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第50話 反転①

 最初に門に到着したのは、ルーパーに乗る店長だった。

「太一くん、間に合いましたね。空から見える限り、屋外の教徒は全員倒しましたよ」

店長が肩にかついでいるハンマーのヘッドには、血が付着していた。

「おつかれさん。まぁ市街地の救助にはギリギリ間に合ったけど、第2層内にはモンスターが氾濫している。おそらく基地は既に壊滅してるだろうな。門が破られそうだったからとりあえず『バリア』で補強しておいた」

「そうでしたか。軍の被害は甚大ですね…。太一くんは、中でアレをぶっぱなす予定なんですよね」

「そう、その予定」

「じゃぁ門は破られたらダメですね。制御コントロール、まだまだなんでしょう」

「まぁね」

確かに、爆発の範囲くらいならコントロールできるが、微妙な爆風までは正直難しい。街を守るために、門は必要だ。

「仕方ない、上空からいくか。店長はルーパーに乗って、壁上の自律兵器を無効化してくれ。システムは乗っ取られてるんだろうし、制御室がどこにあるのか分からないから。もし飛行型モンスターが壁を乗り越えてきたら、その迎撃も頼む」

「分かりました。2人を待ちますか?」

ナーシャとリーリャは屋内も探索していたし、まだ時間がかかるのだろう。

「待てない。『バリア』は今すぐにでも破られるかもしれない。それに、敵の真の狙いがよく分からないままだしな…」

「真の狙い?A級を封じる要塞を壊滅させること以外に、やつらに何の目的があるっていうんですか?」

「分からないけど…。教徒達が門を破壊できていない内に街の人々を襲っていたのは、ただ奴らの頭がおかしいからなのか、それとも…」

「この凄惨な暴動に、それ以外の何か目的があると?」

「…分からん。だが、今俺は俺にしかできないことを最優先にしなければならない気がする。それは、地上のモンスターを全滅させることだ」

「私は太一君を信じていますから、太一君に従います。ではルパちゃん行きましょう!」

「るぱ」

「店長!」

ルーパーに飛び乗った店長の後ろ姿に、思わず声をかける。

「気を付けて」

親指をぐいと立てた店長は盾を構えて、ルーパーと共に上空へと飛びあがった。

ドドドドドドド!

そして、激しい銃声が巻き起こった。

壁上に設置されたアレク製の強力なガトリング砲が数門、2人に向けて猛烈に火を噴きならしたのだ。

ルーパーなら多少は喰らっても大丈夫だろうし、店長が上手く誘導して回避するだろう。

俺も行くぞ。

両脚にぐぐっと力をこめて、大きくジャンプする。

地面は陥没し、数十メートルは飛び上がるが、それでもまだ壁上へは到達しない。

宙を蹴って壁を越え、そこからさらに上昇し、対空砲に狙われない程の高さまで到達した。

トントンと宙を蹴りながら空に留まり、下を見下ろす。

 門の向こうには、モンスターの大群以外が蠢いているのが見えるのみだ。

予想通りではあるが、軍人の生存者がいないとは断定できない。これだけモンスターが蠢いていたら、念動力で探知するにも限界がある。

…いきなり全部吹っ飛ばすわけにはいかないか。

仕方ない。まずはこいつだ。

杖をしまい、一番の相棒となった太極棍を取り出す。

最近では闘気というものの存在にも随分慣れてきて、数呼吸の内に太極棍へと十分な量が伝播していく。

さぁやるぞ。まずは『龍の翼』!

一気に地上へと急降下する。狙いは大雑把でいいだろう。

「まとめて弾けろ!!」

放ったのは、龍神より授かった奥義の複合技、『飛龍彗星メテオドラグーン』。

最初の一撃で、門の周りにまとわりついていた数十体のモンスター達が蒸発し、地面には巨大なクレーターが穿たれた。

「まだまだ。『龍の爪』!」

二足歩行の大型竜、黒紫色の大ムカデ、目玉が十個以上ついたスライム…。

さすがA級と言わんばかりの粒ぞろいだが、今の俺の敵ではない。

一振りで数体ずつを絶命させていく。基地の中で一番広い道を、第3層へ向けて真っすぐに走った。

飛行型モンスターもちらほら居るが、どうやら壁上の対空砲が撃ち落としていたようだ。

ハックされて暴走していても、飛行型モンスターだけは壁外に出さないようにしているらしい。

今後のために壊さないほうがよかっただろうか。でも支援部隊が来た時に困るから、仕方ないな。

 

 屋外に居る人間は生きてはいないだろうから、とにかく無事な建物を探す。

小さな建物は、恐竜みたいなモンスターに踏みつぶされて、軒並みぺしゃんこだ。

「誰か!生きている人間はいないか!?」

返ってくる返事はない。

上空ではルーパーが機関銃の掃射を掻い潜って、既に相当の数の破壊に成功しているようだ。

こちらも急がなくては。理由は分からないが、なにか、嫌な予感がするんだ。

声をかけながら、辺りを探し回る。

すると、第3層への門が見えてこようかという所まで来たところで、小さな建物が殆ど破壊されずに残っており、その周りに大勢のモンスターが集まっているのが見えた。

なんだ?そこに何かあるのか?

