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比翼連理


 チャイムがなり授業が終わる。

 それと同時に立ち上がり、誰よりも早く私は教室から出ていく。

 少し足早に歩いて行くと、すぐに後ろから呼び止められた。


「ま、待って! ねぇ、そんなに急いでどこに行くの?」


 振り向くと、焦ったように追いかけてくる幼馴染の彼女。私の前にくると慌てていたことを隠すように姿勢を整えている。


「その、御手洗に、恥ずかしいけど限界で……」

「え⁉ 呼び止めてごめんなさい、急ぎましょう!」


 そう言って私の手を引き慌てたように歩き出す彼女。


「あの、あなたも御手洗に?」

「私はただの付き添い、あなただけじゃ心配だもの」

「……」

「大丈夫よ、外で待ってるわ」

「そ、そこは心配してないよ!」


 結局、彼女は私が出てくるまで待っていてくれ、一緒に教室に戻った。私に寄り添うようにして歩く彼女は一瞬でも離れないと行動で示しているようで、それを意識すると私の心臓は高鳴ってしまう。


 もっと試してみたい……


 次の休み時間も彼女が追いかけてきてくれることを願いながら、同じように私はすぐに教室を出る。


「待って!待ってってば!」

「……あ、どうしたの?」

「どうしたの?じゃなくて、あなたこそ、そんなに急いでどこに行くの?」

「私は図書室に、返却期限が今日までだったの思い出して……」


そう言って手に持った本を見せると、彼女は納得したようで深呼吸をしながら息を整え始めた。


「そういうことなら私も一緒に行きます」

「え、悪いよ。ただ返してくるだけだもの」

「そんなこと気にしないの。さ、行きましょう」

「……」


 彼女は私の手を取って歩き出した。一緒に歩きながら必死に追いかけてくる彼女の姿を思い出す。


 あぁ、なんて、


 なんて可愛らしいのだろう。


 普段は凛としていて明るく、それでいて騒がしくはない。大人っぽい中にも親しみやすさを持っている彼女。その彼女が、私がいないことに慌てて、私を追いかけて廊下を走り、私に追いついた時にあんなに安堵した表情をするのだ。


 私は身体が震えるのを感じた。


 寒いわけではない、むしろ身体の中から熱くなってきている。


 もっと、もっと私だけを見て欲しい。私のことで彼女の全てを満たしたい。次はどうしたら彼女がもっと私を見てくれるだろうか……


 私の手を引き前を歩く彼女の背中を見ながら、私はそんなことを考えていた。




 放課後、帰りの支度をしていると彼女がやってきた。


「さ、一緒に帰りましょう!なんならどこか寄って行かない?」そう言って私を見る彼女は眩しいほどの笑顔だった。太陽のように明るく笑う彼女に一瞬見惚れそうになる。それでも、なんとか考えていた返答を彼女に返す。



「ごめん、あなたとは一緒に帰れないよ」

「……え?」


 一瞬にして彼女の表情から笑顔は消えていた。見る人によっては恐怖を感じるかもしれない能面のような無表情。そんな顔を隠すように彼女は俯き、私を見ずに聞いてくる。


「どうして?」






「今日は私、図書委員の当番で放課後に図書室を開けてなきゃいけないの。流石に待っててもらうの悪いよ」

「……図書、室?」



「なぁんだ もう、それならそうと先に言ってよ!」


 顔を上げた彼女の表情は笑顔に戻っていた。


「どうかしたの?」

「なんでもない。それより私、終わるまで待ってるから一緒に帰りましょう」

「え、でもけっこう待たせちゃうよ?」

「あなたはそんなこと気にしなくていいの。私が一緒にいたいから待つだけなんだから」


 先ほどまでのあの表情、一見なんの感情もなくなってしまったような能面のような、あの顔。


 あの表情の内側には私への感情が渦巻いていたのがわかった。


 どうして私と一緒に帰れないの?

 どうして私と一緒にいてくれないの?

 どうして?

 どうして?

 どうして?


 私より大切な人でもいるの?


