第7話 代理人
第7話 代理人
「そんな、言ってもよろしいのに」
銀鷹丸さんはうふふと笑いながら、そう答えた。
俺たちが次に会ったのは翌週の月曜日だった。
休みなのでちょっと付き合って欲しいと電話で言っていた。
その時俺は和田さんにだけでも、俺たちの取引の事を話してもいいかと聞いた。
「わかった、今度説明しとく…で、どこへ付き合えばいいんだ?」
月曜日、俺は仕事を早退して、
銀鷹丸さんと新宿の大通りを歩いていた。
銀鷹丸さんが先で、俺がその後を付いて行く感じで。
今日もやっぱり訪問着で、やっぱり髪をきちんと和髪に結い上げてあったから、
すれ違う人たちの全員が全員、俺たちを振り返る。
「わかったぞ、2丁目だな?」
「違います、彼らも話は通じなくはないと思いますが、
私たちのあの微妙なところまではわからないと思います」
銀鷹丸さんは通りから少し入ったところにある店に入って、
店内から顔を覗かせて、俺を呼んだ。
「ここです、ホークスさん」
それは全国チェーンの宝石店だった。
「今日はここで婚約指輪を選んで欲しいのです。
私が使うものなので、お金を出すのは私、
でも買うのはホークスさん、よろしくお願いします」
銀鷹丸さんはそう言うと、バッグから金の入った封筒を取り出した。
俺はそれを受け取り、上着のポケットにねじこんだ。
「なるほど、確かに必要だ」
店員に用途を告げて、ケースの中の商品を見せてもらう。
こうして美しい宝石や指輪を見るのは楽しい。
男ひとりじゃ、なかなかこんな時間は得られない。
そしてそのうちのいくつかを、銀鷹丸さんの指にはめてやる。
俺はその手で彼女の手を取り、じっと見入った。
「…うらやましい」
俺は本気で銀鷹丸さんを羨ましく思い、嫉妬した。
華奢なデザインの指輪を、ハート形にカットされたダイヤモンドを、
身につけても少しもおかしくないって事が。
そしてそれが似合う指を持っているって事が。
俺の指ではとてもこんな物は似合わない。
「私はアクセサリーがあまり好きではないので、
ホークスさんがうらやましい…」
銀鷹丸さんも視線を落として、俺の手をじっと見入った。
「…これにしましょうか、ホークスさんも気に入ったみたいですし」
「いいね、デザインが可愛い」
先ほど預かった金で会計を済ませて、店を出る。
そして買った物の入った小さな紙袋を銀鷹丸さんに渡した。
「俺ではこういうの、いくら好きでも似合いはしないから、
俺の代わりに身につけてくれたら嬉しい、あんたなら似合うから」
「では、ホークスさん、私も夢をホークスさんに託してもいいですか?」
「夢…?」
すると、銀鷹丸さんは道路に出て、タクシーを呼び止めた。
そして車内に俺を押し込んで、彼女の自宅住所を運転手に言った。
「あいにく今日は持ち歩いていなくて、私の部屋に置いてあります」
例のおっさん臭いゲーマー部屋に着くと、
銀鷹丸さんはやはりゲーム機がたくさん乗った机の上から、
見たことのあるスマホを、充電コードから引きちぎると、
俺に差し出して来た。
「これです、『戦国☆もえもえダンシング』」
「そういやこれがきっかけだったな…てか、あんた弱過ぎだろ」
「なので、私ではとても連合を100位以内に連れて行くことはできません。
規約違反なのは重々承知ですが…。
来週からの合戦イベントを、『銀鷹丸』として出てもらえませんか?」
俺はそのスマホを銀鷹丸さんに返した。
「どんなに弱くてもあんたはいた方がいい、盟主は連合員のいちばんの支えだ」
「ホークスさん…」
「あんた、別の端末といくらかの金を用意出来るか?」
銀鷹丸さんは陽が差し込んだように、ぱあと笑顔になった。
「それでは…!」
「俺を除名して、その後加入がなければ、連合は今19名のはずだ。
盟主が自分のサブを入れるのならば、誰も文句は言わない。
ましてや規約違反にはなり得ない。
そして俺は密告者を探し出して、復讐する…それでもいいか?」
「…いいでしょう、それが裏で行われる事ならば」
復讐を許すとは、さすがあんたは嫌な女だな。
別ゲーで、銀座で勝ち上がっただけある。
なんだか楽しい、こうして裏で動くのは嫌いじゃない。
でもひとつ疑問がある。
「…あのさ、聞きたいんだけど。なんで俺な訳?
もっと他のやつでもよかったんじゃないか?」