目を凝らすと、建物の前で若い男性がモンスターに囲まれて座り込んでいるのが見えた。

生存者だ!だが腰を抜かしているのか?まずい、早く助けないと!

「そこのひと!今助けます!」

最大級の『威圧』を飛ばして、男性の周りのモンスターに、一瞬だが縛りを加える。

「間に合え、『龍の翼』!」

スピードに特化した極大級のバフをかけて、俺一人だけスローモーションの世界に突入する。

男性を巻き込まない軌道の動線を設定。あとはそこを駆け抜けるだけだ。

ガガガガガガガガガッ!!

ミンチ肉の雨が降り注ぐ中、男性を抱えてその場を離脱する。

「大丈夫ですか?」

「え、えぇ。あなたは…」

「ワタセといいます。ダン協の人間です。この基地を救いに来ました。あなたは…軍人ではないようですが」

見かけは20代くらいか?若そうなのに、綺麗な真っ白の髪を肩まで伸ばしたこの男性の恰好は、一般市民のそれだった。

「ワタセさん…。私はルドルフといいます。この2層区画で清掃の仕事をしていました。助けに来てくれてありがとうございます。物凄くお強いんですね」

「この区画の生き残りはあなただけですか?」

「そのようです。軍人さんたちは、私を逃がそうと戦ってくれましたが、あえなく…」

やっぱり既に壊滅状態だったか。くそ。

「ここはもうすぐ焼き払いますから、今からあなたを街へと逃がします」

「なんと…。分かりました。何か、ミサイルでも持ってくるのですか?」

「そのようなものです」

ルドルフと名乗る男性は、モンスターに食い殺される寸前だったというのに、意外と冷静だった。


 モンスターの死骸の間を駆け抜けて、男性をかついで街まで戻ってくると、ナーシャとリーリャが探索から戻ってきていた。互いに声を掛け合う。

そうして、複数のヘリの音が聞こえてきた。後方支援部隊がたった今、到着したようだ。いいタイミングだな、さすが状況をよく見ている。これで住民の避難が進められる。

「太一!基地の様子はどうだった?」

「ナーシャ、あっちは…全滅だったよ。唯一助けられたのが彼だ」

ルドルフの方を見る。彼は、生き残った兵士達に毛布や食事を与えられて、傷の手当を受けていた。

傷、か。ほとんど無傷のように見えたんだがな。

「そう…。街も、酷かったわ。建物の中では教徒達が人々をモンスターの贄にしていただけでなく…自分自身で…た、食べていたの」

なんだそれ、そんなのまるでゾンビじゃないか。

何をどう弄ったら、人間が人間を食うようになるんだ。

「ナーシャ、それは-」

「やぁタイチ君!アナスタシア君!それにリーリャ!!」

聞けばすぐにグラジエフとわかる大声が飛んできた。

部下を引き連れてわざわざ現場へやってきたようだ。

「パ…グラジエフ将官、まだモンスター達は大勢残っています!後方で待機しておいてください!」

リーリャが慌てて進言した。

まぁ無理もない。ガタイは良いが、グラジエフは加護者ではない、普通の人間なのだから。

「そう慌てるな。それを今からタイチ君が焼き払うのだろう?」

「そ、そうだけど」

「ならば私は、諸君たちが見事な手際で教徒共を制圧したこの第1層で、直接指揮をとり、市民の避難や現場の検証に従事しようではないか!」

相変わらず熱い。そして人ができた将官だ。

それならば尚更、モンスター達の殲滅を急がないとな。

「教徒達の件は後で解明していくとしよう。俺は一刻も早く、壁の向こうを焼き払ってくる。ルーパーを借りていくぞ」

「待って!私も連れて行って。基地には、同僚や後輩も沢山いたのに…。彼らを皆殺しにしたモンスター達をあんたが焼き払うところを、私はどうしてもこの目で見届けなくちゃいけない」

「あぁ、そうだな。一緒に行こう、リーリャ」

彼女には、その権利があるだろう。

それに、自分が大量にレベルアップする瞬間は、自分の目で確認したほうがしっくりくるだろうしな。

「行ってらっしゃい、太一。余波が来たとしても私が街を守るから。あなたは全力を出してきて」

「ドカンといってやってください。地上で一発目の打ち上げ花火ですね」

「そんな綺麗なもんじゃないけどな。じゃぁ行ってくる」


 リーリャとともにルーパーに飛び乗り、第3層への門へと飛ぶ。

先程店長と壁上の機銃を潰しておいてくれたおかげで、目的地までは非常にスムーズだ。

先程駆け回って物理的に随分殺してきたのだが、第2層内にもまだまだモンスターは大勢生き残っている。

そして門に到着し、その先の眼前に広がる第3層の光景を目の当たりにした。

(これが、A級の扉か)

大型モンスターが溢れていたわけだ。

ノヴォシビルスクのA級、その入り口は、巨大だった。

まさに大型の門とでもいうべき洞穴の入り口が、地面から隆起して生えている。

その門を封じていたはずの重厚な魔導機械群は、教徒達の工作により全て破壊されていた。

門からは現在進行形で、一定間隔でモンスターが排出されている。その結果、第3層内も大勢のモンスターが溢れかえっている。2層・3層合わせれば、500体はいるだろうか。

