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エルフの食人姫と殺戮皇帝  作者: 塚田恒彦
一章
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08話 開戦前夜

 「ミル~帰ってきたよ」



 二人は、最初の山小屋に戻ってきていた。アベルに案内をさせた後、食料や金品を渡されて街を追い出されたからである。正確には、旅路の幸運を祈っているぜ的な言い方ではあったのだが。表情から見て出発を急かしているようだった。

 そして、特に揉めることもなく街を出てきたのだった。



「……やっぱりバレたか」



 右腕だけ袖が無くなっているドレスを指さし、ミルは自分の額に手を当てた。変装の完成度は何ら問題なかったのだが、個人番号や名前の確認で引っかかることは予想ができていた。



「でも侵入は成功したしぃ~宣戦布告もしてきたから、目的は果たしたよ」

「反論できねぇな」

「はいじゃあこれが地図、帝国の領土は西側五割ぐらいだよね」



 綺麗にしておいた丸机にざっと地図を広げ、四つある椅子に二人は腰かけた。



「こう見ると、世界全体の四分の一は伊達じゃないね。で、第一目標がここから十キロくらいのここ、まずはここを落とす」



 地図の中央やや西側、こう見てみるとハギリの村はおよそ中央であったと分かる。そこからさらに西へ数キロ行けば、シルディアの言う第一目標ガイアナ砦だ。



「さてミル。ここでしっかり戦争の目的を考えてみようじゃあないか!」

「エルグランドを殺すことだろ」

「ノンノン、それなら別に戦争にしなくていい。戦争であることで得られるものは、交渉権なのだよ!」

「まぁ、暗殺なら交渉なんてできないわな」

「そういうわけで、帝国側にはしっかりと負けたストーリーが必要なの。そして、帝国の頭脳も何人か残す。じゃないと残った国民が交渉を反故にしてくるからね」



 地図を巻き取り使えそうな調理道具を探し始めたシルディアを眺めつつ、椅子を傾けながらミルは話を続けた。



「要するに国の形式を残したままエルグランドを討ち取れってことだな。で、何を要求するんだ?」

「終戦」



 黙々と厨房回りを調べながら、その解答だけがぼそりと帰ってきた。特に考えずに投げかけた質問ではあったが、その解答にミルはすぐには反応できなかった。椅子にまっすぐ座りなおし、しばし思考する。



「欲しいものはないってことか」

「ちょっと違う。終わったらミルと一緒に平和に暮らせればもうそれでいい。そのために、エルリーフ王国とベオロード帝国は周旋しましたって事実が欲しい」

「勝てるさ。最初から目的は何一つ変わってねぇ」



 ミルは買ってきておいた食料を、厨房へ並べていく。かがんでいたシルディアもちょうど顔を上げ、二人はにやりと笑い合う。

 そしてシルディアはフライパンを天高く掲げた。



「いっちょ作りますかぁ!」



 シルディアがブンと拳を振り下ろし、ニンジンが粉々に砕けた。口が開きっぱなしになってしまったミルをスルーし、足元を覗きこんだ。



「料理って……難しくない?」

「いや、まぁ……思い切りが良いのは個性だと思うぜ。普段は見誤らないから、許すけども」

「ミルもやってみなよ! 人を食べたから力有り余ってるんだって!」



 シルディアに呼ばれ、ミルは厨房の方へと回り込んだ。昼の内に研いでおいた包丁を取り出し、じゃがいもをすとんすとんと切っていく。

 特に何かを破壊することも無く、他の食材も加工していき。納得できないと言ったしかめ面で黙り込むシルディアをよそに、簡単なシチューが完成した。



「いやおかしいってぇ!」

「要はコントロールが出来てないんだろ。シルディアの弱点はそこだな」



 ミルは包丁の刃をへし折って、丸机に料理を並べた。そして厨房に一度戻ると、コップとバケツを持って帰ってきた。



「このバケツがシルディアの溜めておける魔力量、コップは人間の溜めておける魔力量だ。この前村を焼いたとき、シルディアはこのバケツの水をこぼして、それから人間を食べて水を足した。

 人間が人間を食べて魔力を回復しようとしても、コップにはそんな魔力は入りきらずにこぼれる。だから、エルフは大魔法が使えるし、人間は使えないってわけだ。ま、その分エルフは腹が減るんだけど」



 頷きながらシチューを口に運ぶシルディアに、ミルは説明を続ける。



「じゃあ開幕の一撃でこのバケツを逆さまにしてしまうとどうなるか」

「相手が全滅するんじゃない」

「シルディアが敵全員の位置を把握できていればな。再生するための魔力も無くなってふらふらになった所を、隠れていた弓兵に射抜かれて終わりだ」

「明日はその実験もかねた大事な一戦って訳ね」

「まぁ気を付けてくれたらいいよ。一撃で全滅するってのも、あながち間違ってないような気がするしな」

「りょーかい。ミルが冷静で助かるよ」

「念押しで確認しておきたい事項はそこぐらいだけどな。大体はシルディアの直感に任せるつもりだ」



 適当に夕食の片づけを済ませ、二人はここで目覚めた時の寝間着に着替えた。

 まだ少し寒さが残る春の夜、二人はベッドで身を寄せ合うようにして眠った。

 明日からはもう戦争だ。


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