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エルフの食人姫と殺戮皇帝  作者: 塚田恒彦
一章
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05話 闇夜の太陽

「あれがハギリの村だ。確かに帝国軍に占領されているな。遠眼鏡を持ってきておいてよかった」



 ミル、シルディア、アベルの三人は馬で駆けること数時間、東の村ハギリ村を見下ろす丘に佇んでいた。



「どうだ、あれだけの数を見たらもう帰りたくなんだろ」

「いや、行けますよ。私達強いんですから。家屋の中も調べているので、盗みもするんでしょうね。許せません!」

「家屋の中って……裸眼で見える距離じゃないでしょお姫さま」



 人間に比べてエルフは四、五倍ほど五感が鋭い。それゆえ静かに森で静かに暮らすことを選んだ種族だとシルディアは教えられていた、あまり表舞台に知られた存在ではないのはその隠れた居住地のせいだった。



「とにかく帰ろう。もう二人とももっと冷静になってくれよ! 二人とも武器持ってないからね!」

「アベルさーん。何を隠そう私は魔法が使えるのですよ!」



 自信満々にシルディアが立ち上がり、両手を天に掲げて何かを呟き始めた。手の平がぼんやりと赤い光を放ち、魔法の準備をしていることは分かる。



「あ~アベルさん。馬乗って離れようか。馬の脚なら全然余裕だと思うぜ」



 そういってミルは馬に乗り、アベルも自分の馬に乗るようちょいちょいと指さした。

 この時点でアベルは何ら状況が理解できていないのだが、言われるがままに馬に乗りその場を離れた。理由はと言えば、自分がシルディアにかけた狂人と言う言葉、それがいつしか現実味を帯びてきていたからであった。

 例えば魔法と言う言葉をシルディアは言った。かまどの火をつける、布を少し濡らす、コップの水を冷やす。その程度だ、魔法と言うものはそれ以上の発展を見せずに、過去へと消えたもの。人をどうこうできる代物ではない。

 だがなんだ、あいつは何をしようとしているんだ。

 私はどうして震えながら逃げている。

 遠ざかっていく二人を見ながら、シルディアは弾む心を抑えていた。



「よーっし二人とも離れたかな。それにしてもミルも心配性だなぁ。ちょっとびっくりさせるぐらいにしかならないのに。

 でもいいよね、もう撃っちゃってもいいよね、撃とう!

 煉獄彗星――!」



 その時、辺り一帯に昼が訪れた。村を制圧に来ていた兵たちは空を見上げ、窓から顔を出す。雲を散らして現れたわけでもなく上空に突然現れた大火球は、三秒後には地上と接触していた。

 地面に触れると、直撃した村を中心に火炎が広がった。さながら零した水のように地上を這う炎は村の隅々まで行き渡り、それは草原まで波及した。

 シルディアは走り出したい気持ちを抑えながら五分ほど待ち、思い切り息を吸い込んだ。



「ミルー! ご飯だよー!」

「呼ばれた!」



 一キロは離れた地点で待っていたミルとアベルだが。鋭い聴覚でシルディアの呼びかけを受け取ったミルは、休ませていた馬に飛び乗った。



「行ってくる」

「いや、何も聞こえなかったぞ! 何だ、呼ばれたのか?」

「そうだ。ここで待っとけよ、馬に乗って帰るためにはアベルの道案内が必要だからな」



 それだけ言い残してミルは馬を走らせた。アベルはその場でへたり込み、ただこれ以上二人と関わらない方法を考えていた。



「あ、ミル! やっぱり馬って早いねー便利!」

「そうだなぁ。森にはいないから」

「じゃあもう食べよっか」

「うん!」



 まだ火の残る村をまるで熱など感じないように二人は歩き回る。そしてシルディアは小太りの男を、ミルは筋肉質な男を見つけ、片手でずるずると村の中央まで引きずってきた。



「やっぱりさぁ鎧きてたらかまどみたいに焼けるよね。美味しそ~」

「そんなの食べたら太るぞシルディア」



 ミルの言葉に耳を抑え、露骨に嫌そうな顔をするシルディア。



「だって魔法撃ったらおなか減るじゃあん!」

「わーってるよ。はよ食べな。冷めるぞ」



 ミルはグッと拳を振り上げ、鎧の留め金を叩き壊し、そのまま腕を引きちぎった。



「焦げてるかと思ったけど表面はがしたらちょうどいいな。手羽先みてぇ」

「みうこえおいひいお」

「ちゃんと飲み込んでから喋れよ。ていうか口元血まみれじゃん、生焼けあんまり好きじゃないわ」

「私は好きだからいいんですぅ。というか心臓ちょうだいよミル。血、嫌いなんでしょ」

「どっちかっつーと嫌いなだけだ。心臓嫌いなエルフなんていないだろ」

「まぁそうだけどぉ……」



 ミルがぐりぐりとはらわたをさぐり、シルディアに投げる。



「あげるよ。まだいっぱいあるし……」

「やっさしー! ってこれ筋肉質過ぎない?」

「心臓なんて全部一緒だろ」

「いやぁそれはセンスないよ。だって考えてみて、こっちのしんぞうはぁ~っとあった。脂っこくない?」

「で、どっちがいいんだよ」

「そりゃ脂っこい方でしょ」

「年頃の乙女だろ……太るぞ」

「ぜっっったいミルの方が体重気にしてるよね。ほら、おなかのお肉食べちゃうぞー」

「おいかじるなよ。ちょっと痛いんだぞ」



 ミルの肉をもっちゃもっちゃと咀嚼しながら、シルディアはあまりに緩んだ笑顔をしている。当然ミルは怒れず、呆れたように肩の力を抜いた。



「大丈夫でしょう。心臓貫かれても気を失っただけだったし」

「やっぱり? 俺達の死因って落下死だよな」

「そりゃ、バラバラになるか直火焼きするかじゃないと死なないでしょ。人間じゃあるまいし」



 その後しばらく、むしゃむしゃと一日ぶりの食事を楽しんだ。人間を食べる事は半年ぶりぐらいだったのだが、力のみなぎる感覚が空腹と相まって至上の幸福であった。



「ねぇこれさぁ……お父様が言っていたより人間って弱いんじゃない?」

「それは、そうかもしれねぇな」

「それだよミル! 私達ってさ、元々は滅茶苦茶栄えてた種族だったんじゃない?」

「まぁそうかもな。人間を殺したらいけない理由は戦争になるからであって、こっち側から戦争吹っ掛けるんなら何も問題なくないか?」

「私たち二人で倒そうよ帝国!」



 シルディアはすくっと立ち上がり、ちょうど雲間から出てきた月を指さした。ミルはゆっくりと顔を上げ、再びシルディアに視線を戻した。



「ポーズ取りたかっただけか……空に何かあるのかと思ったわ」



 噛み切れなかった筋繊維をぺっと吐き出し、ミルは次の料理を探しに歩き出した。シルディアは死体につまずきながら、きょろきょろ街を見回るミルを追いかけた。



「ねーミル、食べ終わったらこの村どうする?」

「……放っておいてもいいだろ。焼いてるから多分臭くもならねぇし」


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