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エルフの食人姫と殺戮皇帝  作者: 塚田恒彦
一章
15/16

15話 宿と酒

「足治んない」

「おいっこら片手で首掴むなバランス悪いだろ」



 荒野で二人、シルディアとミルはとにかく遠くの街に向かって歩いていた。

 テリドの部下をつまみ食いして魔力は足りているのだが、回復に専念しても両足の再生には時間を要していた。



「腕は結構早く治ったんだよ? なんでだろう、手で魔法を放つから魔力は手の方が循環しやすいのかな」

「分からねぇけど、足は優先的に庇った方が良さそうだな。さ、一休みすっか」

「森にもこんな木あったねぇ」



 広く葉を広げた大樹の根元にシルディアを寝かせ、ミルも隣に座った。手足の装甲を外し、一息つく。



「……森、見に行けるのはいつになるだろうな」

「うーん、戦争状態を脱しないとその余裕は無いかも。父上も母上も亡くなってるはずなのに、現実感無いや」

「……そうか」

「私達って本当に悪なんだろうね」



 ミルは答えない。



「帝国の考え方は善だよ。あっちには仲間を食う文化はないし。対するこちらは守る民も国土も無いんだから、私利私欲の復讐でしかない。私達は正義の側には立てないの。

 世間的には、ね」



 自己再生が進み、地に足がつくようになったシルディアはあぐらをかいて座りなおした。



「帝国に勝利しても私達はこの世界に認められることは無いよ。

 エルフと人間以外にも種族が居たら、協力して人間と戦ってたかもしれないし、もっと追い込まれたかもしれない。

 でもやっぱりおとぎ話で、私達に仲間は居なくて。

 エルグランドの事だから、私達を迫害しないって誓わせたら帝国全域に通達してくれるかもしれないけど、それも雲行き怪しいかな」

「国一つ滅ぼした奴だぞ。約束なんて守るのか?」

「うーんそこなんだよね、嘘は吐かないと思うんだけど。何を芯にして行動してるのかは分かんない」

「分かんないっておい」

「相当エルフを嫌ってるみたいだからね。親兄弟でも食べられちゃったのかな」

「多分な。ついでに魔法も見ちまったんだろう。だからエルフの存在自体が災害かなんかだと思ってるのかもしれねぇ」



 日陰に入っているにも関わらず、太陽に熱せられた周辺の地面から熱気が伝わってくる。暑さに耐えきれず、余った魔力でシルディアが周囲に水を撒くのだが、そのせいで今度は無茶苦茶に蒸し暑くなってきた。

 そんなシルディアの腕を掴み、ミルも水を浴びようと試みた。



「ぬるい……これお前の体温じゃねぇか」

「温度の調整ってむずかしいんだよ……氷みたいにとにかく冷やすだけならいいんだけどね。ミルは氷魔法使えないか試してみた?」



 魔法を使うという事を考えてもみたことがなかったミルは、少し首を捻った。役割分けと言うべきか、シルディアが魔力の使い過ぎで戦闘不能になる可能性を考慮して、自分は魔力を使う事を避けていたのだ。ただ、同じ食事をしたのだから魔力は補充されているはず、というのがシルディアの言い分だった。



「ものは試しってやつなんだろうが」



 妙に渋るミル隣でシルディアが右手を掲げ、ぐっと力を入れるような動作をして視線を流してくる。ミルも真似してみるが、火種になれば御の字という程度の火の粉がチラチラと飛ぶのみだった。



「ダメだな。俺には魔法が使えないんだろうな」

「う~ん、溜め込んでるはずの魔力には使い道はあると思うんだけど。でも筋力とかは生き返る前とそんなに変わってないから……わかんないわ!」

「そのうち開花してくれたらいいんだけどな。ま、仕方ねぇさ」



 脱いだ鎧を装備しなおし、二人は馬車道に合流して再び歩き出した。

 目指すのは食事のできる場所、つまりは街だ。何も人肉を求めている訳ではなく、久しく食べていない芋料理でもつまんで腹が満たせればよかった。



「お?」



 数時間は徒歩の旅になるかと思われたが、上り立つ白煙と共に流れてくる肉料理の香りにつられて二人は道を逸れていった。



「宿じゃん、しかもでっかい!

