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エルフの食人姫と殺戮皇帝  作者: 塚田恒彦
一章
3/16

03話 盗賊、アベル

「街についたわ!」

「そんでならず者に囲まれてると。まぁ仕方ないわな」



 ミルとシルディアは見るからに野蛮な男衆に囲まれていた。

 大通りを行くと目立つから迂回しようというシルディアの提案だったが、半ば貧民街のような場所で宿無しや飲んだくれ、野盗くずれに狙われるのは自明の理だったのかもしれない。



「なぁおっさんたち、服くれねぇか服。無いならぶん殴るけど」

「何寝ぼけたこと言ってんだぁおら!」



 ミルの理不尽な要求に対してナイフを構えたひょろい男がとびかかってくるが、ミルが適当に足払いをかけ、転んだ男の背にシルディアが片足を乗せた。



「アンタ達恥ずかしくないの!」



 二人を取り囲んでいる男達にシルディアが一喝した。



「こんなところで、ひもじい商売して一生を終えるつもりなんですか! えぇ!」



 足で男をグリグリと踏みながら、シルディアの毒舌演説はまだ続く。



「私はねぇ……弱いものいじめがほんっとに大嫌いなの! 私とミルは強いからいいけど、ほっといたらアンタ達女性や子供を襲うでしょ? はっきり言って畜生にも劣る」

「うっ」

「うぐっっ」



 シルディアによる精神攻撃が予想以上に効いているようで、胸を押さえて苦しみだすものまで出始めたところで、シルディアは大きく息を吸い込んだ。



「だから全員私が雇用するわ!」

「は!?」

「はぁ!?」

「おいシルディア?」



 男たちに混ざってミルも激しく動揺しているが、そんなことはお構いなしにシルディアの説明が続いた。



「業務は賞金首を捕まえること、それか仲間にできそうなら勧誘すること、それで団員を拡充していくわ。

 最終目標は国家転覆よ!」



 シルディアの声が崩れそうな小屋の並びを駆け抜けて消えた。



「いや、わからねぇよ!」

「なんでそれでいけると思った」

「いけるいける! みんな自信持ってよ! みんなずるい事得意でしょ?」

「戦えねぇからここに居るんだよ」

「だろうねぇそう思ったよ社会のはみ出し者たち。私もなんだ、家族がみんな殺されて居場所を失ってここに来た」



 ざわつきが収まり、全員がシルディアに釘付けになった。社会からははじき出されているといえ、こうして身を寄せ合って暮らす者たちは人としての温かさを失っていないはず、そんなシルディアの予想はおおよそ当たっていた。

 踏まれていた男が笑顔で逃げていったのはさておき、荒い口調から段々と丁寧に修正しつつ、シルディアは揺さぶりをかける。



「詳しく話をさせてくれませんか」

「俺が聞こうか」



 男達の間を縫って、美形ではあるがいかにも軽薄そうな黒髪の男が出てきた。見た感じの歳は二十代後半だろうか、腰に差した太刀とナイフには年季が入っていて、ただの盗賊という訳でもなさそうだった。



「ここをシメてる盗賊団『伏龍』の統領、アベルだ。別にここにいる奴ら全員が部下って訳じゃねぇよ。用心棒みたいなもんだ。それで、お姉さんたちはなに、遊びに来た訳じゃないの」

「勧誘よ。帝国をひっくり返してやろうと思ってね」

「あぁ~お兄さんもそんな血気盛んな時代があったような気がするねぇ。でもまあいんだよこんな感じで、俺はもう負けた側の人間なんでね。余生を平和に過ごさせてくれ、それはもうこいつらの総意だ」

「じゃあ服くれよ」



 ミルが面倒くさそうに右手を突き出し、上下にひらひら揺らしている。



「え、なに? 君たち盗賊なの?」

「渡せるものが無いから仕方ないわよね」

「いんやまぁいいけどさぁ……君らどういう経緯で、布一枚になったの?」



 アベルが木箱の上にどかっと座ると、任せたといった感じでのそのそと、取り囲んでいた男達はだんだんと散っていった。アベルは周りの部下数名に盗品から適当な服を見繕ってくるよう指示を出し、話に戻った。



