第59話 聖地巡礼
第59話 聖地巡礼
「何だこの外人の集団は…?」
「さあ…? いきなりどこから湧いて来たんでしょう?」
俺と直孝さんは門の中から、行き交う外国人たちを眺めていた。
欧米系の人がほとんどらしい。
そこへ、よしのりが裏からやって来た。
「秀忠くん、直孝、これて…?」
「よしのりもわからんか」
「わからん、観光客らしいのはわかるねんけど…。
なんでこない何もないムラに? 神社とかもあらへんし」
「ちょっと俺が聞いて来ますね…!」
直孝さんが門から飛び出し、海沿いを歩く熟年の夫婦に声をかけた。
それから彼は質問を始めた。
驚いた、いかにも脳筋そうに見える直孝さんが、
ネイティブレベルで英語を話すのだ…!
「すごいな、英語べらべらやん」
「さすが元お坊ちゃんだな、やるじゃんか」
「秀忠さん、よしのりさん、大変です!
彼ら全員イギリス人で、ホークス先生のファンなんです…!」
直孝さんはとりあえずそこまでを一気にまくしたて、
息を整えてから続けた。
「ホークス先生の作品が、本国のメディアで大きく取り上げられたんだそうです」
「まさか、ありえない」
父はあくまでも大学のいち教員であり、
作家としてはまったく売れていなかったからだ。
「言ったはずだよ、ホークス先生は本国では評価されていると。
昔の作品に、故人に、与えられる文学賞がないだけだよ」
直孝さんの話に、赤坂の父は嬉しく何度もうなずいていた。
「その作品の舞台がなくなるかも知れない…メディアはそう報じたのだろう。
だからその前に一度は訪れたい、それがこの観光客なのだろう」
…そして、彼らに働きかけ、動かしたのはハリスさんに違いない。
それからも外国人の一行がムラを訪れ続け、その人数を増やして行った。
そして彼らの間で観光地として定着しつつあった。
そうなると国側も、何も言えなくなってしまった。
どうせろくでもないであろう研究所の建設計画は、ついに白紙となった。
英語の得意な直孝さんは通訳ガイドを始め、
空き家を利用して、新しく出来た民宿へ姉も手伝いに出た。
その改装や修繕に、よしのり親子も駆り出された。
俺はというと、赤坂の父と一緒に、家を記念館として一般公開し、
その運営と管理に大忙しだった。
その最初の客はゴールデンルーラーさんとフランベルジュさんだった。
来るなりゴールデンルーラーさんは言った。
「俺、工務店辞めて来たよ」
「は?」
とまどう俺に、フランベルジュさんもにやりと笑った。
「俺もとっくに会社辞めてるし、家族とも別れて来た。
犯罪も裏側のことなら、報復もまた裏側のこと…。
この活動に関わるってそういう事でしょ?」
「ホークスさん、この辺で貸家とかない?」
俺もにやりとした。
「嬉しいことに、ムラで貸家にできる空き家はもうない。
みんな改装して、土産物屋や民宿などになっている。
…が、うちにまだ空き部屋がある、そこの片付けを手伝って欲しい」
家の二階は非公開となっており、
姉の部屋だったところは直孝さんが使っているだけで、
あとは納戸と、空き部屋が2つ物置になっていた。
直孝さんも加えて、俺たちはそこを何日かかけて片付けた。
家はまた賑やかになった。
父も母も亡くなり、姉も嫁ぎ、俺自身も東京で就職し、
一時は空き家となっていた家に、
最初は銀鷹丸さんが来て、彼女が亡くなり、
敵たちがやって来て、俺の家族となった。
そこに今、ゴールデンルーラーさんとフランベルジュさんが加わった。
ある晩、ハリスさんが亡くなったという知らせを受けた。
彼は俺よりも年上だったし、
同年代でも亡くなる人がちらほら出てきたので、
何も不思議ではなかった。
裏で相当の事をして来たであろう人なので、
最初は報復されたのかと思いきや、
心臓病と何の事件性もない普通の病死だった。
問題はその後だった。
「お父さん、弁護士を紹介してもらえませんか?」
ハリスさんの家から帰った俺は、記念館のオフィスで赤坂の父に相談した。
玄関を入ってすぐの応接間がオフィスになっていた。
そこは赤坂の父の部屋も兼ねており、隅には姉が使っていたベッドが置いてある。
ハリスさんは家族もなく、親戚もいなかった。
遺産の全額を記念館を運営する団体に預けるので、
このムラのために使って欲しいと、正式な遺言書を生前に書いていた。
だが、赤坂の父と同じく彼もまた会社を持っていた…。




