04話 山積みの書類
皇帝サイド
「エルグランド様、今日はなにやら気が晴れない様子ですな」
「爺か。そんな事を言ってくれるのも爺とマルクバッハだけになったな」
「それもそうでしょう。陛下は人を殺し過ぎますからな」
「適当な事を言うな。国民に利の無い征伐は行わん」
ベオロード王国王城執務室、エルグランドは山積みの書類を驚異的な速さで捌いていた。隣国からは畏怖の対象とされているが、政治は盤石で国民の支持率は常に高い。
爺と呼ばれている直属の魔法使いは名をルドロイと言った。様々な分野に及ぶ知識でエルグランドの頭脳を支えている。ベオロード王国先代国王、つまりはエルグランドの父のころから国を支えている。
「国政は堅実であるべきだ。不安要素はなるべく消しておきたい」
「今日襲撃しているハギリの村も、錯乱薬の温床でしたからな。一時的な快楽のために精神を侵す劇薬を求めるなぞ、おかしなこともあったものですな」
「何か埋められない穴があるのだ。俺は民の心を理解できていないのやもしれぬ。近いうちに、領内農村部との意識のすり合わせが必要だな。
昨年は少し実りが悪く負担は減らしたが、分かってやれぬ部分もあったのだろう」
「悪は弱き心に宿るもの。そうせぬためにも強い国を築いていかねばなりませんな」
「最大の脅威も去った、今後は戦争など起きなければよいな」
「あの小国も過去になりましたな」
エルグランドは執務机を離れ、ルドロイの用意した紅茶を少し喉に通した。表情は硬く、しばし続きを口にするのを渋った様子だったが、愚痴を漏らすように呟いた
「……エルフ。あんな化け物はこの世界に一体も残してはならない。
だが、殲滅作戦から四日しか経っていない。入念に出国者も確認し、八千体の死亡を全て確認させた。それでも、エルフが全て果てたなど現実味を感じないものだな」