「でなに、本気で国家転覆とか言ってる訳?」

「そうよ。親兄弟、服だって全部取られちゃった。失うものもないから怖いものなし」

「そういうの世間では狂人って言うんだぜ。悪いことは言わねぇから平和に余生を暮らしな。お付きの子もいってやりなよ」

「俺はミル、こっちはシルディアだ。そして返事はいいえだ」

「若気の至りだな。あ、ほらこれいいだろ。貴族の屋敷からかっぱらったドレスと鎧だ。汚しちまうならドレスはいらねぇし、汚さないなら鎧はいらねぇけど……」

「私がドレス」

「俺は鎧だ」

「お気に召したようで。一応言っとくが、持ち主の貴族に追っかけられても責任はそっち持ちな」

「わかった! ありがとうアベル!」

「おおう……良いのかよ」



 二人は物の散らかった倉庫で着替えを済ませた。

 シルディアが半ば思いつきでスカウトしようとした話は破談として、感謝を伝えて街の中央に向かうつもりだったのだが、数十分のうちに状況が変わったようだ。

 広場には神妙な面持ちで部下と相談するアベルがいた。


「あぁお二人さん……えらく凛々しくなったなぁ」

「お陰様で。スカートがちょっと短いような気がするけど。ミルの鎧はばっちりね」

「軽めで鉄も良質だ。使い込んだ感じもねえから観賞用だったんだろうが、実戦にも耐えうるな」

「そりゃあよかった。ま、達者でな。こっちはちょっとお取込み中だ」



 アベルが部下の方に視線を戻す。その横にシルディアがちょこんと座った。



「どしたのシルディアさん」

「面倒事なら協力するわよ」

「お宅のお姫様いつもこんななの?」

「困ってる人は見逃せないから、人を困らせることがあるな」

「ん~まぁ……う~ん」



 アベルとミルはシルディアの方に目をやるが、シルディアに質問攻めにされているアベルの部下と目が合った。



「話すよ話す。エルフの国が帝国に落とされたのは知ってるな?」

「えぁまぁ」



 ミルとシルディアは表情を変えず、ミルは無表情に、シルディアは興味津々といった姿勢を崩さずに耳を傾けた。



「あれから帝国軍の侵攻が激化している。もう世界の四分の一は帝国のものだろうさ、目を付けられたらまともに戦えねぇしな。対抗できる規模の大国がねぇんだから。

 そこで問題だ。ここから東に三キロほど行った町が、昨日陥落したらしい。そっからここまでは平野で遮るものは何もない。

 さてどうしよう」

「それは本隊? 部隊数は?」

「帝国軍は国家全体で四十万人。だが街を襲ったのは二百前後で足りただろうな、武器もないただの農村だ」

「こっちに来る前に潰しましょう」

「あのねぇ……こっちは十人もまともな戦闘員いないの。君たちも戦う気バリバリあるんだろうけど、まともに戦えるのかも知らないからねぇ」

「まぁ二百なら」

「なんとかなるんじゃないの?」

「冗談言うなよ。どうして人が群れるか知ってるか、多数は少数を捻り潰せるからだ。だから、どこに逃げようかって話になるところなんだ、分かる?」

「まぁでも二百なら」

「……分かったよ。でも流石に、君たち二人だけを行かせるわけにはいかない。俺が殺したような感じになるのはごめんだからな。逃走支援だけはする」

「ではいきましょう東の町へ!」



 勝てると信じて疑わないミルとシルディアに、アベルは嫌々同行することにした。

 アベルは盗賊といえども、家や職を失った人々を守るように共同生活をしている。狙うのも貴族や政府関連の背説が多い。善人でもないが、根っからの悪人ではなかった。

 そんなアベルは放っておいても帝国軍と交戦しそうな少女達を、見過ごすわけにはいかなかった。



「お二人さん。馬には乗れますか」

「乗れますとも」

「じゃあもういきましょうかね。今行けば状況を確認してから夜討ちにできる。そして帰りは森を抜ける。地元の人間ではない帝国軍の兵士にはまず追ってこれない迷いの森だ」

「分かりました。夜討ちで一気に殲滅しましょう」

「……逃げることも考えておいてくれよ。とりあえず、まだ街に残っている可能性は高い。帝国軍の帰路も荒れ道だからな、夜の行軍をするぐらいなら村で野営をするだろう」

「分かった。早速行こう」



 アベルが箱の上で説明している間にも、シルディアはアベルの部下に案内させ、馬を馴らしていた。アベルの愛馬だったが、この際脚力のある馬にシルディアを乗せるべきだと自分に言い聞かせ、なんとか飲み込んだ。



「じゃあ行くかミルにシルディア」

「うん」

「そうだな」

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