第8話 始動
「おーい渡瀬ぇ、こっちの棚降ろしといてくれよぉ」
「はーい」
「お前、バイトとは思えないくらい異常に棚降ろすのうまいからな、ホント助かるよ」
只今俺は、都心部から引っ越してきたAさんファミリーのアパートにお邪魔し、絶賛引っ越し作業中だ。何だか無性に田舎の生活がしたくなり、若くして脱サラしてやってきたとのことだ。
アナスタシアさんとかいう人の必死の訴えが響いたとでもいうのか、ここのところ年始に向けて都会から田舎へ引っ越しする人がやたら多いらしい。
いいことだな、うん。
おかげで俺の稼ぎも増えるし!
引っ越し作業が終わり、リーダーにこれで暫くはバイトをお休みしますと伝えた。
ひどく残念がられたが、快く了解してくれた。
最後にリーダーや他のスタッフにそれとなく備えを促しておいたところ、
意外にも「そうだな」「地震も多いし、なにがあるか分からないしな」
と納得してくれたのが印象的だった。
コンビニにも、辞めさせていただく旨を伝えた。佳奈ちゃんは勉強に専念するのか買いたいものが買えたのか、数ヶ月前に辞めていた。店長には残念がられたが、こちらも快く了解してくれた。
年末は臨時休業することを強くお願いしてみたところ、ここ最近の俺の様子に何か感じるものがあったのか、年末は店を閉めることを約束してくれた。
これで心残りはない。
12月は、来月分の生活費をやや削り気味にして、過去最高の30回分のガチャ費を捻出した。
なんとなく、今回が最後のガチャになる気がする。
この1年を振り返り、やりきったような感慨深い気持ちでノートPCの前に座る。
来月からは長かったバイト生活が終わり、サバイバルニート生活が幕を開けるのだろう。
スキルガチャと書かれたおなじみのアプリを立ち上げた。
『やっほー太一くん。
気づいているかと思うけど、これが最後のガチャになりまーす。
この1年間、お仕事よく頑張ったね。
最も長く、そして最高額を投入してくれた君には、最後は特別にレアリティアップキャンペーン適用、そしておまけつきのスペシャルガチャをプレゼントしちゃいまーす♪
それでは行ってみよう~♪』
パンパカパンパンパーン♪
『さぁラストガチャの内容は~
R:アイテムクーポン上 ⑩個
R:装備クーポン下 ③個
R:五感+
R:格闘センス+
R:射撃センス+
R:スキル『エアリアル』
R:スキル『アースウォール』
R:スキル『キュア』
R:スキル『威圧』
R:スキル『天歩』→スキル『瞬歩』と統合されます
SR:アイテムクーポン特上 ②個
SR:装備クーポン上 ②個
SR:スキル『ドレインタッチ』
SR:スキル『簡易錬成』
UR:装備クーポン特上
UR:スキル『意思疎通』
GR:八百万神の加護
以上の結果になりました!
