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旧:竹林華は俺だけを嫌っている  作者: 宇佐美ゆーすけ
第1話 竹林華という女
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1話 竹林華という女 ②



挿絵(By みてみん)



 

 竹林華(たけばやしはな)

 黒板に名前が刻まれた。

 その名前を見た瞬間、俺はここまでシックリくる名前もあるのかと感銘を受けた。

 クセ1つ無く腰まで伸びた黒髪。学校指定の制服が隠す雪白い肌。

 一瞬芽生えた物静かなイメージを覆すように、やや吊りが効いた大きな深紅の瞳。

 楚々であり鮮麗なその姿は、まさに華麗であった。


 少女は口を開き、穏やかに短めな挨拶をした。

 その声は大人びた印象を与え、どこかの令嬢なのかと想像するのは容易だった。

 高嶺の華。なんて言葉が彼女にはふさわしいのかも知れない。


「で、えーっと、そうそう。あそこに座ってるヤツがクラス委員の千島政希。ムカつくヤツだから何でも命令していいぞ」


 ……そんな雑な紹介なら言われない方がマシだった。


「竹林の席は窓側の1番後ろな。あそこの空いてる席。あ、そうだ松岡、お前竹林の隣だろ。教科書とかまだ用意出来てないから、しばらく竹林に見せてやってくれ」


 突然呼ばれた松岡紗月(まつおかさつき)は、ビックリしつつもコクコクと首を縦に振った。


「じゃ、とりあえずこんなもんかな。あとは、連絡事項伝えたりするから、竹林も席についてくれ」


 担任から指示を受けた竹林は席へ向かう途中、雑に紹介された俺と松岡にそれぞれ「宜しくお願いします」と挨拶した後、着席した。



――それは、間違いなく、最悪の出会いだった。



 細かい連絡事項ラジオが教室内に響く。

 視聴率は6パーセントくらいだろうか。

 俺は雨音ラジオに周波数帯を合わせ、棒1つでどう放課後を乗り切るか悩んでいた。

 そんな悩みを吹き飛ばすように突然、入り口のドアが勢いよく開いた。


「おっはよーございますっ。えへへスイマセンっ、遅れちゃいました!」

「今日も時間通りだな万里。朝飯抜いて来てよかったぜ」


 視線の先には、小さな体に似合わず大きな声と、溢れ出す元気オーラ。

 間違いようがない。

 木下万里(きのしたばんり)の登校だ。


 竹林華が華麗なら、万里は可憐という言葉が合うだろう。 

 短めの前髪が隠さずに見せるクリクリとした瞳と、幼さが残る笑顔。

 中身は成長しているが、外見は昔と変わらない。

 どっかの誰かと逆だな。


 あと、あいつがスイカで、こいつはさくらんぼだ。

 それも幼さの所以だろうな。


 万里はカバンからメロンパンを取り出し、教卓へ贈呈した。

 担任の「さんきゅー」に対して不満タラタラらしく「ぶー」と返す。


 その不満も無理はない。

 木下ベーカリー。この町で1番人気のあるパン屋だ。

 そこの1人娘が万里である。

 決して、朝が弱くてこの時間に登校してきた訳ではない。

 

