えっ!? ちょ、華ちゃん!?」

 扉を閉められた。

 でも、板一枚向こうにはまだ人の気配が残っていた。

 

「華ちゃん……?」

 

「ちょっと、そこのあなた。熱でもあるのかしら? だったらそこに体温計があるから、一度図ってみてくれる?」

 先生に声をかけられた。ホントは熱なんて無いんだけど……。

 体温計を取ろうと歩きだした瞬間、



「……私だって解っているのよ……あなたが悪い人じゃないってことくらい……」



 微かに聞こえた震える声を最後に、扉の向こうから響く足音と共に気配は消えた。 



――

―――



「これが昨日話せなかった話。黙っていてごめんなさい」

 2人は黙ったまま。雨音がうるさい。

 あれ、なんで何も言ってくれないんだろう?

 ちゃんと“ごめんなさい”したんだから、何か言ってほしい。

 

「……えっと、万里。それで……続きは?」

 ん???

「これで終わりだよ?」

 マッキーからの疑問に答えると、トモくんが「そんなバカな」と驚く。

 バカじゃないもん。勉強嫌いなだけだもん。


 マッキーは「えーっと、つまりだな」と、言い方を変えて再度わたしに質問を飛ばす。

「どうして竹林は『華ちゃんと呼ばないで』なんて言ったんだ?」

「そんなのわかんないよ。わたしが聞きたいくらいだもん」

 そう答えると、2人から『……はい?』と返される。

 そんなにおかしいことかな?

 言ってくれなきゃわかんないよ。



…………あれっ!?



「わかんない! どうして!?」

「俺が知るかよ!」

 おかしい。これは絶対おかしい。

 わたしの()()が機能していない。

 いつも勝手にアレコレわたしに教えてくるくせに。

 思い返すと、途中から華ちゃんについて全然わからなくなっていた。

 どうしてわたしはわからない??

 どうしちゃったのわたしの直感……。


「万里の直感でもわからないことがあるとはね」

「トモくん、わたしどうなっちゃったの!?」

 思わずトモくんの腕を持って身体を揺さぶる。

「待って、待って、待て万里、試そうか?」

「な、なにををを?」

「僕の朝食当ててみてよ」

 揺さぶられながら解りきったことをトモくんは聞いてくる。

「目玉焼き定食でしょ? しかも2日連続で」

 私が答えるとトモくんは「お見事だね」と一息ついた。

「よかったー。万里の直感が無くなっちゃったかと思ったよ」



「封じられたな」

 はい??

「……どうしちゃったのマッキー?」

「うるせぇ聞け」

 マンガみたいな話をマッキーがし始めた。

「直感自体が無くなってないなら、その一瞬封じられたんだろ」

 バトル漫画でもハマってるのかな。

「他に説明できるか?」

 一応考えてみてから首をブンブン横に振った。

 わたしバカなんですけど? 思いつく訳ないじゃん。


 でも、どうやって私の直感を封じたんだろう?

 それはわからないけど、“誰か”はわかる。

 きっと華ちゃんが私の直感を封じたんだ。

「俺が言いたいことは伝わったみたいだな」

 私は頷く。

 

