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第75話 オメガ戦 急

 太一とオメガの一対一の戦いは、熾烈を極めていた。

 防御を無視するスキルと拡縮自在の強烈な打撃攻撃を組み合わせ、かつ的として小さくスピードもある太一は、まさにオメガの天敵といえる存在となっていた。

 オメガは太一を脅威とみなし、一切の侮りを捨てた。

 そのため、貫通ダメージを与えらえるようになったとはいえ、運バフが切れたこともあり、そもそも太極棍が届く射程内まで近づくことが困難になっていた。

 太一も黒炎を駆使して弾幕を張り、スピードを駆使して何度も有効打を与えてはいたが、胸のコアを狙うたびに加速スキルを使って振り払われた。

 そして、オメガはなぜか誇示したスキルの三つ目を使ってこなかった。

 

(まぁそれはそれで俺にとっては都合が良いか)


 ここで倒してしまうためには、奥の手は引き出しておきたかった。

 だが、そうでなくてもよいかもしれない。

 先ほど店長たちから念話が入ったのだ。

 なんと、ナーシャの救出に成功したらしい…ッ。

 本当によくやってくれた。これで戦況が随分と楽になった。

 こいつには、まずは一時撤退して、今回の戦闘データを元に準備を万全にしてから挑めばいい。


『強き者よ。貴様との戦いは素晴らしいが…どうやら邪魔が入るらしいな』


 オメガもそういうことは察知できるらしい。

 攻撃の手をやめて、奴は次にこう言った。


『我の第三スキルは、この施設でも修復不可能なダメージを残す強力な技だ。先ほどから貴様が使っているもののようにな。出来れば使いたくなかった』


「じゃぁ使わなくていいんじゃない?」


 なんとなく…嫌な流れだ。


『いいや、邪魔者にこの戦いが汚される前に、終わらせよう』


 そう言って、オメガは巨大な石柱型の武器『理力の柱』を上段に構えた。

 すると、石柱に光示された文字群ルーンが、まるで岩肌がディスプレイであるかのように、石柱の上を移動し始めた。

 そしてそれは次第に、オメガの身体へと乗り移っていった。

 巨人の身体はびっしりと光る文字群に覆われていた。

 まるで、侵食されたかのように。


『地球に住む生命たち。貴様らはよく健闘している。だが、全ては『主』の前に無意味だ。『主』の存在はもはや生命を逸脱し、超越している。これは『主』の理力をごく短時間だけこの身に宿す力だ。貴様の得意の『閲覧』で、今の我をよく見てみるがいい』


 俺は言われるがままにオメガのステータスを見た。

 信じられない数値がそこには示されていた。


 理力…Lレジェンド


 ローマ数字では、50を意味する記号だ。

 単純計算で、オメガの五倍。


 やはり、絶対にゲートの解放は阻止しなければ。

 こんな力が放たれたら、地球は終わりだ。


 金剛しかない。

 ないのだが。


(やばい…さっき使ったばっかりだ)


『貴様のもつ完全防御のクールタイムは把握済だ。残念だったな』


 頭が回るデカブツだよ全く!


 はぁ…。

 あれは、避けられるようなもんじゃない。

 まるで太陽そのものが迫ってきているような。

 あのプレッシャーは、もうどうしようもない。


 俺は、武器と、収納できそうな防具をすべてアイテムボックスに仕舞った。

 仕方ない。

 諦めるしかない。


『身辺を清めたか?潔いことだ。ではさらばだ』


 その瞬間、頑強かつ広大なS級ダンジョンは、大きく揺れた。


 理力の柱は頑丈極まる地面を深く穿ち、突き刺さった。

 大ダメージを負ったダンジョンは、ただちに自己修復を始めた。


 太一は跡形も残らず床材とともにミクロにまで分解されて、壮絶に死んだ。


---------


「のわぁぁぁぁ!」

「わ!」

「…」


 研究塔を脱出した次郎たちを、激しい揺れが襲った。

 マグニチュード何点とかで言い表せられるようなものじゃない。

 まるで、ダンジョンが崩壊する時のように、この施設全体が揺さぶられたようだった。

 リーリャですら声を上げた程だった。


「オメガによる攻撃だろうか。ものすごい衝撃だったが…」


 リーリャが不安そうに呟いた。


「大丈夫、きっと太一くんならきっと無事ですよ、ね、ナーシャさん」

「…え?あ、はい…」


 次郎は思った。

 どうも、ナーシャは元気がない。

 もちろん長期の幽閉で衰弱しきっているのもあるだろう。

 それでも、目覚めてすぐの頃は以前の笑顔を見せてくれていたのだが。

 次郎の目は、何かがおかしいと感じとっていた。

 以前のナーシャではないような、そんな…。


(いえ、いけませんね、誰にだってそういう時はあるのですから)

