第15話 邂逅
日間ローファンタジー2位!
ブックマーク1000件! 信じられない状態になってます。
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「おぉー、なんとかお天道様の下に帰ってこれたなぁ」
太一は無事に、地上へと帰還を果たした。
入ってきた時と同じで、辺りには相変わらず人気がなく、ダンジョン発現の影響で崩落した建物がそのままにされている。
大きく変わっているのは、太一が踏破したダンジョンの入り口が、まるで最初から存在などしていなかったかのように消失したことだ。
…そっか、踏破したダンジョンは、消えてなくなるんだな。
太一は、バックパック型の麻袋を背負い直すと、脱出の時のことを思い起こした。
-あの後-
気絶していた太一が目を覚ますと、大きな振動と地鳴りと共に、ダンジョンがゆっくりと崩落しようとしていた。金剛棒の破片の一部を集めて手を合わせ、オーガの魔素核を回収すると、脱出手段を求めて急いで玉座へと向かった。
するとそこにあったはずの巨大な黄金色の構造物は消え失せており、
脱出用っぽい魔法陣と、その横にポツンと宝箱が置かれていた。
箱の蓋を開けると、質の良い布にくるまれて桃色の鮮やかな卵が丁寧に収められており、蓋の裏には文字が刻まれていた。
『八百万が一、我ら希望の獣をここに守護する。加護を授かりし者と共にあらんことを』
なんとなく「お前が持っていけ」と言われている気がしたので、丈夫な麻袋を錬成し、くるんでいた布ごと中に入れて背負った。
既に天井が崩落しかかってきていたが、なんとか無事に脱出することができた。
結局このダンジョン踏破の戦利品らしい戦利品は、この卵だけだったということだ。
何が産まれてくるかも分からないが、八百万神に関係するとすれば、育てればなにかの役には立ってくれるかもな。
ささやかな愛をこめて、袋ごと『バリアー』を施しておいた。
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ブロロロロロロロロ…
カプセルバイクを噴かせて、俺は今自宅への帰路についている。
ちゃんと帰る自宅が残っているのかは分からないが。
ちなみにこのバイクも何を燃料に走っているのかよく分かっていない。謎駆動だ。
コンビニなどが軒並み店を閉めていたため、通りがかった人に聞いて確認したのだが、今日は1月20日とのことだった。かなり怪しい人を見る視線を送られてしまった。
携帯電話はひたすらオーク狩りをしている間に電源が切れたので、その後はマッピングなしで進んでいたのだが、時間感覚がわからなくなっていたのだ。
そんなに長い間潜ってたのか…。
地上では、さぞや激動の3週間だったことだろう。
帰ったらとりあえずテレビつけよう。
ブロロロロロロロロ…
辺りはひっそりと静まり返っている。
気配察知のレーダーを広範囲に飛ばすが、民家5-6軒につき1軒ほどしか人がいないように思う。
この辺りは被害も少ないし、これ以上疎開しようがないくらいには田舎なんだが…皆どこに行ってるんだろう。
もうすぐ家が見えてくるというところで、かすかに人の叫び声が聞こえた気がした。
察知を飛ばすと、人と一緒に大きめなモンスターの気配を感知した。
バイクを急転させると、フルスロットルで気配のする方向へと急行した。
ドドドドドドドドド
お、見えた!
