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砂と塩  作者: ヨシトミ
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第57話 前科

第57話 前科


「覚えてますか? 俺、補佐やってた『ゴールデンルーラー』です!」


がっちりした方の男…湯元さんが俺の手を握りしめた。

ビール腹の方の男…犬飼さんもそれに続いた。


「軍師の『フランベルジュ』、もちろん覚えてますよね…!」

「えっ…えっ…なんで? どういう事?」


俺が驚きに目を白黒させていると、中から直孝さんが出てきて、

お茶をいれるから、上がってもらったらと笑いかけた。


「…和田さんとはあのゲームが終わってからなんです。

最初、犬飼さんが偶然『ユニティ』に行って、和田さんと出会って、

俺は犬飼さんからその話聞いて、

東京出張のついでに行ってみて、それから…」


座敷で湯元さんこと、ゴールデンルーラーさんが事情を話してくれた。

直孝さんは俺たちにお茶を出し、そのまま部屋の入口に座っていた。


「俺とゴールデンルーラーさん、あのゲーム終了後も連絡取り合ってたんだよ」

「そうだったのか」

「…ところでホークス、線香上げさせてもらっていいか?」


和田さんが仏壇に目をやった。


「ありがとう、もちろん」

「誰か亡くなったの?」


犬飼さんこと、フランベルジュさんも仏壇を見た。


「ホークスさんの前のご主人…銀鷹丸さんだよ」


直孝さんが答えた。


「えっ…」

「台風の中、近所の子供が面白半分に海へ行ったのを、

探して助けたまではよかったんだけど…代わりに彼女が波に飲まれて。

それっきり遺体もあがらなかった」


ゴールデンルーラーさんとフランベルジュさんも、

仏壇に線香を上げ、手を合わせた。

顔をあげて、ゴールデンルーラーさんが言った。


「ところでホークスさん、銀鷹丸さんを『前のご主人』て言うけど、

あれから再婚したの?」

「したよ」


俺は直孝さんに目をやった。

直孝さんはぱっと笑顔になって、声高らかに宣言した。


「それは俺…なんと! あの『マグパイ』とです!」


3人の客は揃って、直孝さんに注目し、

それから思い切り顔をしかめた。


「俺たち、愛し合っている訳ではないんですけど、

秀忠さんが俺の事情を思って、結婚という形にしてくれたんです。

俺がこれからもここで暮らしていくには、結婚なら全てが丸くおさまるから…」

「俺も昔、そうやって銀鷹丸さんに助けられたんだよ。

…で、3人で何しに来たの? 何か用事があるのか?」


和田さんが大真面目な顔でうなずいた。


「お前の活動を、店でフランベルジュさんにほんの噂話で話したら、

手伝いたいと本気で申し出てくれた」

「俺たちに出来ることはないですか? また一緒に戦いたいんです。

拳銃は扱えませんが、殺人ぐらいなら余裕でやりますよ」


ゴールデンルーラーさんがにやりと笑った。


「は? 前科つくだろ、遊びじゃねえんだ」

「大丈夫です、もう殺人と暴行で前科3つありますし」

「俺も殺人と不正アクセスと詐欺で前4つありますよ?」


…そうだった、それが「戦国☆もえもえダンシング」の客層だった。

和田さん達「ケミカルテイルズ」のやつらもそうだったし、

リアルイベントに来る客もみんな、そんな感じのやつらだった。



彼らの加入は大きな力となった。

和田さんがまず、夜の山中で彼らに拳銃の扱いを仕込んでくれた。

IT企業に勤めるフランベルジュさんは、当然その道に長けており、

ゴールデンルーラーさんは、意外なことに窃盗に長けていた。

そうして得た情報をもとに、俺が交渉し、直孝さんが脅す。

武力はムラの男たちと上杉のやつらが担当してくれる。

俺らの犯罪は赤坂の父がもみ消す。

何をしても、それは全て裏側のこと…。


そうした積み重ねの成果が、政界という表舞台にも表れ、

どうせろくでもない研究所の建設計画は白紙に傾いた。

しかし、どうしても排除せねばならない敵がいた。

その人がいる限り、多数決には勝てない。

なぜなら彼は、人と人をつなげる人だったから。


表も裏も、普通のやり方なんかまず通用しない。

同業者なら、同業者らしく、穏やかに行かねばならない。

そこで、俺はひとりで彼の家を訪ねた。

隣の県の山の中に住んでいるから電車でも行ける。


そこは赤坂の父が前に住んでいた、東京の屋敷に似ていた。

広い敷地に広い日本庭園、大きな日本家屋…そこまでは一緒だった。

違うのは、家が新しい事と、家具や装飾品や絵画が派手なくらいか。

きっと家の歴史となりたちが違うのだろう。


約束は事前に取り付けてある。

使用人の男が出て来て、中に通してくれようとしたが、

俺は庭先で結構と断った。


縁側に腰掛けてしばらく待っていると、俺の後ろに影が覆い被さった。


「赤坂さん」

「『ホークス』で結構ですよ、張本さん…いえ、『ハリス』さん」


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