 

 だが次郎は気にしないことにした。


 一方リーリャは、あることに気づいていた。


(念話リンクが途切れている)


 この現象には身に覚えがある。

 恐らくは今の攻撃が、太一を殺したのだろう。

 消滅攻撃でなければ一度はすぐに蘇生される筈だが。

 雪の身も心配だ。恐らく太一の事だからうまく逃がしてくれていると信じるが…。

 それにしても、今のあの太一を殺してしまうとは、やはりS級の主とはとんでもないやつだ。

 ナーシャと次郎を連れてきたものの、現時点での討伐は諦めるべきだろう。

 多くは望まず、ここは引くべきところだ。


「本当にあるんだよな、ナーシャ。転移装置が」

「はい。『ダンジョンマップ』によれば、深層から地上への転移装置は複数存在します。オメガが使用する玉座の大型装置は使えませんが、他に研究塔に一つと、ビルディング群の中にあるポートタワーの頂上に一つ、小型のものが存在します。私達では使えませんが、恐らく雪さんなら起動させられるかと…」


 彼女が混ざっているから…か。

 非情な話だが、まだ彼女が無事であることを祈りつつ、彼女に起動してもらうしかない。


「見えてきましたよ!」


 巨大な檻の向こうにオメガを視認して次郎が声を挙げたとほぼ同時に、檻はすっと消えた。

 オメガは膝をついて座り込んでいる。

 その目の前には巨大な大穴があいており、無骨な石の柱が地面に突き刺さっていた。


 リーリャは宇宙空間と交通していないか一瞬不安に駆られたが、そういう空気の流れは見られないようだった。

 まぁS級ダンジョンがダンジョンマスターの攻撃で崩壊したら洒落にならないだろうがな。

 自分達からしたら儲け話だが、その場合は自分達も助からない。


 リーリャはナーシャの姿をみた。

 ルーパーの背にのる彼女は、無表情だった。

 彼女は…なにかおかしい。

 付き合いの短い自分ではあるが、あんな表情をする人間ではなかった筈だ。

 次郎はあまり気にしていないようだが…。

 緊迫している戦いとは別に、なにか得体の知れない不安があった。


 全員がオメガの近くへと辿り着くと、オメガはこちらに気づいた。

 巨人は疲弊し、肩で息をしている様子だった。


『…よく来たな、小さき者達よ。だが貴様らの希望は既に潰えた。奴は我の最終奥義を前に、諦めて伏した。だが奴は強者であった。故に我は十分に満ち足りた』


 そう言って、オメガはちらりとナーシャの姿をみた。

 その表情は、どこか憐れむように見えた。


『…貴様らも、もう諦めて楽になるといい。ではな』


 オメガは転移装置を使い、どこかへと消えて行った。


「はぁぁぁ、助かった」


 店長は安堵して膝をついた。


「私達の命を奪わなかった…?」


 相当疲弊していたが、それでも侵入者をそのままに、ダンジョンマスターが守るべきダンジョンコアを残していなくなるなどありえないことだ。

 そう考えていると、オメガがいなくなった転移陣が、再度光り始めた。


「まぁ、そうだよな、定番だよな」


 恐らくオメガと入れ替わりで、掃除役の番人が出現する仕掛けのようだ。


「すまん死んでた!オメガはどうなった?!」


 そこへ、蘇生した太一が帰ってきた。

 ボロ布しか纏っていなかったが、装備を避難させていたのだろう、すぐに殆どのトータルコーディネートを揃えていた。


(クレーターの底でバラバラになっていたのだろうに)