「ね、ねぇタイチ、本当にあの数を、あんたの魔法で、殺れるの?」

 五行錫杖を頭上に掲げて、魔力を杖へと充填し始める。

魔力を持っていかれる感覚は、以前と比べれば殆ど無いに等しい。

威力を高めるため、さらに魔力を上乗せして、上空に黒炎の塊を形作っていく。

「まぁ見てな。それより、びっくりして落っこちないように気を付けろよ。俺自身、まだ亜神とやらのパワーに慣れていないんだから」

炎が、黒く大きく渦巻き始めるにつれて、ビリビリと大気が震え始める。

「な…なに、この黒いカタマリ…。炎なの?これを、あんたが?」

リーリャには肯定の笑顔を向ける。

狙いは2・3層をまとめた楕円状の領域の、中央。

杖の力を借りて、なるべく周囲の壁を破壊しないように範囲を調整した。あとは放つだけだ。

魔導機械の復元など出来はしないが、入り口自体を破壊してしまえば、少しは時間も稼げるだろうか。

「さぁ1匹でも生き残れるかな。極大魔法『イン★フェルノ』」


ズォ…ォ…ォ


ヂカッ!!


-------------------------------------------------------------------------


 黒塊が着地した瞬間、真っ黒な閃光(意味がわからないが)が目の前で弾けたのを見た。

そこからリーリャは、自分が今どこにいるのか分からなくなった。

はるか上空から太一の魔法は放たれて、大地に触れて、そして弾けた。

恐らくここには爆発は及んでいないはず。

それなのに。

…いや、あれは本当に爆発だなんて可愛らしい代物だったのだろうか。

何も見えない。何も聞こえない。気味が悪い。

…だというのに、地上からは死滅したモンスター達の断末魔のような悲鳴が鳴り響いているような気がして、彼ら大勢の魂が、自分を目掛けて一斉に飛んでくるではないか。

「ひっ」

思わず悲鳴を上げたその瞬間、肩に、何だか暖かい感覚を覚えた。

その部分を拠り所にして、感覚を拾い集めることに集中する。

(落ち着け、落ち着け…)


 どれくらい時間がたったのだろうか分からないが。

次第に、全身の感覚が戻ってきた。

「ん…」

ようやく目を開けることが出来るようになって、初めて自分があの男に肩を抱かれて支えられていることに気が付いた。

「な、ななな!」


-------------------------------------------------------------------------

 

(おー、これは…なかなか)

たった今、自分が放った極大魔法が起こした事象を確認した。

500体ものA級の魔物を、一瞬でこの世から蒸発させることに成功したようだ。

威力が、格段に上がっている。

生物の限界を突破するということは、こういうことなのか。

ダンジョンの入り口も、消滅とまではいかなかったようだが、大量の灰の山となって崩落したようだ。これでしばらくは時間がかせげるだろう。

案の定放心状態となったリーリャを支えていると、次第に意識が戻ってきたようだ。

目が空いてからは訳の分からないことを口走っているが、そのうち気づくだろう。

モンスター達から奪取した魔素核で、己が大幅に強化されたことに。

そして俺も、ついに2つ目の極大魔法を授かったようだ。


===============================

New!!

『ペネト☆レイ』極大級光線魔法。

イン★フェルノみたいな格好良さはないんだけど、地味に強いよ!

一点特化型の光のレーザービーム!

あなたの魔力を、ストレスとともに大放出しよう!大盤振る舞いだよ!

だから指から放つもよし!掌から放つもよし!目から放つのも…ぷぷ。

===============================


誰が目から放つか!放つこっちが怖ぇわ。

第二の極大魔法は、名前はまともだが、解説のほうがふざけていた。

しかし、当然だが、これまた使えそうだ。

ビームといえば、小回りが効いて汎用性が高い上に、殺傷力にも期待ができそうだ。

ようやくマトモな攻撃魔法を覚えることができたってことだな。感無量だ…。


 試しに掌を空に向けて、一発放ってみる。

「『ペネト☆レイ』」


ビカッ!!!

雲を突き抜けて、はるか空の彼方まで、金色に輝く光の柱が立ち上り、一瞬で消えていった。


まさにその瞬間。

大きな警報のサイレンが、基地の中に鳴り響いた。

ウーーーーー!ウーーーーー!ウーーーーー!


「え、ちょっとまって、俺なにもしてない。空にビームしただけ…」

「違う。タイチ、これクラスⅠの警報音よ。基地の中で危機的な事態が発生した時の」

「え」

完全に意識を取り戻したリーリャが、そうつぶやいた。

「タイチ、市街地でなにか起きたのかもしれない!」


 それを聞いた瞬間、これまで忘れかけていた『嫌な予感』が腹の底から吹き出してくるのを感じた。

「…!ルーパー!とばせ!」

「ルパ!」


勝利を喜ぶ時間をほんのつかの間ほどにも与えられず。

太一は、街へと急転した。

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