 あの目で見られたときは、そう無言で聞かれているようだった。


 あの時私は――



 ――もっとその表情で私だけを見て欲しいと思った。


 だけど、彼女はまだ我慢していた。私の予定を聞いて自分を納得させていた。だからもっと、もっと私だけを見てくれるようにしなきゃいけない。彼女が我慢できなくなるように……



 私が図書委員の仕事をしている間、彼女は図書室で静かに本を読んでいた。


 窓際の席に座り、耳に髪をかけて本を読んでいる彼女はとても絵になっていて、私の他にも彼女に見惚れているような生徒がチラホラいるようだった。やっぱり彼女は人気だ。あの綺麗な容姿につられていろんんな人が寄って来る。

 

 そんな視線を気にすることなく本を読んでいる彼女、ときおり顔を上げて見るのは私のことだけ。目が合うと小さく手を振ってくれる。そんな動作がいちいち可愛らしく、私の心を刺激してくる。


 今は私だけを見てくれている彼女、だけど彼女の周りにはたくさんの人達がいる。いつの日か、私じゃない誰かに彼女の視線が向くかもしれない。それが、たまらなく嫌だ。


 一度は自分から手放した。けど。彼女から私のもとに戻ってきた。離れた期間があるからこそ、もう一度手に入れた今は、以前より彼女への想いが強まっている。


 だからもっと、私を見てもらいたい。




 下校時間も近づき、図書室にも勉強や本を読みに来ている人もほとんどいなくなっていた。あとは、時間になり次第図書室を閉めて帰るだけ、委員会の仕事もここまでくれば、ほぼ終わりのようなものだ。


「今日もお疲れ様。」一緒に今日の当番になっていた先輩が声をかけてくれる。先輩とは本の趣味があい、委員会でもよく話しをする方で、今日も何気なく会話を続ける。


「先輩もお疲れ様です。そういえば、先輩の進めてくれた本、読みましたよ!」

「ホント?で、どうだった?」

「すごくよかったです!時間があれば語り合いたいくらいですよ」

「お!いいね、この後、どこか寄ってく?」





「お仕事、終わったの?」


 彼女が私のすぐ後ろに立っていた。


「あ、うん。あとは図書室を閉めて終わりだよ」

「そうなんだ。じゃあ一緒に帰りましょう。もう下校時間よ」

「でも、戸締りがあるから……」


「なんだ、今日はお友達がいたのね。いいわよ、戸締りは私がやっておくから」

「ありがとうございます。さ、行きましょう」


 先輩にお礼を言って私の手を痛いくらいに引っ張って行く彼女の目には私だけが映っていた。そのまま私を連れて歩く彼女、付いて行くが、明らかに昇降口ではなに方向に向かっていて、どんどんと人気のない方向に進んでいる。


「ねぇ、昇降口ならこっちじゃない……」


 そこまで言ったところで彼女に力づくで壁に押し付けられた。すごい勢いで一瞬、言葉に詰まる。


「私と一緒に帰ろうって言ったよね?」

「え?」

「なんで先輩とどこかに行く話をしてるの?」

「そ、それはあなたも一緒にと思って……」

「いらないでしょ!先輩は! 私とあなただけでいいの!」


 私を壁に押し付けたまま叫ぶ彼女の形相は、まるで別人のように歪んでいて、いつもの清楚で明るいイメージの彼女はどこにもいない。


 私にはそれがたまらなく嬉しかった。



「あなたは、私だけがいいの?」

「そうよ!」


「あなたは、私だけがいればいいの?」

「そうよ」


「あなたは、私の他には何もいらない?」

「ええ、あなただけいれば、他には何もいらない」






「だから、あなたも私だけを見て」


 その言葉を彼女の口から聞いた時、私は、心から笑うことが出来た。

読んで頂きありがとうございます!

最近、百合漫画を読んでいたら唐突に書きたくなったので、以前書いた短編の続きとして書かせて頂きました!

サブタイは男女じゃないけど大目に見て頂ければと思います。

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[一言] 好き好き!!めちゃくちゃいい!
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