 続いて、トモくんが「なるほど」と手を叩く。 

「たぶん、万里がトリガーだったんだろうね」

 トモくんの言葉に「ぅん?」と小首を傾げる。

「僕ずっと考えてたんだよ。どうして制御が解除されかけたのか」


 ん? だとしたらアレがコレになって……。

 あ、ほんとだ。

 あたしがトリガーだったんだ。


「どういう事だ?」

 理解していないマッキーに向かってトモくんが、

「万里しか居ないんだよ。竹林さんを『華ちゃん』と呼ぶ人は」

 そう、わたししか居ない。

 つまり。


「――制御状態を解除するトリガーは『華ちゃん』というワードだよ」


 だからあの時「華ちゃんと呼ばないで」なんて言ったんだ。

 1つ謎が解けた気がした。

 2人に相談してよかった。

 わたし1人だったら、まだ迷ってたと思う。


 これを上手く使えば、華ちゃんを人間に戻せる。

 少なくともお人形さんとは友達になれない。

 わたしは人間と友達になりたい。



「……まずいかもしれんな」

「え?」

 眉間にシワを寄せるマッキーは、わたしに問いかける。

「万里。もしお前に寝坊癖があったらどうする?」


……あれれ、まずいかも。

「アラームを何回か鳴るようにしたり……()()()()()……?」

「感情を制御する上で欠陥が見つかれば、何か対策を練るだろ普通」

 当たり前なことをマッキーがいう。続けて、

「もし、他のクラスメイトも『華ちゃん』と呼ぶようになったらどうする?」

「まずいね」


 あわわぁあわ。


「わたし、やっちゃった?」

 2人の顔を交互に見る。どうしようどうしよう。

 もし華ちゃんが、呼び名に対して対策を練っていたら、どうすることもできない。

 振り出しに戻っちゃう。

 対策がまだだったとしても、誰かが華ちゃんと呼んでしまったら。

 きっと華ちゃんは逃げ出してしまう。昨日みたいに。


 どうしようどうしようどうしよう。


「友則!」

 マッキーの大きな声は、わたしの僅かな考える力を吹き飛ばした。

「竹林は今何処で昼飯を食っているんだ!?」

「教室だよ! お手製のめちゃくちゃ美味そうなお弁当を食べてるはずさ!」

 トモくんは自信たっぷりのニヤニヤで笑う。

「よくやった友則!」

 マッキーが親指を立てた。


 2人が私を見る。

 うん、そうだね。

 大丈夫だよ。私も同じ気持ちだから。 


 私の言葉がまだ届くのか――試すしかない!

 今すぐに!!

 わたしは大きく頷いた。


  

「走ろう!!!!」



 急いで屋上を出た。

 階段を何段も飛ばしながら走る。

 着地の度に足が痛む――それでも走る。

「マッキー急いで!!」

 施錠し終えたマッキーが手すりに腰を降ろした。

 スーーっと滑り降り一瞬で抜かす姿を見て、わたしも真似する。

 やっぱりマッキーは頭がいい。この方が速い。


 すれ違う誰かが発した「うぉ!」という驚きの声を、遥か遠くで聞きながら滑り降りる。

「待ってよ! 僕それ苦手なんだよ!」

「ならもっと段を飛ばせ!」

「くっそぁ!!」 

 トモくんは助走を付け、踊り場から踊り場を飛んだ。

 着地の瞬間、身体をぐるりと廻して衝撃を吸収する。

「やるじゃねーの」

 マッキーの賛辞に対して、親指を突き立ててトモくんは余裕を見せた。

 こういうのはズルいと思う。


 ものの数秒で教室がある2階に着いた。

 あとは直線に走るのみ。

 わたしは奔る。

 すれ違う友人たちから何度も声をかけられる。

 全てを置き去りにして――ただ奔る。

 教室はすぐそこだ。

 その勢いのままドアを掴み、一気に開く。

  

「華ちゃん!!!」


 肩が上がり、息が乱れる。

 突然の運動で驚いた心臓が、バクバクと暴れている。

 ドアが発した大きな音のせいか、静まり返る教室に入り、わたしは最後尾の席に視線を送る。


 視界に映ったのは、からっぽの2段に別れたプラスチック製弁当箱。

 それだけだった。

 華ちゃんは、ここには居なかった。




「あら万里、そんなに急いでどうしたの?」

 教室に居た友人から声をかけられる。

 松岡紗月(まつおかさつき)、通称さっちん。華ちゃんの隣に座る子だ。



「あぁ……さっちん……華ちゃん探してるんだけど、知らない?」






















「ああ、()()()()なら、具合が悪化しちゃったみたいで、保健室に行ったよ」





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― 新着の感想 ―
[一言] 私のような読書素人の感想にもしっかり目を通していただき有難うございます。 華さんとの絡みがあると思いきやそれは無く新たな登場人物が!気になる…。あ、私は屋上が秘密基地みたいで好きです(笑) …
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