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想い募る


 幼馴染の彼女はあれから毎日看病に来てくれた。


 これまで一緒にいることができなかった期間を埋めるかのように、彼女は少しでも私と一緒にいてくれようとしているのがわかる。


 嬉しかった。


 毎日夢のような気分だ。私が勝手に自己完結していただけで、彼女は今でも私のことを大切に思っていてくれた。それが嬉しくて仕方ない。


 私の風邪も大したことはなく、何日かしてすぐに体調はよくなった。これも彼女の看病のおかげかな、なんて幸せ過ぎてアホみたいなことを考える。


 明日からは学校に復帰する。また一緒に登校しようと言ってくれた彼女の笑顔を思い浮かべながら、私は久しぶりの登校に備えて早めにベッドに横になった。





「ちょっと!あんた早く準備しなさい!もうお迎え来てるわよ!」


 せわしない母にせかされながらなんとか準備を整える。結局、昨日の夜は彼女のことを考えすぎて、なかなか眠ることができなかった。気付いた時にはもう朝、それで慌てて今に至るという……。


「ご、ごめん!お待たせ!」

「あはは、別にそんなに急がなくてよかったのに、大丈夫?」


 大急ぎで玄関から飛び出すと、待たされていたにも関わらず彼女は笑顔で出迎えてくれた。


「で、でもあなたに悪いよ」

「いいのよ。私、あなたを待っているの好きだもの。まるで小学校の頃に戻ったみたいだった」

「あ……」


確かに、私は昔から朝が弱くて、迎えに来てくれていた彼女をよく待たせてしまっていたっけ……


「そういえば、懐かしいね」

「あら、私はあなたとの思い出を一瞬でも忘れたことはなかったわよ」

「う、わ、私も忘れていたわけじゃないよ!」

「ふふ、それじゃ行きましょうか」


二人で一緒に通学路を歩く、こうして一緒に登校するのはもう何年振りだろうか、最後に一緒に登校したのは小学校の時、今はもう私たちは高校生だ。


 となりを歩く彼女はとても嬉しそうで、その笑顔を見るだけで私も自然と笑顔になる。


 小学校にはもう一緒に行くことはないけれど、これからは高校に一緒に通えるんだ。それがたまらなく幸せだった。




 二人で教室に入るとクラスメイトたちが珍しそうに私たちの関係を尋ねてくる。人気者の彼女と、目立たない私。今までは教室で話しをすることなんてまったくなかった。接点のない、対照的なふたりがある日突然一緒に登校してきたら、興味がわくのは当然だ。


 みんなの質問はほとんど、彼女が答えてくれたから、私はそれほど大変な目に合わずに済んだ。あまり話しなれていない私にあの人数をさばくのは無理がる。


 その点、彼女は流石だった。普段からたくさんの人が周りに集まってくる人気者。一人一人に丁寧に受け応えする彼女を見ていると、人気の理由も納得だった。


 また勝手に沈んでいきそうになる自分の心に喝を入れる。彼女が言っていたじゃないか、もう離れないでと。


 本人から言われたのだ。これ以上自信になる言葉もないだろう。私は彼女と一緒にいていいんだ。その内にみんなへの説明が済んだようで、彼女がやってきた。


「ごめん、みんなすごい勢いで聞いてくるから手間取っちゃった」


 そう言って当然のように私の隣の席に座る彼女。どうやら休み時間も一緒にいてくれるらしい。


「さっすが人気者だね。みんなに丁寧に話しているところ、カッコよかったよ」

「え⁉︎ そ、そうかな? もぅ、褒めても何も出ないわよ!」


 いいえ、出ました。

 あなたの恥ずかしそうな笑顔が!


 二人で話をしていると、自然と周りにクラスメイトたちが集まってくる。


「二人は本当に仲がいいんだね」

「私、全然気がつかなかった」

「ねぇねぇ、一緒に来たってことは家も近いの?」


 これが人気者の彼女の力か、これまでまったく関わりのなかったクラスメイトたちも私に話しかけて来てくれる。普段なら目立たない私は、私と同じで目立たないグループの人からしか話しかけられない。


 目立ちたいわけじゃないけど、彼女の凄さを感じられたようで、自分のことのように誇らしかった。嬉しくなった私は慣れない笑顔を作ってみんなに答えようとする。


「えっとね……」

「そうなの!私たち家も近いのよ。昔はよくお互いの家で、二人きりで遊んでたの」


「じゃあ小学校前からお互い知ってるの?」

「うん、ようち……」

「幼稚園の頃から一緒なの。親も仲が良くて赤ちゃんの頃から一緒なんだけどね!」


「へぇ、家族ぐるみの付き合いかぁ、いいね、そういうの」

「かぞく……」

「そうでしょ!私たちは二人だけの幼馴染だから!」



「……」


 私と話し相手の間に入っては、私の代わりに全ての質問に答えてしまう彼女。おかげで私は、結局誰とも話をすることなく、朝礼の時間がやってきてしまった。


「朝礼終わったらまた来るわね。一人でどこかに行ってしまったりしてはダメよ」


 そう言って微笑み自分の席に戻っていく彼女を黙って見送る。


 私は疑問に思っていたのだ。

 彼女はどうしてあんな事をしたのだろう?



 私が他の人と話をしないようにしていた? 彼女の謎の行動は私にはそう見えた。




 昔は違った。


 小さな頃の彼女は恥ずかしがり屋の私のために、たくさんの人と話す機会を自然に与えてくれた。


 だから、またそうなると漠然と考えていた。けれども、今の彼女の行動は昔とは正反対の事のように見えた。




「……」


 一瞬、自分の中にある考えが浮かぶ。


 その理由は、まるで私の理想、いや妄想か、現実にはありえないこと。





 彼女が私のことを独り占めしたいなんて……


 あり得ないとは思いつつも、私は自分の中で大きくなっていく思いを抑えることができなかった。



 もっと、私のことだけを見て欲しいと、そう思った。

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