第1話 初ガチャ
俺はしがない30歳のフリーター、渡瀬太一。
両親は俺が幼い頃に事故で亡くなり、高校を卒業するまで施設で育てられた。
特に人生に目標もなく、コンビニバイトで日々を食いつないでいる。
代わり映えしない毎日を過ごすうちにいつしか、「こんなつまらない檻のような世界は、一度適度にぶっ壊れてしまえばいいのになぁ」と夢想するようになった。
適度に、をつける辺りがビビリの証であり、性悪とも言い切れない証ではあったが。
2019年大晦日の夜23時頃。
赤白歌合戦もママ使にも興味はなく、下火になりつつあるアングラサイトを惰性的にネットサーフィンしている。不謹慎ニュースサイトから、TABボタンで隠しリンクを探していると、
『xxx.gacha.com』という不自然なアドレスのリンクを見つけた。
「なんだこれ。こんなアドレス初めて見たな。が……ちゃドットコム？アングラも流行りを取り入れてきたってことかな。どれどれ」
意気揚々としてリンクをクリックすると、真っ白で何もない画面が現れる。
なんだ手抜きなページだな、と思いつつもTABを使いさらにリンクを辿ってみる。
通販サイトやエロサイトへの誘導リンクが大量に貼られているだけのようだが、真っ白なページは下へ下へとどこまでも続いている。
「無駄に広くて、無駄に多いリンクだな。よーしこうなったら絶対真のアングラリンク探してやるぞ」
ぽちぽちぽちぽちぽちぽち
リンクを確認してはTABを押す作業を、無心になって30分ほど続けていると。
『gacha.com』という謎のリンクに辿り着いた。
「よっしゃきた！しかしまた変なアドレスだな。どれどれ」
ポチッと押すが、なぜかリンクへは飛べずにPCがローディング中となってしまう。
「なんだ、無線LANの調子悪いのかな。あー苦労して探し出したってのにタイミング悪いなくそったれめ」
やけになってリンクを押し続ける。
カチカチカチカチカチカチカチカチカチ
その横で、時計の秒針はゆっくりと2020年1月1日0時0分へと近づいていた。
カチ……カチ……カチ……カチ……カチ。
ピカッ
一瞬、画面から凄い量の光が溢れた気がして目を閉じるが、開いたときにはついに待望のリンク画面が現れていた。
日付はちょうど新年を迎えたところであった。
画面にはこう書かれてある。
『本当におめでとうございます。あなたの人生を変えるスキルガチャが引けます。1回1万円。今ならなんと10連ガチャが初回のみ無料です！』
『このページは今後再アクセスできませんので、アプリのダウンロードをおすすめします』
「人生が変わるガチャだなんてうさんくささ満点だな。しかも1回1万円ってぼったくりだろ。ダウンロードなんて絶対するか！……ただまあ」
初回無料という言葉は大好きである。無料の分だけはやってみることにした。
『回す』の文字をクリックすると、安っぽいBGMとともにガチャガチャレバーが勢いよく回る（よくある）演出が流れ、10個の色とりどりなボールが画面内に排出された。
パンパカパンパンパーン♪
『今回のガチャは～？
C：アイテムクーポン下
C：アイテムクーポン下
R：装備クーポン下
C：取得経験値増加 +5%
C：取得経験値増加 +5%
C：アイテムクーポン下
R：スキル『火事場の馬鹿力』
C：取得経験値増加 +5%
SR：スキル『ステータス閲覧』
SR：装備クーポン上
以上の結果でした！またプレイしてね、太一くん♪』
演出が終わると、また元のシンプルなページが表示された。
入力してもいない自分の名前を呼ばれたような気もしたが、すぐに虚無感が現れて忘れてしまった。
「はぁ、人生が変わるとか派手なタイトルの割に地味なネーミングのガチャ内容だなぁ。しかもスキルガチャって言いながら、半分くらいクーポンだし。『ステータス閲覧』ってのもテンプ……うぉ！？」
突如目の前に電子的な画面が現れる。
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渡瀬太一（30）レベル：1（EXP＋15%）
種族：人間
加護：なし
性能：体力G, 筋力G, 魔力G, 敏捷G, 運G
装備：なし
【スキル】
戦技：火事場の馬鹿力
魔法：なし
技能：ステータス閲覧
【インベントリ】
アイテムクーポン下×3, 装備クーポン下×1, 装備クーポン上×1
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な……なんじゃこりゃ
初めまして、どふらっとんと言います。
爽快感はありつつも、少しはハードルもあり、ドラマもあり。
そんなファンタジーを描けたらいいなぁと思います。
よろしくお願いいたします。