 良かったぁ、民家だったらとぼとぼ引き返さないとダメだったから……」



 他に家屋はなくm妙な所に宿があるものだとミルは訝しんだが、行先によってはここで休息を挟まなくてはならない人々がいるようで繁盛していた。隣接した厩舎も大きく、馬が三十頭以上待機しているようだ。



「ミルいくよ~」

「おう」



 玄関の方に視線を戻し、タタッと駆けて行ったシルディアの後を追った。


 受付のある広間は酒場も兼ねており、十数人の男たちが酒を飲み交わしている。夕方と言うにも早い時間帯だが、そんなことよりもそいつらがシルディアに注ぐ視線にミルは呆れていた。シルディアは宿泊の受付けをしているだけなのだが、テリドととの戦いでスカートの大部分を置いてきている。風が吹けばよもや大惨事の超ミニスカートになのだ。かなり異様な状態のはずだが、その辺りは気にならないらしい。

 ミルがシルディアの背後に立つと男達の視線がしばらく泳いだが、最終的にはまた同じ位置に落ち着いた。

 諦めが悪いなと思いつつミルはその場を動かないが、腹回りの鎧を砕かれたミルの方に目的が変わっているとミルが気付くことは無い。

 受付を済ませた二人は酒場で適当に腹を満たしてから、二階の部屋に向かった。



「ふかふかぁ!」

「勢い良いな」



 ミルがいそいそと鎧を外している間に、シルディアはベッドに突っ伏していた。



「そのドレスも多少は汚れてんだから考えろよな。ほれ、備え付けのローブでも羽織っとけよ」

「貴族御用達でもないのにそんなのあるんだ。そういうサービスは初めて見るね」

「浴場もあるみたいだし、結構頑張ってる宿みたいだな。ちなみに八時以降が女性客専用だとさ。シルディアは入りたいだろ?」

「ん……まぁ汗かいたしね」



 夜の予定は決まったが、食事を挟んだとはいえまだ三時間ほどは暇がある。



「作戦会議のお時間です」

「定時みたいに言うな、時間毎回違うだろ」



 ミルの指摘は意に介さず、シルディアはベッドの縁に座って話を続けた。



「次に交戦するときは大規模戦闘が予想されまぁす。あの重鎧の拳闘士はエルグランドの付き人の一人で、それを失う想定で作戦を立てたとは思えない。

 ガイアナ砦の戦いは一人の戦力を頼りにし過ぎている作戦だった。相当信用してたんだろうし、実際強かったから分からなくもないけどね」

「次からは絶対に負けないために最大戦力を一気にぶつけてくるってか」

「確か同程度の戦士があと三人居たはずだから、明日以降は他の人員減らしてでもその三人を固めてぶつけてくるんじゃないかなと。場所がばれたら、ね」

「場所がばれたら、な。こっちの居場所も分からない内は動けないがな」



 ここまで話してシルディアは再び寝転がり、天井を見つめて気だるげな声を漏らした。ミルも椅子を傾けてシルディアをぼんやりと眺めていた。

 静かな時間も数分で途切れ、ふいに起き上がったシルディアが酒場へと歩いて行った。

 部屋に残ったミルはざっと部屋を見回してみた。

 今座っている木製の椅子と机、ベッド二つの間には真新しいオイルランプが一つ。どれも質の良いものが使われていて、僻地にあるとはいえ高額な宿代にも納得がいった。

 階下からシルディアの声が聞こえる。

 どうやら、酒場の男たちを適当に煽って酒代を巻き上げているようだ。彼らが腕相撲でシルディアに勝てるはずもなく、数分後には酒を握りしめたシルディアが部屋に帰ってきた。



「お風呂が空くまで一階で酒瓶を空けよう!」

「タダ酒ってことなら……付き合ってやろうかね」

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