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旧:竹林華は俺だけを嫌っている  作者: 宇佐美ゆーすけ
第3話 友達師匠と馬鹿正直
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3話 友達師匠と馬鹿正直 ⑥



************** Masaki.C

――402号室――


 商店街から歩いて10分。

 とあるマンションの402号室。1Kの間取りが俺に分け与えられた城だ。

 床に座りスマホ片手に文字通り頭を抱えている。


「駄目だ……全く分かんねえ……」

『どうしよう、僕もお手上げだ……』

『うぅうぅ……』


 3人が体験した事を持ち寄れば何かしら見えてくるものがあると踏んでいた。

 事実、初日に屋上で話した時は竹林が人形化(ドール)であると見破ったのだ。

 1人ではただ不安が増すばかりであっても、3人居れば話は違う。

 そう思っていた。

 だが現実はそう甘くないらしい。


 進展ゼロだ。

 むしろ謎が増えに増え立ち往生。

 そんな現状を考えれば後退とも言えるだろうな。



「でも、ここまでにしたくねぇんだよなぁ……」



 ただのため息のつもりだった。

 だが、無意識に吐いた息には言葉も乗っていた。



――私はお前を嫌っているからよ。


 苦痛の中で嫌われていると確信した瞬間。

 俺は――全てを知りたくなった。



 初対面で嫌った相手なら普通は接触自体を避ける。

 なるべく関わらないように、接点を持たないように立ち振る舞うはずだ。

 だが、あいつは俺と会話をした上で殺意すら込めて「嫌いだ」と告げた。

 普通は初手でこうはならない。


 わざわざ宣言するほど嫌われるなんて一瞬で成せる業じゃない。

 あの嫌悪の根源はまさしく、俺への積もり積もった恨みだ。

 俺を嫌いになったのは転校初日じゃない。


 もっと前から竹林は俺を嫌っている。


 だが、残念ながら俺はあいつを知らない。

 ここ最近の記憶から昔の思い出を辿っても、何故実家から持って来ていたのか覚えてすらいない幼少の頃撮ったアルバムを広げても、あれだけ目立つ深紅の瞳はおろか竹の字すら見当たらなかった。

 だが、あいつは俺を知っている。


 俺の知らない“俺”を知っている。


 深紅の瞳を通して観た“俺”はどう写っていたのだろうか。

 俺は知りたくなったのだ。


 そんな隠し通したかった気持ちが不意に出てしまった。

 また2人に笑われるだろうな。


『わたしも!』

『僕もだよ政希』


 耳元に2人の声が届いた。

 笑い声ではなく、予想に反した賛同の声。

 謎を解きたい理由は違えど、気持ちは同じ。

 これほど心強い言葉を俺は他に知らない。

 

 まだ諦めたくねぇ……!


『なにか別の方法で解決出来ないかなぁ』と万里。

『先に友達になっちゃう……とか?』と友則。

「いや待て。そのためには竹林を動かす必要があるだろ」と俺。


 竹林の意思で万里の元へ動かす方法。

 再び頭を抱える俺に矛先が向いた。


『マッキー。華ちゃんを動かしてくれないかな』

「俺が!?」


 ただでさえ嫌われているんだ。

 次に接触した瞬間アザが出来ていてもおかしくない。

 俺は万里以上に関わる訳にはいかない。


 そんな不安をよそに、突破口は突然見つかった。



『手紙だよ! 華ちゃんに手紙書いてほしい!』

 


 直接関わる事しか頭になかった俺には到底思いつく案ではなかった。

 そうか、手紙か。

 差出人不明の手紙ならば――。

 好き嫌い関係なく接触は可能……!


 だが、直接話す場合に比べて伝達力は著しく低下する。

 そんな状況下で竹林が行動を起こすだろうか……。

 

「手紙1つで竹林が動くとは到底思えないんだが……」

『動くんだよ! マッキーならそれができるってわたしは知ってる』

「何を根拠に……」

『実・体・験でぇーす!』


 脳裏に浮かぶは万里の泣き顔だった。

 