長い農道の500mくらい先で、若い青年が飛行型モンスターに襲われようとしていた。
片手でバイクのハンドルを操作しながら、もう片手で愛銃を一挺取り出す。
ハンドガンでロングスナイプだなんて通常無謀だが、これは魔弾なので風の影響は受けない。
『超集中』を発動し、モンスターの頭部に狙いを定めると、貫通特化型にサイズを絞った魔弾を装填し、素早くトリガーを引いた。
魔弾は見事モンスターの頭蓋で横のトンネルを掘り、脳漿をシェイクして飛び立っていった。
青年は半狂乱状態だったが、モンスターが目の前で動かなくなったのを見て、キョトンとしていた。
バイクを止めて上空を見上げる。
同じモンスターの群れが数匹、東の空から飛んできているのが見えた。
白昼堂々空にプテラノドンみたいなのが飛んでる世の中だなんて、ジュラ紀に戻ったみたいだな。
『ステータス閲覧』
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ワイバーン
種族:モンスター(飛竜)
性能:体力C, 筋力C, 魔力C, 敏捷A, 運F
スキル:ファイアブレス, ハイエアリアル, 爪強化
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かなり素早いな。
くっくっく、まぁ新しく覚えたあのスキルを試すいい機会だ。
オークの時と同様に、格上の相手へと下剋上を食らわせた太一は、レベルが跳ね上がっていた。
そしてついに、もう一神の加護によるスキルを授かるに至ったのだ。
現在のステータスはこうだ。
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渡瀬太一(30)レベル:110(EXP+300%)
種族:人間
加護:魔神, 龍神, 八百万神
性能:体力S, 筋力S, 魔力S+, 敏捷S, 運E
装備:フォースリンガー, アンダーアーマー, 祝福のカジュアル, 黒のロングコート, ウィンドシューズ, 幸運のタリスマン
【スキル】
戦技:龍の爪, 火事場の真剛力, 韋駄天, 隠形, 金剛, 超集中, 威圧
魔法:イン★フェルノ, ファイア, フリーズ, サンダー, エアリアル, アースウォール, ヒール, キュア, ドレインタッチ, バリアー, 念動力, 身体強化, 超魔導, 簡易錬成
技能:ステータス閲覧, アイテムボックス, テイム, 消費魔力半減, 起死回生, 超回復, 状態異常耐性, 念話, 意思疎通
【インベントリ】
アイテムクーポン(下×31/上×24/特上×4), 装備クーポン(下×10/上×3/特上×2)
製造くん(食糧/飲料水/快適空間/ユニットバス), 何でも修理くん, カプセル(ハウス/バイク/カー),
エクスポーション×2, エクスエーテル×2
魔素核(小×120/中×15/大×1)
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…まぁ、最初はちょっと、見間違いかなとか思ったよ。
『龍の爪』とか割と格好良かったからさ。
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『イン★フェルノ』極大級爆炎魔法。
煉獄より這い出し黒の炎が弾けて、一帯を蹂躙し破壊し尽くす。
熟練度が上がれば、炎・爆発・範囲が調整制御できる。
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説明文はかなり強そうなんだけど。
ネーミングが、ちょっとというか…だいぶキラキラしてる気がする。
…魔神様って少しおっかないイメージだったけど、意外とそうでもないのかも。
制御が難しそうだが、空に向かって放つならそんなに気にしなくて良いだろう。
初回だし、フル出力でいかせてもらうぞ。
ワイバーンの群れを視界に収める。
その群れの中心あたりに狙いをつけて右手をかざすと、魔法を発動させた。
『イン★フェルノ』
途端、猛烈な勢いで体中の魔力が右手の一点に向かって集まり始めた。
今までに感じたことがないような類の、とてつもない脱力感に襲われる。
お、おいおい…これ半分以上持っていかれてないか?
掌の前に、拳大ほどの真っ黒な炎がギュルギュルと形成されると、
ボンッ
と、すごい速度で上空へと飛んでいった。
なんだかサイズ的には初期の頃のファイアを思い出すな。
たーまやー…。
黒い炎は上空でホーミングして集団を追いかけ、その一体に触れた。
次の瞬間。
カッ!!
ッッッドォォォォォォォォォン!!!!!
上空で黒い炎がはじけて、大爆発が起きた。
真っ黒な雲で空が覆われたかのように、あたりが急に夜のように暗くなる。
灼熱の黒い炎の絨毯は、上空でしばらくの間蠢いたあと、ふっと消えてなくなった。
ワイバーンの群れは塵一つ残さず消滅したようだ。
もはや魔素核は降ってこなかった。
近隣の方々がなんだなんだと外に出てこられたので、そそくさとその場を離れた。
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あれを全力で放つのは、熟練度が上がるまでは禁止だな。
飛行機が殆ど飛ばない今の世の中じゃなかったら、下手すりゃ単独テロの実行犯だったわ。
だがついに、俺の1番の優性である魔力を活かすことができる、強力な攻撃スキルが得られたのだ。これはかなり嬉しい。
魔神様の凄さについて再認識し、感謝と謝罪を空に向かって捧げた。
そして、随分久しぶりな気がする、わが家へと到着した。
マンションとその周辺は無事な姿を保っている。
明らかな暴動なども起きていないようだ。電気やガスなどのライフラインも稼働している。
家に帰ってすぐに快適空間製造くんを設置すると、テレビをつけた。
腹が減っていたので、製造くん印のエコな食事を摂取しながら放送を見る。