 遅刻した挨拶みたいな登場をした太一を見て、やはりこいつはバケモンだなとリーリャは思った。


「太一くん!無事じゃなかったんでしょうけど無事でしたか、よかった!」

「タイチ、オメガはお前が死んだと判断したのだろう。まぁ実際死んだんだろうが。疲弊しきっていたようで、あれを起動させてから、去ったよ」

「そうか、二発は放てないだろうと賭けに出たが…運がまわってきたな。演技がきいたかな」

「代わりに、ダンジョンコアに近づくなら、代役が出てきそうな気配ではあるがな」


 リーリャは輝く転移陣を指さして言った。


「全員でトドメを刺せるチャンスを逃したともいえるが…今の状況だと逆にチャンスだな」


 太一はそう言うと、アナスタシアの方に向き直った。


----------


 はぁ、やれやれだ。

 死ぬのが分かっている攻撃を受けるのは嫌なもんだ。

 痛みは殆どなかったけど…。

 『主』とやらが地球に放たれたらと思うと、本当にぞっとするよ。


 ―さて。

 ようやくだ。


 四カ月ぶりに、目の前にナーシャの姿があった。

 元々細かったのに、随分と痩せちゃったな。


「ナーシャ、おかえり」


 俺はナーシャの傍に歩み寄った。

 もう一度彼女の笑顔が見たくて、それを心の支えに、俺はこの四カ月頑張ってこれた。


「君が無事で本当によかった」


 ナーシャは俯いている。

 俺の言葉に返事もない。

 

 ん?

 やっぱり具合が悪いのかな。


「……チ、……ス」


 なにか、ぼそぼそと呟いているような。


「ナーシャ、大丈夫か。ダンジョンコアを破壊したら、すぐに脱出して、しっかり休もうな」


 彼女の笑顔が見たかったんだけど、調子が悪いなら仕方がない。

 俺は彼女に触れたくて、もう一歩近づいた。


「太一くん、避けて!」


 そんな店長の声が発されるのと、俺の頬を氷の槍がかすめて行ったのは、ほぼ同時だった。


「え…。ナーシャ?」


 先ほどからナーシャが呟いている言葉を、俺は聞こえないふりをしていた。

 感動の再会をして、彼女と抱き合って喜んで、あわよくば…なんて。

 そんな俺の下心込みのささやかな願いは、どうやら幻想だったらしい。


「タイチ…コロス…」


 ようやく俺の方を見てくれたナーシャの目は、真っ赤に血走っていた。


『ギェェェェェェェェ!!!』


 そこに、重ねるように魔法陣から超大型キメラが出現した。

 ナーシャが放った極大魔法が刺激になったのかもしれない。


(クールだクール、こういう時こそ冷静になれよ、俺)


 本当に残念だが、感動の再会は後回しだ。

 俺はナーシャともキメラとも距離をとって、店長たちと合流した。


「あの、太一くん。ナーシャさんは太一くんを嫌いになった訳ではないと思います」


 店長がフォローしてくれた。

 極大魔法で撃たれる程嫌われるってどんだけだよ。


「阿呆なことを言ってるんじゃない。ナーシャはどうやら、あのクズに洗脳されたらしいな。四カ月も脳に電極を埋められていた影響だろう。太一との接触がキーか。感動の再会とならず残念だが、太一を抹殺するようにプログラムされているらしい」


 ぶっきらぼうなリーリャだが、さりげなく気遣ってくれているのが分かる。

 いいんだ。彼女じゃなくてエウゴアに嫌われているんなら、逆に嬉しいってもんだ。

 ちょっと、いやだいぶショックなのは確かだけど。

 落ち込んでても事態は好転しない。


「ほんと、たいした置き土産をしてくれたもんだ」


 ナーシャと、大型キメラ。

 この新たな局面で、どう立ち回るのが正解か。


「タイチ、雪は無事か?」

「あぁ。第四神威を放って衰弱してはいるが、向こうのビル群の影で休んでるよ」

「それなら僥倖だ。あの一番高いビルの頂上に脱出用転移陣がある。ああなる前のナーシャ情報だが、雪なら起動させられるみたいだ。ナーシャを気絶させて、全員で脱出しよう」