 毎日朝4時に起き、小麦を練り釜戸に火を灯す。店がオープンすると、ギリギリアウトな時間までレジ打ちをしてから登校する。

 ホームルームは出席数をカウントしている訳ではないから従う必要はもちろんないが、万里は担任にパンを贈呈する事によって、遅刻を大目にみてもらっている。


……エサを貰うと、動物も人間も似たような顔をするんだな。


 万里も友則と同じく、俺とは昔からの友人。嘘の理解者だ。

 万里の場合、会った人全てが友達なのだがな。


 昔、1度だけ連絡先の登録数を見せて貰った事がある。

 どこぞにあるドームの収容人数を超えていた。

 恐ろしい事に、その人数全て、現在進行形でアクティブな関係らしい。


 彼女にそれ程まで人が集まるのは、不思議でもなんでもない。必然だ。

 この世には、“噂話好きな観察の天才”がいるように、“万人友達な直感の天才”も存在する。

 万里の直感は、女のカン、とかいうレベルじゃない。

 だが、本人曰く、言葉で説明出来ないモノらしい。『ビビビって来て、ドーン』と、昔説明されてから詳しい話は聞いていない。


 直感の天才は、俺の隣に座った。

 クルっと俺の方を向き、


「おはようマッキー。甘いものでもたべたいの? さくらんぼがどうのって聴こえたきがするんだけど」

「……気のせいだ。それより今日はいつもと違うパンでも持ってきたのか?」

「おぉ? よくわかったね!」


 あぶねえ。

 気を反らさなきゃ今頃どうなっていたか。

 笑顔のままだったが、その裏、悪魔染みた何かがいた気がする。

 こうして、時に武器として万里は人の心を読んでくるのだ。


 とある部位に関して二度と特筆するまい。


 ちなみに、マッキーとは俺の事だ。

 ただしこのヘンテコな呼び名は万里しか使わない。

 万里は鞄からパンを1つ俺の机に置いた。


「試作品って訳か」

「正解っ。あとで感想聞かせてね! 名前はなななんと!」

「万里。まだホームルーム中なんふぁ、静かにしふぇろ」


 メロンパンを食いながら、説得力の無い言葉を飛ばす佐々木真理大先生。

 怒られた万里は、静かに「ぶぅ」と言って大人しくなった。後でな、と小声で話す。

 仕方なく前を向いた万里は、黒板に見慣れない名前が書かれている事に気付いた。


「にやり」


 何故わざわざクチに出すのか知らんが、万里は言葉を発しながら口角を片方上げた。

 そのまま周りをキョロキョロと見まわすと、後方にいた見知らぬ少女を万里は見つけた。


「めっちゃバリべらぼうごっつい美少女やんけ……」


 『すごい』を日本各地の方言を使って表現した結果、口調のバグった万里が誕生した。



 チャイムが鳴りホームルーム終了のお知らせが届いた。


「木下万里! 行って参ります!」


 万里は一目散に、竹林の元へ向かった。口調は今もバグったままだ。

 俺は不安もあったが、万里はああ見えて頑固なのだ。

 俺も俺で興が乗ったのか、「お元気で」と敬礼しながら万里を見送った。


 さて、この時間は至福のひと時。二度寝だ。朝早く起きた分の埋め合わせをするのだ。

 1時限目開始のアラームが教室に鳴る頃、また会おう。

 ……何も起こらない事を祈って。


…………

………

……



************** Banri.K



 にやり。

 もちろん口になんて出していない。でも、顔には出ていたかもしれない。

 黒板に並ぶ漢字3文字。わたしはこの並びをする名前を知らない。

 転校生がやってきたんだ。

 こんなに嬉しい朝はいつ振りだろう。わたしは周りを見渡した。

 右を向き、左を確認し、後ろをみた。


……めっちゃバリべらぼうごっつい美少女やんけ。


 口には出さない。また真理ちゃんに怒られちゃう。

 あくまで冷静に、時を待つんだ。

 

 ホームルームの終わりを告げるチャイムが、わたしには「よーい、どん!」としか聞こえなかった。


「木下万里! 行って参ります!」


 もう我慢できない。わたしは転校生と一早く仲良くなりたかった。

 敬礼しながら「お元気で」と言ったマッキーに、わたしも敬礼を返す。

 私は彼女の元へ走る。



――それは、間違いなく、日常が崩れるキッカケだった。



「はじめまして華ちゃんっ。ようこそ2年1組へ!」


 わたしは華ちゃんに笑顔を振り撒いた。





本文修正履歴

2020/06/30 視点切り替えの際キャラネーム追加

2020/07/21 外見描写追加・分割

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