テレビ画面の向こうでは、中心地が壊滅した東京や大きな被害を受けた大阪が映し出されており、両エリアからのモンスターの侵攻状況がマッピングされている。現状、A級ダンジョンが出現した東京でも、陸上型モンスターは近隣県域内を分水嶺として何とか留まっているようだ。ただし、飛行型モンスターを全て抑止するまではいかず、被害が全国で点々と報告されている。他には、食糧支援や医療支援、各地でのライフラインの稼働状況などが目まぐるしく表示されている。
世界に目を移すと、国土の半分近くが1つの巨大なダンジョンと化してしまった2大大国や、現状では比較的被害の少ない西欧諸国などについてのリポートがリアルタイムに更新されている。アメリカ大統領はダンジョンから押し寄せるモンスターの軍勢から市民を救うため、国土に水爆を投入したようだ。ダンジョンには傷ひとつ付けられず、多くのモンスターは生き残ったそうだが。それで大統領自身のレベルは大きく上がったとか。それでも、両国で大勢の国民が難民として近隣国に逃れているのが実情なようだ。
…ほんの3週間前までなら、とても現実とは思えなかっただろうな。
『対ダンジョン協会』なる存在についても、詳しく解説していた。
ブラジル人のアレキサンダーという一人の男性が発足させた民間組織だが、ダンジョンやモンスターについての確かな情報をもち、世界各国に支援支部を設置し始めているとのことだ。
ネットで検索すると、俺があの時閲覧にした『全国ダンジョンマップ』も、この組織が出していたものだと分かった。
ここからはダン協ホームページへと移り、さらに詳しい情報を収集した。
内閣や災害対策委員会が機能しなくなった日本では、自衛隊は独自の判断でダン協と密接な関係を築き、その情報・技術を取り入れた。重要な指針としては以下のようなものだ。
・概ね、体力Dまでのモンスターはアサルトライフルや手榴弾等の現代兵器で討伐可能。
・強力なモンスターから採取できる『魔素核』は魔導兵器として応用でき、それを使用すれば体力C以上のモンスターを討伐することも不可能ではない。事実、旧自衛隊部隊に加え、発足したばかりの魔導兵部隊が、東京や大阪周辺への被害拡大抑止に確かな効果を上げている。
・レベルアップにより、加護のない人間でも能力は底上げできる。
加護をもつ人間は、魔素核を額に当てると、瞳に色のあるリングが浮き上がることでわかる。
Cランクのダンジョンでは、体力S以上のダンジョンマスターは原則出現しない。
加護をもつ人間が訓練すれば、いずれ必ずやダンジョンを踏破することも可能になるだろう。
・希望した民間人は無償でレベルアップ訓練を施すが、命の保証は出来ない
・緊急措置として民間人の武器の所有を合法化とする。
などだ。
へぇ、魔素核を使えば人間が魔導武器を作成できるのか。
俺のクーポン装備は、近接含めて全部魔導装備ってことなんだろう。
俺がダンジョンを踏破したことについては…特に触れられていないようだ。
ダンジョンマップからも、あのダンジョンの情報は消されていた。
近代兵器が効くのは体力Dまで…か。
なんとなく感覚的にも理解できてしてしまうが、今の俺って、ミサイルの直撃を受けても痛くもかゆくもないんだろうな。
はは、完全に人間辞めてるな。
ん?
日本にも沢山の大〜小規模な支部があるが
世界最大クラスの対ダンジョン基地を、現在急ピッチで建設中…場所は…へぇ、しかもここ岡山の海沿いなのか。
周辺圏域含め、基地のスタッフ募集中か。武道や銃器、IT、工学、経理、製造、農業、調理などの経験者優遇と。
なるほど、魔導武器製造工場等を守るための要塞型だから安全も担保されるし、この辺りの住人もこぞって見に行っているのかもしれないな。簡単な保育・教育施設のようなものも出来るそうだ。
ただ、モンスターの襲撃はありうるし、いずれ最前線になる可能性もあるとのことだ。まぁそれは仕方ないか。地下シェルターも出来るそうだし、少なくとも散発的にワイバーンに襲われるリスクが発生するよりは良いかもしれない。
面白そうだな、俺も見に行ってみよう。
とりあえず今日はもう遅いし疲れたから、また明日にしよう。
そうだ、寝る前に、砕け散ってしまった金剛棒の代わりに、新しい棒武器をもらっとかなきゃな。
どれどれ、クーポン上で…お、これだな。
これはなかなか強そうだな。
あとは、極大魔法の出力や制御を上げる杖装備もクーポン上で得ておこう。
ほほー、いろいろあるな。
うん、これなんかいいだろう。
2本とも、今日から宜しく頼むな。
…
zzz…。
快適空間製造くんが、さりげなく照明を消してくれた。
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翌日、バイクに跨り、少し離れたダン協基地へと向かう。
ピンクの卵は、『簡易錬成』で作った重さ0.3tの鉄の檻にしまって置いて行くことにする。
さすがにこんな得体の知れない巨大卵を背負って行ったら、中に入れてもらえないだろうからな。
バリアーもかけてるし、マンションが倒壊しようが盗人が入ろうが、問題ないだろう。
「タマゴちゃんや、ちょっくら出掛けてくるからお利口にしててな」
安全運転でバイクを駆ること1時間、基地のある瀬戸の海沿いへと到着した。
近づくにつれて、どこまで続いているか分からないくらい長く、高い外塀が見えてきた。
高さは20mはあるだろうか。
敷地面積も広大なスペースが確保されており、基地というより、もはや小さな一つの町のようだ。
基地を覆う外堀は、魔素を使用し高度に自律稼働する魔導ロボットにより急ピッチで建設が進み、この1週間程という相当に短い工期の中で、既に概ね完成していた。
塀の上には、モンスターに反応する自律稼働タイプの魔導兵器が多数設置されている。
まさに新時代の幕開けといった様相だ。
敷地内では様々なビルや地下シェルター、科学工場、農業工場などの建築が同時並行で進められており、なんと魔導兵器工場は真っ先に完成させ、既に稼働しているとのことだ。
…これら魔導兵器や魔導ロボットすべて、おそらくは『三人』の一人であろうアレキサンダーって人が設計製作に携わったのだろうな。戦闘特化バカになった俺と違って、そういったスキルや知識に精通しているのかもしれない。もしくはクーポンを活用したとかな。
しかし、こんな大規模な要塞、なんでわざわざ中国地方の岡山に作ったんだ?