「気絶って。俺は破壊専門だからそんな漫画みたいなスキル持ってないぞ。当然リーリャなら出来るんだろ?あの怪しげな格闘技で」

「無礼だな!システマは怪しくない!だがそんな漫画みたいな芸当は存在しない」

「出来る提案をしてくれよ!」

「お前なら何でも出来ると思ったんだよ!」


『ギェェェェェ!』


 存在を無視されたのが気に食わなかったのか、オメガの臍くらいまではありそうな大型キメラが咆哮した。

 ブレスの発射兆候だ。


「リーリャ、そいつを使え!」


 俺はドラゴンを召喚した。


「いつの間に。助かるよ!」


 リーリャはドラゴンに、店長はルーパーに搭乗し、それぞれ三方にブレスを避けた。

 ドラゴンはルーパーより遅いので若干かすめたようだが、まぁあれはタンクとしての性能が本来だから、それくらいではびくともしない。


 店長がルーパーの背の上で再度結界を発動させてから、突如なにやら怪しげな動きをし始めた。

 阿波踊りというか盆踊りというか。

 え、ショックでぼけた?


「店長こんな時になにしてるんだ?」

「ほっほ、平成のジロえもんとは私のこと。私の新極大魔法は発動毎に一度だけ、『おみくじ』が引けるのです。きっとこの状況を打開するアイテムやスキルを授けてくれることでしょう!」


 そんな名前のサッカー選手がいたような。

 怪しげな動きをする中年オヤジから、急に祈祷する立派な神主みたいに見えてきたから不思議だ。


「き、き、キタ~!」


 そんな90年代の掛け声とともに、店長は俺のアイテムボックスみたいに、なにもない空間から箱のような物体を取り出した。なにかのアイテムのようだ。


「こ…これは!」


 説明書きを読んだのか、驚愕する店長。


「店長、使えそうか!?」


「これは、びっくり箱のようですね。つまり、相手がびっくりします」


 おお、なるほど、つまりそれでびっくりしたナーシャが気絶するわけだな。


「えぇ、まさに状況に適したアイテムかと!」


 やるじゃないか、『お祭り』。

 ★やら☆がついた俺が言うのもなんだが、色々とださくてもさすがは極大魔法だ。


 ナーシャはひたすら俺の命を狙っているのか、彼女のエイムは俺に向き続けていた。

 彼女はレベルも低いし、こんなこと言うと彼女は落ち込みそうだが、極大魔法であろうと攻撃性能自体はたいしたことはない。俺を狙い続けてくれるのは、状況的には好都合だ。

 ただ俺のメンタルはがりがりと削られ続けてはいるが。


「彼女は俺しか狙ってない。さっさとやってくれ!」


「そうしたいのですがね!キメラがなかなか手ごわくて!」


 翼の生えたライオンのような大型キメラは、店長たちを狙い続けていた。

 役割分担ということらしい。

 俺の『銀閃』であれば殺すことは容易だろうが、あいつを殺してしまったら間違いなくオメガが代わりに再転移されてくるだろう。

 俺はナーシャの攻撃を避けつつ、適宜キメラにペネト☆レイを浴びせた。

 再生はするものの、うまくダメージは入り、店長たちへの攻撃は弱まった。


 そして、一つの飛来する影があった。


「ハァァァァ!!」

「雪!」


 復活したらしい。

 高速機動でざしゅざしゅとキメラの全身を刻んでいる。

 ちゃんと念話リンクで今の状況は把握できているようだ。


 そこでリーリャが動いた。

 ドラゴンから飛び降りるとナーシャの頭上へと降り立ち、背後から彼女を羽交い絞めにした。


「今だジロウ、やれ!」

「合点承知!」


 高速接近したルーパーの背から降りた店長はナーシャの前に箱を設置して、即座に離脱した。

 箱はぶるぶると震えると、勢いよく蓋が開いた。


「くっ」


 思わず目をつぶるリーリャ。


 バネ仕掛けのふざけた表情をした人形が勢いよく飛び出した。

 そしてナーシャの目の前でしばらく揺れたあと、また箱の中へと帰っていった。


 ナーシャはリーリャを雷魔法で振りほどくと、何事もなかったかのように、また俺への攻撃を再開してきた。


 えーと、つまり。

 

「クズアイテムじゃないかよ!」


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