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砂と塩  作者: ヨシトミ
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第8話 サブ

第8話 サブ


「取引するにも、結託するにも、俺よりも和田さんのが適任じゃね?

俺にあんたを紹介したのは彼だし、同業者でもある」

「和田さんではだめです」

「なんでさ、和田さんだって強いし、いい人じゃないか」

「和田さんは…あの人はいい人とは思います、

ですがどうしてもわかり合えないところがあります。

…それはホークスさんこそ一番にご存知のはず」


銀鷹丸さんは話を打ち切ると、床に乱雑に置かれた紙袋のひとつから、

新しいスマホを箱ごと取り出して、俺に渡した。


「予備機です、これをお使いください」


それからもうひとつ、別な紙袋を物の山から俺によこして来た。


「これは?」

「ガチャを引くお金です」


金…その割には結構な重さだ。


「これじゃ本垢を越えてしまうな」

「面白いですね、楽しみにしています」

「名前はどうする? あんたのサブだから『銀鷹丸2』的なのでいいか?」

「おまかせします」


それから、銀鷹丸さんはアカウントの用意が出来次第、

外部チャットにIDを送って欲しいこと、

「アンブレラアカデミー」への招待を送ること、

サブなので、連合内での発言は不要であることを話した。



帰ってから、問題のスマホを充電し、アプリをインストールする。

名前はわかりやすく「銀鷹」と、彼女の店の名前にした。

そして外部チャットでIDを送ると、すぐに連合への招待が届いた。

加入を確認して、銀鷹丸さんが連合掲示板で発言した。


“今回、人数不足の埋め合わせに、初心者勧誘特典を配布したく、

私のサブを入れされてもらうので、皆さまよろしくお願いします”


もう遅い時間なのに、すぐに「よろしく」と「ありがとう」の返信が寄せられた。

連合員の顔ぶれは変わっていない。

最初に俺をここへ連れて来た、和田さんもそのまま在籍している。

すぐにでも密告者を探りたいところだが、

さすがに初期戦力のままはまずい、まずはガチャを引くことにした。


安田の会社だからゲームもあこぎだ、

ガチャのカード排出確率操作もあからさまだった。

俺が課金しても出るかどうかのカードが、ざくざくと出て来やがる。

初心者優遇とはまさにこの事か。


その翌日も、仕事の合間や終業後にガチャを引き続け、

最低限必要なスキルは揃えた。

…ついさっき始めたばかりの初心者が、

いきなり上位連合必須の補助スキル、「我的化学浪漫」をコンプかよ。

まったくいい時代だな。


並行してクエストも走っており、これはちょうどイベント期間中だったので、

普段より多くの経験値を貯めることが出来、

200近くまでレベル上げする事に成功した。


銀鷹丸さんもいきなり、サブを前衛に出すことはしないだろうから、

後衛向けにデッキを組むことにした。

後衛と言っても、そのデッキにはいろいろな方向性がある。

上げ応援特化、下げ応援特化、コンボ特化、

後衛攻撃特化、遠距離特化、回復特化…。


「アンブレラアカデミー」の後衛は、補佐の「ゴールデンルーラー」さんが中心だ。

強いとは言っても、俺から見ればまだまだ弱いが、

連合内では一番応援効果を出せる。

前衛としてあまりにも弱過ぎる銀鷹丸さんは、

和田さんが無理矢理強引に回復特化させた。

あと、効果を出せるのは前後両刀の人たちで、

参戦スケジュール次第で前に配置される事を考えると、彼らは数に入れられない。


そしてこの連合は、後衛特化の人が少ない。

いても連合下位メンバーで、連合の要求する参戦率から、

コンボ要員がせいぜいだ。


なら、俺がなんとかすればいいって話になる。

確かに俺は最高の連合、「ケミカルテイルズ」をホームとする後衛だ。

本垢で参戦出来れば言う事ないが、今はもう出来ない。

本垢は誰かの悪意で除名になってしまった。

今は復讐のために連合に潜入した、銀鷹丸さんのサブだ。


決して目立ってはいけない、そして知られてはいけない。

この「銀鷹」というアカウントがサブなら、サブらしくあるまで。

俺は連合ページから、銀鷹丸さんのデッキページへとジャンプし、

彼女の後衛デッキを分析し始めた…。


戦力は400万ちょっとと高くない、むしろ低いくらいだ。

だが、HP回復スキルの数は十分過ぎるほど積んであるし、

補助スキルにも不足はない。

…いいデッキだ、上位連合でも即戦力どころか、

喉から手が出るほど欲しい稀少な人材だ。

さすが和田さん、欲しい人材をここで育成しているって訳か。

そして、いずれは彼女を引き抜くつもりなのだろう。


「銀鷹」は、最初の2日ほどを応援コンボ要員として参戦した。

銀鷹丸さんのサブだから、誰も注目なんかしない。

無言でも誰も気に留めない。

だが3日目の22時、第3合戦で「おや」と初めて気に留めた人がいた。

それは軍師の「フランベルジュ」さんだった。


“銀さん、サブも結構すごくない?”


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