『僕も適任だと思うよ。人を動かすなんて、クラス委員(政希)の本領発揮じゃないか』


 思い出したのは窓ガラスに映る赤面男子。


 わかっている。

 この2人は俺に丸投げしたのだ。

 綺麗に聴こえるよう言葉を並べ、俺に全てを押し付けようとしているのだ。

 通話越しということを利用して俺の気付かないうちに嘘だって交えているかもしれない。

 着飾った言葉を今一度思い返し、顔がニヤける。

 魂胆が見え見えだ。



 だが――その言葉すら信じられない馬鹿じゃない。



「わかった。やるだけやってやる」

『やったぁぁぁあ!』

『頼んだよ。政希ならきっといい手紙が書けるさ!』

「任せろ」


 興奮した2人の声が耳を直で刺激する。

 うっせえ。


 この2人は俺に全てを託したのだ。

 自分達ではどうしようも出来ないこの状況をなんとかしてくれる。

 手紙1つで俺なら成し遂げると信じている。

 ならば俺も。


 俺にはどうしようも出来ない事を2人に託そう。

 

「俺からも、竹林を頼む。

 あいつの友達になってくれ」



『『任せて!』』



 この2人なら成し遂げると信じている。

 なんせ、嘘を見抜く奇妙な男を救った実績もあるしな。



 互いが互いを埋め合う方針で通話を終えた。

 時計は10時を過ぎたあたり。

 俺は満ち溢れるやる気と2人の想いを胸にデスクへ向かった。



 さぁ、執筆だ。


 

 



 深夜2時。

 あいつらは既に眠ったであろう。

 いつも朝早くに登校を余儀なくされている俺だって普段は睡眠の時間だ。

 カチカチと秒針の音が響く中、俺は適当にちぎったノートにシャーペンを当てていた。

 当てるだけで、ペンは全く動いていなかった。

 

 全っ然書けねえ……。


 未だ白紙のノートはまさしく重圧の現れだった。

 この手紙はただの手紙ではない。


 どうにかして人形化を解いた上で万里の元へ動かす。


 そんな手紙でなければならない。

 誰も人形化竹林に用事はないのだ。

 それに、あいつは人形化であるうちは自分から話しかけない。

 それでは絶対に動かない。

 必ずこの手紙を読んだ時点で解除させる必要がある。


 なに書けっつうんだよ……!


 冒頭に『拝啓』と書くべきかすら決まらない。

 地球の重力が8倍に膨れ上がったかの如く身体もペンも全てが重い。

 時間だけが過ぎた分、尚更重みは増してくる。

 どれだけ頭を抱えようともどんな文章なら竹林が動くのかなんて、俺には全く見当がつかなかった。

 

 思い出せ。

 何かヒントはあったはずだ……!


 考えろ……!




――制御状態を解除するトリガーは『華ちゃん』というワードだよ。


――それだけじゃないっぽい。


――あ、えっとね、『準備ができたら、私から話しかけるわ~』って言ってたよ。


――大事なポイントは抑えてるんだけど、初めの1歩が抜けてるんだよねぇこの本。



 人はそれぞれ違った価値観を持っているものだ。

 近い人がいる場合もあるが、完全に一致するパターンは存在しない。

 だがもし、仮に。

 そうであったとしたら。


 なにやってんだあのバカは……!



 感じた憤りを皮切りにようやくペンは走る。

 今までの硬直が嘘のように文字が並ぶ。



 教えてやるよ竹林。

 最初の一歩の難しさってやつを……!



 書き上げた手紙は時間にして20秒弱。

 量にして2行。

 ようやく押しつぶされそうな重みから解放された。


 読み返すこと約3秒。

 これでいい。あいつにはこれで十分だ。



 これだけで――竹林は動く。





 原稿をカバンに仕舞い、ようやくベッドに入った。

 暗闇の中シュミレーションを行う。


 俺が手紙の差出人であることは万が一にもあの馬鹿正直にバレる訳にいかない。

 即座に破り捨てられる光景が目に浮かぶ。

 又聞きで伝わる事故も防ぐとなると、誰にも見られず手紙を送る必要がある。

 明日は誰かさんのように校門が開くのを待つ必要がありそうだ。


 全然寝れねえじゃねぇか……。


 短い睡眠時間にため息を出しつつも、出した解答に迷いはなかった。

 これは嫌われてる奴のためじゃない。

 2人の友人のために俺は動くのだ。

 あいつには悪いが、俺を嫌ったお前が悪い。

 瞼を下ろし1人、宣言する。


 必ず、お前の全てを暴いてみせる――。



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