それでは、長らくご愛好いただきありがとうございました♪
太一くん、グッドラック♪』
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『エアリアル』 風属性初級魔法。突風を発生させる。
『アースウォール』 土属性初級魔法。小規模の地形を操作する。
『キュア』 治癒系初級魔法。重症でない病気を治す。
『威圧』 相手に対して威圧感を与える。
『韋駄天』 敏捷2倍のステップ+空中を蹴ることができる。足が疲れる。
『ドレインタッチ』 触れた相手から、体力と魔力を奪う。
『簡易錬成』 素材を元に、簡単な構造物を作り出せる。日用品等~。
『意思疎通』 言語および非言語による、あらゆる相手との意思疎通が可能になる
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『八百万神の加護』:地球の小さな神様達の意識集合体。
レベルアップ時の成長補正(体筋魔敏-微小、運-小)。
条件を満たせばユニークスキル1種を会得する。
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2020年12月31日
大晦日の夜。
去年の今頃はアングラサイトをサーフィンして過ごしていた訳だが、今年はずいぶんと違う。
今俺は、住んでいるマンション屋上へと韋駄天で上り、装備クーポン下を用いてひととおりの装備を整えた上で、来る瞬間を待っている。
装備クーポン特上は伝説の武器みたいなのとかが交換できそうだったが、誤って腕を落としたりしたら怖すぎるからやめておいた。
レベルが上がったり、必要に迫られたらそのうち交換しよう。
武器は棒タイプのものにしておいた。謎原理な伸縮が可能で、普段は20cm程で腰にさしておけるが、最大3m程まで伸びる。軽く、恐ろしく硬い素材で出来ているようだ。当面の相棒になるだろう。
防具は服の下に着込めるタイプにした。重鎧とか着るのは世紀末が進んでからだな。下着レベルに薄いが、包丁で刺しても全く痕も残らない程に丈夫だ。あとあったかい。
靴もスニーカータイプのものを選んだが、恐ろしく軽くて丈夫だ。
足がパンパンにはなったが、レベル1で空を蹴って上がってこられたのはこの靴のおかげだろう。
あとやっぱり怖いので、幸運のタリスマンをお守り代わりにポケットに入れておいた。
それだけでも、だいぶ気持ちは楽になる。
アイテムクーポン下も幾つかポーションに交換しておいた。
装備は以上だ。クーポン下でも、今の俺には十分すぎるくらい高性能だな。
五感が強化されたおかげで、視力0.05だったのが3.0ほどになり、眼鏡は不要となった。
小学校から眼鏡だったのでちょっと落ち着かない。伊達メガネ買っとけばよかったかな。
すべてのガチャを終えた最終ステータスはこのようになった。
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渡瀬太一(30)レベル:1(EXP+300%)
種族:人間
加護:魔神, 龍神, 八百万神
性能:体力G, 筋力G, 魔力G, 敏捷G, 運G
装備:金剛棒、アンダーアーマー、ウィンドシューズ, 幸運のタリスマン
【スキル】
戦技:火事場の真剛力, 韋駄天, 隠形, 金剛, 超集中, 威圧
魔法:ファイア, フリーズ, サンダー, エアリアル, アースウォール, ヒール, キュア, ドレインタッチ, バリアー, 念動力, 身体強化, 超魔導, 簡易錬成
技能:ステータス閲覧, アイテムボックス, テイム, 消費魔力半減, 起死回生, 超回復, 状態異常耐性, 念話, 意思疎通, 超魔導
【インベントリ】
アイテムクーポン(下×40/上×28/特上×4), 装備クーポン(下×11/上×6/特上×2)
製造くん(食糧/飲料水/快適空間/ユニットバス), 何でも修理くん, カプセル(ハウス/バイク/カー),
ポーション×3
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あと10分で新年か。
平和な大晦日だが、10分の後にはどんな景色になってることやら・・。
・・アナスタシアさんは、もう釈放されたのかな。
・・もうひとりのガチャラーはどんな人で、どんなふうに過ごしてるんだろう。
僅かにガチャを回せた人も少数はいるようだし、非ガチャ勢でも新たな才能に目覚める人も出てくるかもな。
とにかく俺は、まずは生き延びる。
状況をある程度把握できたら、積極的にモンスターを倒そう。
きっと、モンスターを倒せば経験値が得られるはずだ。
出来るだけレベルを上げて強くなろう。
他人をどうこうは、それからだ。
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新年へのカウントダウンが始まる。
10..9..8..7..6..5..4..3..2..1..
..0。
瞬間、全世界同時規模で、激しい地震が起きた。
読んでいただきありがとうございます!
次から第2章となります。
世界は一気に世紀末ムードになりますが、逆にここから主人公の爽快な活躍を描いていきたいと思います。
彼はそこまで正義漢ではないので、そこを不快に思われるシーンがあったらすみません。
それでは、今後とも宜しくお願い致します。