工場を守るためだけなら、沖縄や北海道に作ったほうがより安全だろう。
要塞であればB級A級ダンジョンの中間にある長野や静岡辺りがベストな気がする。
要塞化は飛来するモンスターからの自衛のためと公表されているが…何か事情があるのかもな。
門の兵士に身分証を見せると、一般人向けに解放された区画へと入れてもらった。
『スタッフ募集面接』と書かれた建物では、入植希望者が多数、長蛇の列を作っていた。
日本や世界を救うために働きたい人、レベルを上げて兵士になりたい人、家族の安全を確保したい人、様々なようだ。
加護者養成所、はまだ稼働してないみたいだな。
食堂のメニューはやや味気なさそうだ。
戦時下だから仕方ないな。
様々な建築が進められており、沢山の人が行き来している。
皆に、とても活気がある。
…ここではこれ以上は特に、見どころはないかな。
せっかく来たからには、魔導兵器工場をひと目見てから帰りたいが、立ち入り禁止区画となっている。
「…まぁ、見るだけだからさ」
ちらちらと周りを確認し、『隠形』を発動すると、非許可区画への不法侵入を開始した。
時には人や監視カメラの目をかいくぐり、時には建物を飛び越え、時にはレーザー探知機をかいくぐり、時には空を跳び。10分程で、誰にも気づかれることなく、基地の中央区に位置する工場区画内へと侵入した。
(良い子はまねしないでね)
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工場内に入ると、ゴゥン、ゴゥンと聞き馴染みのない機械音が地鳴りのように響いていた。
「おぉ…!」
そこでの光景は、なかなかに目を奪われるものだった。
人や生物の姿は、そこには一切ない。
すべて自律稼働する魔導機械が、まるで意思をもっているかのように、精巧な作業を行っている。
特殊な加工で魔素核を溶かし、武器や防具を構成する金属にその少量を加えることで強固な下地とする。中央の巨大な炉の中からは、まばゆい虹の光が絶え間なく溢れ出しており、そこで結晶化された魔素核は格装備の中核部分へと設置される。無数のパーツが一瞬で組み上げられ、完成品はベルトコンベアーに運ばれ、丈夫そうなアタッシュケースに収納される。
数え切れないほどのケースが整然と並んでいる様は、まさに圧巻だ。
「これはすごいな…」
…気を抜いていたし、夢中になっていたということもあるが。
「ふふ、ダメですよ、勝手に入ったら。一応ここは、最高機密なんですから」
…!?
なぜ気が付かなかった!?
即座に振り向き距離をとる。
ところが、警戒心あらわな俺とは対照的に。
薄明かりの中、スラっとしたブロンドヘアの女性が、穏やかに微笑みながら佇んでいた。
…気配察知が反応できなかった。
ってことはそうか。この人が。
「お出でになられるのをお待ちしていました。あなたが『三人』の最後の一であり『希望』ですね。
私はアナスタシア。あなたと同じ、地球の神から危機に抗うためのギフトを授かったものです」
バックグラウンド描写が多めになってしまい、読みづらかったかと思います。
おや?と思われる所もあるかと思いますが、大目に見ていただけると幸いです。
ただ、ようやく麗しのアナスタシアを登場させられました。
ひねくれ者の太一オンリーだったので、これで少しは文章も潤うハズ。
今後ともよろしくお願いいたします。